第33話 開会
晴天。とても秋とは思えない日差しが大地に降り注ぎ、熱中症注意喚起がテレビやラジオで叫ばれている。そんな中、全校生徒計千二百人がグランドに集結していた。暑さに辟易した表情はあるものの、その整然と並んだ姿は戦前の戦士そのもの。
あらかじめ言っておくことがある。それは、私たちの通う南北中学校における体育祭というものは、あなたたちの学校における体育祭とはその熱量に差があるかもしれないということだ。いつからその伝統が始まったかは不明だが、体育祭は楽しむものではなく戦うものだという概念が入学した途端に植えつけられるのだ。クラス対抗であり、一年、三年関係なく、一位から最下位まで容赦なく順位がつけられる。体育祭後の会話には必ず体育祭の結果がついてまわり、地位や財産のように扱われる。
「君、何組?」
「え、二年C組ですけど」
「うわぁ、体育祭二十五位の弱小クラスじゃん。一年生にも負けるなんてどうかしてるぜ。さぁ、俺様の歩く道からどきな」
「き、君は何年何組なんだ!」
「一年E組」
「後輩じゃないか!」
「だから何だ? 一年E組は体育祭十三位。一年生じゃ、トップだぜ」
「くそぉ……」
……こんな具合に。
そうであるからして、体育祭は中学生活の山場、人生の岐路にも等しい。それぞれのクラスが夏休みから血の滲むような練習に明け暮れ、そして木曜日と金曜日をしっかり最終調節にあて、土曜日の本番を迎えるというわけだ。
その熱狂ぶりは担任を持つ教師陣も例外ではない。
「えー、今日は。えー、絶好の、体育祭日和になりましたね。えー、熱中症に気をつけ、えー、えー、怪我にも気をつけてですね、えー、えー、えー、練習の成果を、えー」
「校長先生、長い御託はやめていただきたい!」
「え」
「それこそ生徒たちが熱中症になってしまいますよ。さっさと開会宣言をするんだ!」
赴任一年目の校長先生は、本来立場が下であるはずの教師陣の白熱した態度に腰を抜かしてマイクを手放した。全校生徒が温かい目で赴任一年目の若造を見つめた。代わりにマイクを手に取り朝礼台に上がったのは教頭先生。赴任八年目の大ベテランだ。生徒たちを見渡すと、マイクに向かって魂をぶつける。腸から響き渡る龍の咆哮にも負けない爆音は、とても御年還暦とは思えない。
「ここに! 南北中学第六十二回体育祭の開幕を、宣言するぅ!」
生徒たちは両手を掲げ飛び跳ね、男子生徒も女子生徒も一年生も三年生も関係なく、命を投げ捨てて体育祭に挑む覚悟を叫んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます