第41話 普通の魔術師

一ヶ月後。


俺達は、普通の魔術師として普通に講義を受けていた。


様々な魔術や理論を学んでいく中で、瑠莉奈と霊音は新たな魔術を習得したり、魔道具や魔法薬の使い方を学んでいったが、俺は新しい魔術を覚えるでもなく、普通以上に魔道具や魔法薬を使うことができるでもなく、特に何か、俺の実になることはそう多く無かったと思う。


「いくよっ!【毒霧】!」


「突き落とす人形……【千竜落とし】」


「地を這う力……【幻の炎】!」


「人形の新しい操作の試み……【受け流す傀儡】」


俺達以外には誰もおらず、貸し切り状態になっている訓練所。


そこで瑠莉奈と霊音は、最近覚えた様々な魔術を披露し、見せあっていた。


しかし俺は例にならって、


「【ビームソード】……。以上ッ!!!」


これだけである。


瑠莉奈は特に混沌魔術に関する講義を、霊音は魂魄魔術と武装を強化する魔術に関する講義を集中的に受け、やはり瑠莉奈も霊音も元が実力者であるためか、めきめきと内容を吸収していった。


それに引き替え、俺は何だ。


魔術のバリエーションが少ないどころか、「無い」のは中々に致命的な才能の偏りな気がしてならない。


「すげーなぁ、二人とも」


「えへへ、色んな魔術、覚えちゃいました!褒めて兄さん」


「エライぞ~。よぉ~しよし」


「……ペット?」


「失礼ですねぇ、かわいい妹ちゃんですよっ」


「ソウダゾォ」


「兄さん?」


「……棒読み」


「いやいや、でもさ。……二人とも、よくそんなにポンポン新しい魔術やら理論やら覚えられるもんだよな」


「ま、これでもあの『アガレス様』なので!エッヘン!」


「僕は『そういう体質』だから……当たり前」


「いーなー!色んな魔術使えるのいーなー!」


我ながら、珍しく駄々をこねてしまった。


しかし、輪をかけて有り余るこの劣等感。


皆が楽しそうに色々な魔術を学んで、その内いくつかは、瑠莉奈と霊音に至ってはその殆どを覚えて実戦に使える程度にまで慣らしているにもかかわらず、俺は相も変わらずビームソードしか使えない、この体たらくである。


バエルの力を奪ったアモンに最後の一撃を食らわせた時よりかは多少、威力も増したが……しかし、それでも「魂魄剣系統の魔術師しか使えない」どころか、「ビームソード」とかいう、魂魄剣の亜種とは考えられてこそいるが、それとも似て非なるよく分からない魔術しか使えないのは、流石に面白みに欠けるというものである。


「でも、兄さんの『ビームソード』みたいに、少ない魔術に特化してる魔術師も良いとは思いますよ?私やベルちゃんの加勢があったとはいえ、あの『悪魔アモン』を貫くなんて、『普通の魔術師』じゃ、人によっては一生かかってもできるかどうか怪しいくらいですから」


……そうは言ってくれているが、「一つの魔術しか使えない」というのは、魔術師としてハンディキャップがありすぎるような気がしないでもない。


それにしても、「普通の魔術師」……ねぇ。


「本当に……。お前みたいに、至近距離以外の間合いからも何かできる仲間がいてくれないと、俺はすぐヘマして死ぬだろうから……。頼りにしてるぞ、瑠莉奈」


「うんっ!」


「いいな。生きてる相棒」


「人形は生きてないからか?」


「……僕の人形は、魔力で動くロボットだから。使い魔とか、そういうの憧れる」


「じゃあ今度、霊音ちゃんに合いそうな悪魔がいたら、私の権限で紹介してあげますよ!」


「ありがと。悪魔アガレス様が選んだ悪魔、楽しみ」


「私の目は厳しいよっ!大船に乗ったつもりで待ってて!……そんな逸材が見つかるまで、時間はかかるかもしれないけど」


「んむ。気長に待ってる。……僕、そろそろ書庫行くから……じゃあね」


霊音は長い脚に嵌められたヒールのつま先を地面にコンコンと突き、杖を持って訓練場を出ていく。


「……じゃ、俺達も帰ろうか」


「そうですね!いつか兄さんも、他の魔術が使えそうになったら言ってくださいね!私が覚えてるやつ、出来る限り教えるので!」


「ハハ、いつか、な……」


それに合わせて、俺達も訓練場を出ていった。


……魔道具や魔法薬の使い方ならともかく、何も実になっていない魔術の使い方や基礎的な理論の講義は、最初の三年の内に学ばなければならない必修科目とはいえ果たして受ける意味があるのだろうか?


そんな疑問を胸に、俺は改めて才能の差を感じながら、自室へと戻るのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る