第31話 アンチ・ビースト その3
天羽派魔術師達の魂魄弾は、ベルの「包囲藻」に防がれる。
そして、ベルの岩は一方的に包囲藻をすり抜けて三人の魔術師に命中。
俺の出る間も無く、魔術師達は路面に頭を打って気を失った。
「さあ、先に行きましょう!ベルちゃん、兄さん!」
「はっや」
交戦開始から終了まで、僅か10秒程度。
教会から次から次へと現れる魔術師。
まだまだ天羽派の魔術師は控えているようだが……。
「応援を!応援を呼べェーッ!!」
「ここは通さんぞ……!」
「やかましい。殺すぞ小童が」
「どいて下さい!邪魔です!」
「ぎえっ」
「ぎゃああああ!!」
この分なら心配無さそうだ。
「何か……二人ともよく分からないくらい強いな。次元が違う」
「そうじゃろうそうじゃろう」
横道を見ると、気絶した魔術師があちこちに転がっている。
概ねこちらの連盟が優勢のようだが、現地の連盟員らしき魔術師もちらほら吹き飛んでいるようだ。
連盟員か天羽派の魔術師なのか、その判別は纏っているローブの装飾で分かる。
連盟員として動いている今日の俺達は藍色を基調にすみれ色でひび割れたような装飾が施されているローブを纏っているのに対し、天羽派は黒のローブに狼を模したつもりか、少し破れたような装飾が各所に施されている。
……それにしても、天羽派にベルゼブブ連盟、か。
「天羽派」というのはまだ理解できる。
文字通り、ベルがやけに目の敵にしている「白狼の魔術師」こと「
何に対する何の派閥なのかはちんぷんかんぷんだが。
だが「ベルゼブブ連盟」というのは、本当に由来の何もかもが分からない。
「連盟」とは何のことだろうか?何のために作られた団体なのか?
それに……。
「ベルゼブブ」とは何なのか?
リーダーの名前は「マーキィ=フェリディア=ベル」だし、そもそもベルは「マリナ=フェル=ネア」と名乗っている筈だ。
ベルゼブブ……ねぇ。
どこかで聞いた事があるような言葉……だとは思うのだが、何のことなのか、全くもって思い出せない。
……それにしても。
「ベルゼブブ連盟……意外とデカいんだな」
「そりゃそうじゃ。連盟員はスコットランド、イングランド、フランス、イタリア、ドイツ、アメリカ全域、そして日本。これらの国家に合計3000人程度おる。わらわのカリスマ性を舐めてもらっては困るな」
「イギリスをまとめて一つの国と考えても一国あたり平均500人くらいかぁー……」
「そう言うな、魔術師の母数自体大したこと無いんじゃ。一つのサークルがこれだけの国家に広がって、ここまで人員が集まったとなれば大したもんじゃろ」
「それもそうだな、すごいすごい」
「気持ち込もっとらんなぁー」
「あんま実感湧かないんだよなー。なんつーの?友達が偉人になったからって、その友達に会っても『すごい友達』以上に感じないっつーか。瑠莉奈が『アガレス』に襲名されたって聞いてからも、俺にとって瑠莉奈は『ただの妹』のままだし……デカい連盟の主だってのは分かったけど」
「フフン、そうじゃろそうじゃろ。見ておれ、これからもっとスゴくなるからのう!……それにしても、あやつが『ただの妹』……ねぇ」
会話しながら戦う俺達の目先、最前線にいつの間にか突っ込んでいる瑠莉奈にベルは視線を合わせる。
「何か知ってるふりな口調じゃん。何だ?俺がいない間に悪口でも言ってたのか?」
「そんなんじゃあないわい。アガレスは……奴は生前と変わらず、貴様を愛しておる」
「ええ、そりゃあもうひしひしと感じますとも」
逆にアレで俺のことを嫌っていたというのなら、俺はもう誰も信じられない。
「じゃが……道明よ。あやつが今、わらわ達の話を聞いていないじゃろうからこそ話すのじゃが……あの悪魔を『加茂 瑠莉奈』と呼んで良いのかは、正直なところ微妙だと思うのじゃ」
「あれが瑠莉奈じゃないって?」
「いや、そういう訳でも無いのじゃ。その……」
「何だよ」
「いや、何でもない。貴様には酷な話じゃ」
「ここまで言ったなら言い切ってくれよ!?気になるんだけど!?」
それが酷な話ならば尚更である。
「なら仕方あるまい、これも理というものじゃ。人ではないが人生の先輩として、たまには人生は甘くないということを教えてくれよう」
「お、おう。覚悟は決めたつもりだ」
「……悪魔アガレスは……あやつは、お前の知っている妹の『瑠莉奈』の概念を持ちながら、全くもって本人ではない可能性があるのじゃ」
「えーっと……?」
「あやつは蘇ったお前の妹そのものではなく、お前の妹……『瑠莉奈という概念を材料に作られた悪魔』、いわばコピーかもしれないと、そう言っておるのじゃよ」
……は?
