第26話 偵察
6月24日、午後5時。
「【バラル】」
午前中に書庫へ行き、閲覧できる限りの文献と記事に目を通した俺と瑠莉奈は、予定通り手分けして、瑠莉奈はベルを、俺は山村の後をつけ始めた。
その際、不慮の事故などで気付かれることを防ぐために、「二人の視覚と聴覚」から「俺と瑠莉奈の存在を遮断」することで、俺達が立てる音と姿を認識できないよう、瑠莉奈には念入りにバラルをかけてもらっている。
長い長い廊下を抜け、屋外へ。
そのまま特殊なドームで山林に偽装された庭園も、学校の裏門も抜け、山村についていった先にあったものは、
「……民家?」
一見、何の変哲もない民家であった。
二階建てで、ベランダがあって……それはどこからどう見ても、「普通の家」だ。
ベル達は、こんなところをアジトにしているのだろうか。
「連盟」というくらいなのだから、もう少し大きな集団だと思っていたのだが……思ったよりも拠点はショボ……コンパクトになっているようだ。
俺は山村に急接近して、山村が扉を開けて屋内へ入る瞬間を狙う。
そして、山村の股下を潜り抜けるかたちで一緒に家屋の中へと滑りこむ。
侵入成功。
ここまでやってしまうと、もはや偵察でも尾行でも無いような気もしてきたが……。
ここまできたら、覗けるところまで覗いていくとしよう。
……と思っていたのも束の間。
「え?」
視線が床と同じ高さになる。
そして、そのまま身体は床下へ。
下へ下へ、落ちていく。
「お、落とし穴ッッ!!?」
改めて上を見ると、山村の身体は浮いている。
しまった。
この家の仕掛けを知らない侵入者を落とすための落とし穴だろうか。
そして、玄関が落とし穴になっていることを知っていた山村は最初から浮いていた、と。
そして、俺がこの家に滑り込んでから少し経った後に落とし穴が開いたということは……玄関が人感センサー或いはそれを魔術で再現した落とし穴になっているということなのだろう。
「痛ァッッ!?」
4メートルくらいの高さから落とされたようだ。
何とか受け身をとれたから良かったものの……。
侵入者の命は奪わないまでも、まともに動けなくなる程度には怪我をしそうな高さである。
当然、脱出するための梯子は無い。
そして、「バラル」が裏目に出たせいか、山村は俺に気付かず廊下の先へ向かってしまった。
……どうしよう。
俺はスマートフォンを取り出し、瑠莉奈にメールを送った。
「とりあえず……上に登る手段を探しつつ、助けを待つかぁ」
勝手に忍び込んでおいて言うのもどうかとは思うが、とりあえず、山村や他の誰かが見つけてくれるか、偵察を終えた瑠莉奈が助けてくれることを期待するとしよう。
今回も、俺は活躍できなかったようである。
落とし穴に落ちて、来るかどうかも分からない助けを待つだけの俺。
……本当に、ただの役立たずではないか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます