第一章 【ウォーレン連合王国動乱 ー大陸暗躍編ー】
1.【きっかけ1】
本日は快晴。春の日差しが差し込んで心地よい。
今日は休日を利用して、『霧江』の町を久々に堪能しようと考えていた。
クローゼットから紺色のスーツを取り出し、戸締りをする。
自室の扉を開けると部屋の前に麗奈さんが立っていた。
「あれ!?麗奈さんっ?何か御用ですか?」
「あっ・・春二くん!!偶然だね、お出かけかな?こんな日はどこか遊びに行きたいよね~。」
妙に早口で喋る麗奈さん。
なんだか落ち着かない様子で立っている麗奈さんだが、一体何をしにきたのだろう。
西国風のロングスカートに袖がフリルになっている白のシャツ、これから出かけるのだろうか。
「」
「」
そういえば帝都の雑誌で見たことがある、女性の買い物はとても量が多くて持ちきれないそうだ。
麗奈さんはきっと僕に荷物係としてついてきて欲しいのだろう。
何も言わずついて行って荷物をスマートに持ってあげる紳士はめちゃくちゃ格好が良い、確か帝都の雑誌にも書いてあったはず・・・よし。
「麗奈さんが良ければなんですがぜひ一緒に出かけませんか?」
麗奈さんの表情がパッと明るくなる。
「いいの!!じゃあついていこうかな~。」
花のように美しい笑顔を向けられたら男冥利に尽きるというもの。
僕達は社員寮からでてそのまま『メインストリート』へと繰り出した。
『
多種族が行き交う大通りは露店や小売店が立ち並ぶ、最近は帝都の真似をした『デパート』も出来たらしいがまだまだ大通りの方が賑わっている。
大通りを二人並んで歩いていく、麗奈さんは瞳をキラキラと輝かせながら商品を手に取って行く。
「みてみてこの服!!『サルバン大帝国』の衣装だって~。可愛い~。あっ!!あっちの方行ってみよ!!」
モコモコとした白い毛皮のコートを羽織ってこちらに笑いかける。
普段とは違って年相応の女性のような綺麗な笑顔に釘付けになる。
惚けていると、いつの間にか手を引かれて歩いていた。
大通りを抜けて、広場へ辿り着く。中央のステージを中心に料理店やカフェが軒を連ねる。
僕達は広場のベンチに腰を下ろす。
「あ~楽しかったね。久しぶりにはしゃいじゃった!」
「僕も久しぶりです。誰かと一緒に街を歩くのは子どもの頃以来です。楽しかった。」
「その誰かってもしかして・・・」
ステージから鳴り響く太鼓の音で、言葉の続きはかき消された。
ステージにきらびやかな衣装を着た役者達が上がっていく。
「これよりみせるは『
かつて魔物がこの大地を蹂躙し、生命は恐怖に怯えた!!
魔物を率いるは魔王、膨大な魔力と不死にも近いその生命力に打ち勝つものなど存在しなかった!!」
「だが時代は救ってくれた!!
エルフは賢者、ドワーフは兵器と武器、人は『勇者』を生み出したのだ!!
そしてこの世界から魔力を消し去ることと引き換えに『魔王』を眠りにつかせたのだ!!」
演者が一礼すると周囲から盛大な拍手が送られ、それを合図に演舞や踊りなどが始まっていく。
「春ニ君、あの劇みたいに皆んな手を取りあえば平和なのにね。」
「・・・そうですね。あっ!!お昼食べません?何か買ってきますよ!!」
ベンチから立ち上がり適当な方向へと走っていく。
「あっ、ちょっと!!もう女の子を置いていくなんて・・・もう!!」
兄のことを思い出してしまった。
最初も最後も、こうやって露店を見て回ったのは兄と一緒の時だけだ。
いつも手を引いて劇や紙芝居を見る、街に行ったことがバレないように孤児院へこっそり帰る。
これが兄弟の唯一の楽しみだったのに。
とにかく何か食べ物を買おう。
そう思って前に進むが、人の流れに押し流されて小道に入ってしまった。
今まできたこともない暗くてジメジメした裏路地だ。
引き返そうとすると声が聞こえる。
「やだ!!離して!!」
「うるせえ女だ。いいから来い!!」
声のする方へと走り、十字路へと差し掛かる。
路地の中心に、赤い髪の女の子の手を乱暴に掴む二人のゴロツキがいた。
「ちょっとあなた達、何をしているんですか!!」
「なんだぁ?ヒョロッちいガキがでしゃばるんじゃねえ!!」
男が拳を振り上げる。
その拳が目の前に来た瞬間に掴んでその勢いを利用してそのまま男を投げ飛ばす。
「ーグォォっ、コイツっ!!」
女の子は一瞬の隙をついて男の手を引き離して逃げた、男が女の子を追おうとしたその時にー
「誰かー!!火事よ~!!」
「なぁ!?くそっ、引き上げだ!!」
騒ぎを聞きつけて野次馬達が集まりだすと男たちは、女の子が逃げた方向とは逆の小道に逃げていった。
「まったく君は無茶をするんだから。あと女の子を置いて勝手に行っちゃ駄目だよ!!」
麗奈さんが息を切らしながら走ってくる。先ほどの声は麗奈さんだったようだ。
「すみません。」
「でもすごいね!!自分より大きい男の人を簡単に・・・格闘技でもやってたの?」
「ははは。兄に少し教えられたもので・・・」
「そう・・・お兄さん強かったんだね。」
その日は昼食を食べて社員寮へと帰った。
麗奈さんは兄については何も聞かないでいてくれた。
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