「……マジ?冗談だったら軽くお前をブン殴らなきゃいけなくなるけど」
「わらわがそんなつまらん冗談を言うとでも思ったか?」
「いや、でも、そんな簡単に信じられるとも思わねーだろ」
「気持ちは解らんでもない。それに、あくまでも可能性の話じゃ。本人では無いと決まった訳でもない。……じゃが、あやつは少なくとも生前の瑠莉奈とは違う」
「生前の瑠莉奈を知らないお前が何でそう思うんだよ?」
「本人がそう言っておった。『今の自分は瑠莉奈ではなくアガレスの名を受けた悪魔』だと、『人格と記憶が辛うじて自身を瑠莉奈たらしめているが、悪魔として過ごしていく中で、それがいつ、どのように変わっていってしまうか分からない』と。……『今の自分が生前の自分と違うことをハッキリと自覚する事が怖い』と!あやつはそう言っていたんじゃ!自らの口で!あやつと同じく、もはや人間ではないわらわに、それを相談したんじゃ!」
「……瑠莉奈が、そんなことを」
「貴様も気付いていたんじゃあないのか?生前と少し性格が変わっていたことに」
物静かだった生前と比べて、確かに今の瑠莉奈は積極的というか、アクティブだ。
まさか、本当に。
「瑠莉奈……」
「まあよい。……じゃが、あやつの名誉の為にも言っておこう。わらわは最初に、『あやつを瑠莉奈と呼んで良いのかは分からない』と言ったな」
「ああ」
「あの話はわらわのような他人だけにかかる話であって……そなただけは、いつまでもあやつを『瑠莉奈』と呼んでやって欲しいのじゃ」
「……勿論だ。たとえあいつがコピーだったとしても、瑠莉奈であることには変わりないし、それが生前の瑠莉奈と別の存在だったとしても、瑠莉奈によく似た二人目の妹として大切にする。それに、本物の瑠莉奈だったら瑠莉奈だったで、性格がいつの間にか変わっていったとしても、それはただの肉体の性質に適応して成長しただけだ。俺にとって、あいつはいつまでも俺の大切な妹だよ」
「……それが聞けただけでも、この話をした甲斐があったわい。いつ襲われるとも分からぬ状況でこんな話をしてしまって済まないな。あやつが遠距離から盗み聞きでもする手段を隠し持っているかも知れなかった以上、こうしてあやつがこちらにまで神経を裂けない状況を狙うしか無かったのじゃ」
ベルは胸を撫で下ろし、俺の手を取って低空飛行を始める。
「え、ちょ」
「さあ、お話は終わりじゃ。貴様の妹が待つ最前線まで飛んで行くぞ!」
「お、おう、分かったぁぁぁぁぁぁ!?」
俺の足もフワリと浮かび、そのまま上空へ。
スカイダイビングのような体勢をとって滑空を始める。
向かうはサン・クロワ大聖堂。
数十秒で、こちらへ手を振る瑠莉奈の姿が見えた。
いよいよダンジョン突入といったところだろうか。
大聖堂の中央に隠し階段が見える。
俺達はついに、思わぬ神秘へ到達しようとしているのかも知れない。
アンチ・ビースト作戦は、新たなる局面へ突入しようとしていた。
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