第39話 午前の部2

 放送席から暑苦しい声が流れてきた。

「グラウンド中央にご注目ください。ただいま競技中なのは男子走り高跳び。残る選手は二名。三年F組の加藤君と二年A組の塩田君。高さは一メートル五十です」

 俺、サッカーでよくヘディングするために飛ぶから、とかいうふざけた理由で走り高跳びに参加した塩田だったが、やはり彼は非凡な男だ。見るに堪えないフォームで、しかしながら一メートル五十を飛ぶ。

 足が当たって、揺れるバー。

「あっ!」

 息を飲む二年A組一同。

「落ちろ!」

 と三年F組一同。

 バーは暫く不安定な揺れを続けたが、地面に落ちることなく空中で制止した。

 湧き上がる歓声。飛び上がる塩田。塩田の人間離れした力とクラスが醸し出す謎の「五郎」の呪いにまんまと屈した後攻三年F組の加藤君は、それまでの華麗な飛び方が嘘のようなぎこちない助走とフォームで挑んでしまい、虚しく敗北。バーを飛び越えようとしているのではなく、バーの下をくぐろうとしているように見えたくらいだ。

 塩田はグランドの中央を我が物として高らかに吠えた。

「巻髪五郎ぉ!」

 私も手を叩いて喜んだ。

 男女混合リレー予選も、陸上部の永田と、同じく陸上部で女子のエースを張る水野のコンビのおかげで、二年A組は楽々と一着を手に入れて午後の決勝に繋げた。

 クラスは絶好調の波に乗っていたが、私はその波に乗り遅れ、飲み込まれた。元々運動は苦手だった。今日だけは死ぬ気でやろうとは思っていたのだが、いざ二人三脚が始まると、やる気が空回りして仲間との歩調が乱れ、顔面から盛大に地面に激突してしまった。他のクラスからは爆笑と煽りが湧き上がる。

 申し訳ない気持ちでトボトボとクラスの元に帰ってきた私。しかし、皆は熱く優しく私を鼓舞してくれた。

「ドンマイ巻髪!」

「ナイスラン!」

「思いは伝わったぞ!」

「切り替えて次いこうや!」

 A組が意気消沈するかとワクワクしていた他のクラスは、その光景を見てがっかりした。二年A組の躍進は止まらない。

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