0.【コードネーム『死神』6】
あの男はうまくやってくれるだろうか?
あの男がついさっき脇を通っていったから追手がうまく罠にかかったと言うことで良いのだろうか?まあ仮にトランクを盗られてもあれは荷物車両にあった適当なトランクだ。自分のトランクはしっかり預けてあるし、持ち主には悪いが俺の命と祖国の為だ。
可愛い娘に恥じない外交官になるはずが、いつの間にかスパイまがいの仕事までするようになってしまった。
だがこれもこの世界のためだ。あの国はまずい!!
どんな犠牲を払ってもこの情報だけは持ち帰らねばならない!!
「あの〜お客様、すみません少しお時間よろしいでしょうか?」
細くも鍛えられた体を持つ黒髪の青年の添乗員がみみうちしてくる。この男に荷物を手渡したことを思い出した。
「お客様のトランクなのですが、似たようなトランクが多くてですね…札をつけていたのですが紐が緩くて取れていたようです。
上司にバレてしまったらこの列車を降ろされてしまうかもしれないので確認していただけませんか?これでお願いします。」
男は自分の手に数枚の紙幣を握らせてきた。まぁ逃走経費はなるべく多い方がいい、このまま荷物を受けとってしまえば早く帰れる。
頷いて添乗員について行く。手荷物車両の扉を開けて先に入るように促される。
ガチャン 振り返ろうとしたその瞬間ー
ボキンッ・・
◆
ボォォォ 黒煙を上げながら広い大地を『つばめ』が走る。『青原あおばら』を出発してから二時間が経過した。
エルフの婦人は能力を使って周囲を観察する。
( 手荷物車両の方で波紋が見えた。二つの波紋だ。そしてそのうちの一つが消えた。
波紋が消えたということは・・・片方が殺されたという事になる。
他の国の諜報員が殺されたのかしら・・・。
駅について手荷物車両に大勢の人が向かったから殺した方の波紋なのかわからなくなってしまった。
追手かしら?逃げるにしても今は夫が酔って寝てしまっている。
大丈夫、文書も隠したし武器も当然ある。
私にはこの能力がある、何人もの敵をこの力で抹殺してきた。
『相手の動きも、弾丸も波紋が知らせてくれるから何をするのかも予想できる。』)
波紋が一つ近づいてくる。
寝台の枕に隠した拳銃を取り出す。扉に近づいて覗き穴から確認する、先ほど料理を運んできた少年がワインを抱えて立っている。
夫がこっそり頼んでいたのだろう。
「お客様、ワインをお持ちいたしました。」
「待ってて、今開けるわ。」
ガチャ
鍵を開けて中に入れる。当然、銃を見えないように背後に隠す。
少年がワインを差し出してくる、少年の手は先ほどと違い布が巻かれていた。可哀想に仕事中に怪我をしたのだろう。
「あなた怪我しているじゃない。少し待ってて、今ワインを受け取るから。」
「いえ!!お客様、私がお運びいたします。」
「ダメよ、もし手が滑ってワインが割れたら大変よ。」
少年に顔を向けたまま、拳銃を見えない場所へ隠しに行く。寝台の枕の下でいいだろう。
シュルッー
首に何かを巻かれ首を絞められる、背中を蹴押されて仰反のけぞる。声が出ない。
「あ“ッッッ、……ッッッガッ」
油断した。呼吸ができない、まさかあの少年がッ。でもまだ間に合う、もう少し手を伸ばせば手がとどッー。
背後から思いきり力を込められて蹴られる。
ボキンッ
「ケイト、ベットに飛び込んだのかい?ハハハッ昔の君もそんなだったね〜。あれ君そんなに髪が短かったかい?」
ボキンッ
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます