第34話 万里の長城
突撃の合図と共に五郎と近藤を含めた歩兵たちは一斉に駆けだした。近づけば近づくほど万里の長城が巨大に見えてくる。
歩兵たちを藻屑にするべく、数日前に私を消し飛ばした岩石が今回も飄々と飛んできた。今日は何人潰せるかとわくわくしている。後方から戦車たちの援護射撃が繰り出され、いくつかの岩石は空中でバラバラになった。しかしいくつかの岩石は狙い通り地表に落下することができ、懸命に走っていた人々数人をまとめて押し潰すことに成功していた。
いよいよ始まったのだ。
ともあれ、駆けだした人々の数は非常に多い。次々に岩石の射程範囲より奥に進みこむと、ある程度知名度を持つ人々が率先しながら、古い手ではあるが、長い梯子を創り出して万里の長城の先端に引っ掛けた。そこを登っていざ侵入というわけだ。あちらでもこちらでも見事に梯子がかかり、人々はそれをつたって長城の頂上へ。敵兵士も負けじと梯子を斧で切り倒し、銃を使ったり弓を使ったり野球ボールを使ったりしながら梯子を上ってくる人を落とそうとした。
頭上でのわちゃわちゃとした攻防の下を、私と近藤は何食わぬ顔で通り過ぎ、万里の長城の真下にまできた。気配を消してきたこともあり――第一老人二人など歯牙にかける気にもならない――敵兵からの意図的な攻撃はなかった。これこそが万里の長城完全攻略の術だ。他にも数名の選りすぐりの見るからに弱そうな人々が予定通り真下にまで到着し、私はその度に高圧洗浄機を投げて渡した。使い方の練習も済んでいる。私たちは高圧洗浄機を長城の根本に向けて発射し、土を削りに削った。見事に地面の下がえぐれ、拳二つ分くらいは入れられそうな空間ができた。
「くぐれそうだ」
と近藤。無論、くぐれるくらいまで掘り進めるには時間がかかりすぎる。高圧洗浄機を消した私は、次に同じく家で使っていたドライヤーを創り出し、人々に手渡した。ドライヤーを受け取った人々は、(不運なことに、そのうちの一人が流れ弾にあたって死亡したが)早速地面を乾かし始めた。その間に近藤がリュックから爆弾を取り出し、乾いた地面に所狭しとそれらを敷き詰めた。
五郎は打ち上げ花火を創り出し、頭上に向けて放った。
「合図だ!」
「皆戻れ!」
上空で激戦を繰り広げていた人々は花火を見て一目散に退散した。敵側はその撤退があまりに迅速すぎて、逃げたことを非難するのも変な気がして動揺した。
その瞬間、立っている地面が吹き飛んだ。
近藤の緻密すぎる爆弾の配置のせいで思いのほか爆発の規模が大きく、見渡す限りの万里の長城は木端微塵に消え去った。その価値を知っている者には罪悪感が芽生えるくらいに。しかしそのせいで、安全な場所だと思って私と近藤が逃げていたところにも瓦礫がわんさかとやってきて、二人の頭上に危険な臭いを纏う岩石たちが降り注いできた。
「五郎!」
近藤が金切り声を上げたが、私は高圧洗浄機とドライヤーを多く創ったせいで疲労を感じていたし、そもそもそれ以前に、こんなにもの岩石から身を守る何かを創り出せる程の知名度は最初からなかった。
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