9.【龍と獣3】

 ナトレータを抱えたまま屋根を走る。


「先輩!!先輩!!よかった!!」


「ナトレータも無事でよかった。

僕も殺されると思ったけど、男が変な注射を打ってこようとしたから抵抗して逆に打ってあげたんだ。」


「せっ・・・先輩まさか・・・」


ドゴンッ ドゴンッ

 振り返ると黒い猿が追いかけてくる、口元から血を滴らせながら。


「ああぁ!!あの注射打たれた人を『魔獣』に変えるんですよぉぉ!!」

「えぇぇ!!とにかく逃げよう!!」


 魔獣が屋根を拳で叩き亀裂が入る、亀裂が広がっていき屋根が崩壊する。

ドゴォォォ


「いたたっ、ナトレータさん大丈夫!?」


「ええ。でも先輩どうしましょう。あんなのどうやっても敵いませんよ!!」

 

ナトレータは三船の上で絶叫する。

三船はナトレータを抱え直してドアを開けて走り出す。


「別に戦わなくたって君を守れればそれでいい!!守るって言ったから!!」


ドンッ

衝撃音と瓦礫と一緒に魔獣が入り込んでくる。


ナトレータを抱えたまま走る。

魔物がどんどんスピードをあげて近づいてくる。


「先輩!!窓から外に出ましょう!!」


何も考えずにナトレータの言葉に従う、ナトレータを庇いながら背中で窓を突き破る。


パリィンッ バサァ


ナトレータから翼が生えて上空を滑空する。

ナトレータの腰にしがみつき、彼女は必死に羽を羽ばたかせる。


「すみません。まだ薬の効果が抜け切ってなくてあんまり飛べなさそうです。」


「ありがとう!!あっそこに車がある!!それで逃げよう。」


ドゴォォォ 


 魔物がこちらに飛びかかってくる。

地面に着地した魔獣はこちらが着陸するのを待つように追いかけてくる。


「先輩!!高度がどんどん下がって行きます!!」


「僕がひきつけるから君は車の用意をして!!」


「でもそれじゃあ先輩が!!」


「大丈夫僕が守るって言ったでしょ。それじゃ!!」


 手を離す。

落下を目掛けて飛びかかってくる魔獣に弾を撃ち込んで怯ませる。


中庭の中央付近に落ち、受け身を取る。

ライフル銃を構え状況を分析する。残弾無し。

ゴロツキから奪ったナイフが一本、周りは火に包まれている危機的状況。


「さて残り30分で俺の意識が切れるわけだ。これはいつもよりも厳しい。」


「グワァァァッ」


 魔獣が爪を斜めに振り下ろす。

銃を横に構えて斬撃を防ぐ、爪が当たった瞬間に銃を少し斜めに立てて軌道を逸らす。


 左肩に爪撃が当たり皮膚と肉が切り裂かれて血が噴き出す。

だが傷は浅い。

 銃は斜めに真っ二つになった。

魔獣が振り抜いた手が地面へ刺さる、その腕に斬られた銃を突き刺す。


 ズブゥゥ、ズブッ 


 もう一方の手がこちらを切りつけようとするが上体を逸らして避ける。

腰に隠していたゴロツキのナイフを取り出して構える。

二箇所に刺した銃のおかげで腕はだらりと垂れ、刺した片方の銃の銃口から血が流れ出ている。


「グワァァァァッ」


 片方の手で地面を叩いて亀裂を作る。

踏ん張って揺れに耐えているところに魔獣が突っ込んでくる。

転がって避けるとそれを追うように魔獣の口が噛みつこうとガチン、ガチンと追ってくる。 


 魔獣が上体をあげて爪を振り下ろそうとしたところで、一気に懐に入り込む。


魔獣の左腿をナイフで突き刺して素早く抜き取る、そのまま股を滑るように抜け魔獣の背中にナイフを突き刺す。

ナイフを抜き取って後方へと飛び退く。


「どうだ・・・いくら化物でも血がなければいずれ死ぬだろう・・・。」


「グギィ・・・ギァァ」


 周囲の煙がどんどん濃くなり庭の草花に燃え広がっていく。

魔物がゆっくり近づいてくる。


「グギヤァァ」


 魔獣が咆哮を上げて大地を蹴り上げる。口を大きく開けて一口に飲み込んでこようとする。


「くたばれ!!」


 魔獣が飛び込んでくる寸前に少ししゃがみ、地面を蹴って勢いをつける。

垂れている腕の方向に体を避け獣の首を背後からナイフで突き刺す。


「ギヤァぁぁぁぁあっぁ」


 人と獣が混じったような断末魔を上げて魔獣が地面に伏せる。

炎の勢いがどんどん強まり、獣の死体も燃えて行く。


 俺の呼吸がだんだんと浅くなる。

だがここで死ぬわけにはいかない。

かすかに聞こえるエンジン恩を頼りに音のする方へと歩いて行く。


ーやがて館を火が包み込んで全てを焼き尽くした。



「先輩!!よかった無事だったんですね!!」


「うん、偶然中庭の床が抜けて魔獣があの地下に落ちたんだ。どうにか逃げられたよ。」


「先輩が勝手に飛び降りるからっ!!あんな無茶はやめてくださいっす!!」

 

 ナトレータが車の前で泣きながら怒ってくる。それでも余裕ができたのかいつもの口調が混ざる。


「まぁとにかく急いでここから逃げよう。ナトレータ運転できる?」


「ナトレ・・・そう呼んでください。」


「ン?」


 ナトレータが抱きつきながらトロンとした目で見つめてくる。

ナトレータが胸部をこちらに擦り付けて、頬を赤らめながら見てくる。


「ほら・・・先輩ぃ~。」

頭をペシンと叩く。


「あうぅ。」



「状況を考えなさい。それに後五分くらいしたら多分気絶するから運転ができない。」

「何でそんなに具体的にわかるんすか!?」

「君が運転できないなら急いで『霧江』の近くまで行かないと。

寒くて死んじゃうよ。」


「その時は私が・・・」


「ほら早く乗って!!」

 

 車をアクセル全開で走らせて意識が保てるギリギリのところまで走らせる。しかしいくら離れられたとしても、火事の騒ぎを聞きつけた軍兵達からは逃れられるが『霧江』には辿り着けない程距離が離れている。

 

 不服だったが車を途中で乗り捨ててナトレに春ニの肉体を任せることにした。タイムリミットになり意識が離れていく・・・


・・・翌朝鳥の鳴き声で春ニ目が覚める。

春ニの目が覚めた時、自室のベットで横になっていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る