第34話 アンチ・ビースト その6

「だから言ったんですよ、もう!そおおおれっ!急旋回、間に合えーっ!」


「ちょちょちょちょ、いでっ!」


瑠莉奈は岩を空中で一回転させ、俺は半ば岩へ叩きつけられるようなかたちで寝転がる。


火球は俺の背後で瑠莉奈が飛ばした岩に裂かれるように消し去られた。


そして、俺は乗っていた足場の岩ごとそのまま瑠莉奈の元まで戻ってきた。


「何をやっとるんじゃ……阿呆が」


「あっぶねーーー!!死んだかと思った!」


「もう、兄さん!無理はしちゃダメですよ!」


息を切らしながら岩から飛び降りる俺の背中を、ベルは軽く叩く。


「ごめんごめん。でも……今のアイツには俺じゃ近付けないってことは分かった。俺はビームキャノンと銃で何とか後方から支援するから、前線は任せた」


「フン、最初っからそうしておけ。貴様を連れてきたのは、突っ込ませて無駄死にさせるためではないのじゃからな」


「マジで俺の出番が無い気しかしない件について」


「出番とか貢献とか気にしとる場合か。其方は未熟な上、そもそも奴との戦いに向いていないのじゃ。黙って後方で回避と防御に専念しておれ。そして、これから何があっても……わらわと、わらわに起こった事を、全て『信じろ』!」


「わ、分かった」


……「信じる」、か。


「ベルちゃん!さっきのサボテンをたくさん巻き込んだ蔓を私に巻き付けて下さい!」


「分かった!【散水サボテン】、【包囲藻】」


「ありがとう!これであの魔術師のとこに突撃できます!」


全身に水浸しのサボテンを巻き込んだ蔓を巻きつけたまま、天羽の元へ突撃する瑠莉奈。


「へぇ……考えたね。試してあげようか」


「望むところです!」


「【大火球】」


「【真空砂塵領域】」


そして瑠莉奈は辺りに撒いた砂と蔓に巻き込んだサボテンを併せて、天羽が喋りながら放った炎から身を守った。


何がどうなっているのかは知らないが、サボテンは明らかに物理法則を無視した量の水を撒き散らしている。

そんじょそこらのスプリンクラーでは歯が立たない程だ。


後から聞いた話だが、一般魔術師の「散水サボテン」では、夏に役所やその他の自治体が管理する施設に配置されている弱いスプリンクラー程度が関の山らしい。


流石はベルと言うべきだろうか。

一般人とエキスパートでは、同じ魔術でも威力が違うようだ。


「やるじゃん……いいねぇ!」


天羽は全身に炎を纏おうと詠唱を始め、サボテンを巻き込んだ蔓を纏ったまま突撃してくる瑠莉奈を受け止める体勢に入ろうとする。


「【拒む力】」


しかし、直前で飛び上がった瑠莉奈は足元に「拒む力」を使うことで加速。


「なっ……!?」


「ブッ潰してやるッ!」


「ぺぎぇぇぇーーーッ!?」


その勢いを全て乗せた拳を右頬に受けた天羽は、無理矢理捻り出されたような悲鳴とともに吹き飛んで頭から壁に激突した。

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