第42話 急襲
~9月14日、午後1時。仙台駅前~
普通の魔術師として生きていくようになって数週間。
この日は平穏な生活の一貫として、瑠莉奈と二人で街をうろつくことにした。
あろうことか、俺は日々を退屈だと思い始めてしまった。
今までの騒動が、決して楽なものであったとはいえない。
物損も、怪我人も、なんなら死人も出ている。
しかし、この平穏は。
普通の日々は、俺には物足りな過ぎたのだ。
「……兄さん?」
瑠莉奈がこちらへ右手を伸ばす。
「ん?」
「大丈夫?何か……変でしたよ、兄さんの目」
「そういうお前も。さっきから拳が震えてるぞ」
「……あれ」
俺が瑠莉奈の左手を指差すと、瑠莉奈は目を逸らしてその手を開いた。
「落ち着かないのは、お互い様みたいだな」
「そうですね」
「何だかなぁ。俺、魔術師になった時……戦いの恐怖にそこそこやられてた気がするんだよなぁ。お前と会って、その怖さよりもお前と一緒に過ごす喜びが上回って、魔術師を続けてく決心が本当に固まったんだ。……でも今は……そんな恐怖と狂気に塗れた日々を、心のどこかで欲している。今こうして、何も出来ない俺の内側で、何かが爆発しそうなんだ」
「私もです。……私達がこうして普通っぽく過ごしている間にも、上で何が起こっているのか……。この妙な作られた不自然な平穏……もどかしいです」
「……帰ったら、蘆屋先生を訪ねてみよう。俺達に何かできることがないか、聞きに行くんだ」
「賛成です。このまま燻ってる訳にもいきませんもんね!」
俺達は仙台駅前を彷徨い、宝石や武器たり得るものをいくつか買って学園へ戻る。
しかし朝に出発した学園は、すっかり変わり果てた姿で網膜へ映っていた。
「……何が、あったんだ」
「ベルちゃん?霊音ちゃん?蘆屋先生!?何が、どうなって……!」
学園を取り囲む天使達と戦う魔術師達。
その中には蘆屋、霊音、そしてベルも含まれていた。
「おお、二人とも!帰ってきたのか!ちょっとわらわ達に加勢しろ!圧倒的に人数が足りん!」
「ちょっと……ピンチ」
「ボクの魔術は周り巻き込みがちだからネ、本領発揮できないんだヨ。……てな訳で、タスケテー」
「だぁぁぁ!何が何だかよく分かんないけど行くぞ、瑠莉奈!」
「は、はいっ!」
俺と瑠莉奈は飛び出すように学園の敷地内へ足を踏み入れた。
「【ビームソード】!!!今まで暇してた分、全部当たり散らしてやるぜぇぇぇぇぇッッッッッ!!!」
「バエルとアガレス、ソロモン72柱の序列のツートップが集まった今、負けなんてありえません!」
次から次へと天使を斬り裂き、先へ。
しばらく無茶な魔力の遣い方をしていなかったからだろうか。
杖から出る刃が、嘘みたいな高出力と化している。
「【毒霧】ッ!破ッ!」
瑠莉奈は岩を放出し、その岩を砕くことで大量の呪いと毒を放出。
空を飛び回る天使は、次から次へと倒れていく。
「しかしとんでもない数だな」
「そうじゃな……面倒くさいったらありゃあせんわい!【サンダー・ワールド】」
ベルの雷が、天使達の羽を焼き尽くす。
「わぁ、綺麗……」
恍惚とした表情の瑠莉奈。
俺はその顔に危うさを覚えながらも、ビームソードを振り続ける。
しかし天使は絶えず、それから降り注いでいた。
奇師奇喪-クシクモ 最上 虎々 @Uru-mogami
サポーター
- つるよしの《受賞歴》カクヨムコン9【エッセイ・ノンフィクション部門】短編特別賞・第二回角川武蔵野文学賞ラノベ部門大賞。 コロナ禍を機に執筆開始。“作品は鈍器。物語とは「静と動」「喜怒哀楽」どの方向でも感情を激しく揺さぶるものでありたい”という性癖の物書きです。 または、たとえ短編であっても、読了後には映画1本見終わったくらいの充足感を与えたい。 なのでそういう作品を書きがち&読みがち。でも重い作品も多いですが全てをエンタメのつもりで書いています。 本業はギャラリー店主。リアル小説イベントも主催。
- 無名の人「愛される老人」を目指している自由人 (星の王子さまになりたかった元少年) です。 必要な人のもとへ、メッセージが届くことを願っています。
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