8.【龍と獣2】

 領主は三人の護衛と一緒に自室へとナトレータを連れて行き、豪華なソファーに腰を下ろす。

ナトレータは部屋の中央に立たされる。


「先輩を助けて、今すぐに!!」


 領主はその言葉を無視して机の上のワインボトルを開ける。

グラスに並々と注いでいく。


「貴様は私の心を掻き乱した。罰を与えなければならんな。」


「」


 領主はグラスを持つワインに口をつける。

肥えた顎が揺れて、口元にワインが滴る。


「つまみが欲しいな~。そうだ、

一枚ずつなぁ~。」

 

 領主は周りの護衛に合図して銃を向けさせる。銃口が全て私の方へと向く。


「会社の皆にはこれ以上手を出さないで。約束してくれたらもう逃げないし命令だって何でも聞くわ。」


「この私に命令しようと言うのか?貴様に何ができる。

交渉というのは対等な立場でやるべきだ。

貴様には何がある?薄汚い魔族の血が流れているだけだ・・・違うか?」


 ナトレータは先ほどから何度も自分の体を龍に近づけようとしているが、変化しない。


「良いか。

お前にはエルフが太古に対魔族用に使っていた抑魔薬を打ってある。

お前らは黙ってこのワシのいうことを聞くしかない、分かったらさっさと脱げ。

いや・・・面倒だ。

おい!!お前らそいつを抑えろ!!」


 二人の男に両腕を掴まれて立たされる。



バツンッーバツンッ 


 乱暴に首元を引っ張られてワイシャツのボタンが外れる。

胸からへそ辺りまでが露わになる。


「フヒィィぃ、なかなか良い体をしているではないか。たっぷり楽しんでやる。」

 

 涙が出そうになる、誰一人守れなかった。

先輩も皆んなも、自分さえも守れなかった。


もう全てが無駄なんだ。


ダッダッダッダ


 扉が勢いよく開かれて兵士が一人部屋に入ってくる。

敬礼をすると声を張り上げる。


「領主様大変です!!火事です!!この屋敷の各所で火事が発生しました!!」


「なっ!!」


「すぐにお逃げを!!」


 領主は少し考えて鼻を鳴らす、


「そう言う割に焦げた匂いがしないぞ・・・それに匂うのは汚いネズミの匂いだ。」


 領主はカーテンを開けて窓を開ける。

館はロの字型になっていて中央には庭がある、それを囲むようにして二階だての建物が建っておりこの部屋だけは三階になっている。この部屋からは全ての部屋を見渡せる。


「火事など起きてはおらんぞ。」


「いえいえこれから起きますよ。。」


 領主が振り返った瞬間に兵士の背後からもう一人兵士が走り込んでくる。


「領主様大変です!!火事です!!この屋敷の各所で火事が発生しました!!」

 

 先ほどまで何ともなかった屋敷の各所に火が見えだした。

部屋にいた全員が窓の外を見た瞬間に、入ってきたばかりの兵士の顔面に拳がめり込む。

その拳は先に入ってきた兵士のものだった。


 鼻血を撒き散らしながら兵士が倒れると、その兵が持っていたライフル銃を奪い私の方へと走ってくる。

私を掴んでいる男を銃床で殴りそれと同時にナトレータを抱き寄せる。


「貴様っ!!」


 男の一人が銃を向ける。銃口を下から叩き上げて、そのまま真下に振り抜く。

男が被っていた帽子を脱ぎ捨てる。


「私は月照帝国の男児です。さあ、お次に月照帝国の剣術を味わいたい方は前に出てください。」


「先輩!!無事だったんっすね!!」

 

ナトレータが三船に抱きつく、三船が顔を赤らめながら銃床を目の前の衛兵に向ける。


「貴様等ネズミどもがこのワシの邪魔をしおって~!!おい衛兵ども!!集まれ!!こいつを殺せ!!」

 三船は銃を肩にかけた後、ナトレータを抱えて窓の方に走る。


「ちょっななにを!!」

「ここで戦っても君を守れないから、格好が悪いけど逃げる!!」


 銃を取ろうとする衛兵達よりも早くかけ放たれた窓に駆け抜ける。


「そうはさせんぞっ!!ブッー」

「邪魔っ!!」


 領主の顔を一蹴りして窓から屋根に乗る。

先輩は私を抱えたまま屋根を駆け出した。



「何をしておる!!追えっ!!おっ・・・」


「ヒッあの野郎!!ギヤぁぁぁぁぁぁッ」


「嫌だ嫌だぁぁぁぁ」


 振り返ると部屋の中に猿のような生き物が入り込んでいる。部屋の中にいる兵士を次々と殺している。

一人は頭から、もう一人は握りつぶされて、もう一人は体が引き裂かれて。


「や・・・やめろぉぉ。近づくなっこのワシを誰だと思っておるぅ。」


 わしの方へとゆっくり近づいてくる。尻餅をついて失禁してしまう。

眼前に獣の顔が迫る、人だった頃の面影を残しながら獣へと変化した顔。

顔に猿のようなシワを刻んで、目が爛々と紅く光る。


 だらしなく開かれた口から無数の歯がすり金のように生え、涎をダラダラと垂らしている。

目の前に無数の尖った歯が迫る。


「グルラぁぁぁぁぁァァァ」


「ぎぁぁぁぁぁあぁ」

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