第23話 再会再開
「十日後⁉」
真央は椅子に座りながら飛び跳ねた。
五郎が渋面と笑顔の狭間のような表情で頷く。
「まぁ、日にちの感覚は人によって違うから三世の基準で十日後だけど」
今回二人が出会ったのは、真央の家のリビングだった。当然のことながら現実世界ではなく、その場所には父も母もおらず、祖父と孫の二人しかいない。真央はいつも座っている席に座り、五郎は父の特等席に座っていた。
前回のジェットコースターのように時間が切迫した再会ではなかった。ゆっくりと時間が流れ、二人には話す時間が与えられた。五郎は死んでからのいきさつを細かに真央に話すことができた。
その内容があまりに突飛なもので、真央は困惑を隠せない。そもそも死後の世界すら真央は疑っているし、目の前にいる祖父があの時死んだ祖父なのかもにわかには信じ難かった。
「ナポレオン三世に会うほんの一日前に――ちょうど私たちが海を彷徨っていた時だね――彼はナポレオン・ボナパルトに宣戦布告をしていたんだよ。十日後に、お前の首を取りにいく。せいぜい怯えながら余生を過ごせ、とかなんとか」
これは夢かもしれない。おじいちゃんに会いたかった私が作った夢。ナポレオン、メッサリーナ、さっきどこかで聞いたような単語が次々に登場しているし、
ナポレオンとナポレオン三世が戦うって、なんか変。
「ナポレオン三世が恐ろしく馬鹿なのは明らかだが、宣言してしまった以上日程を変えることはできない。戦争は十日後に起こるんだ」
しかし、五郎が真剣に語っているということだけは真実だという確信が妙にあった。とりわけ、哀子に会いたいと語ったその口調からは、切実さと悔しさが入り混じった人間的な感情がひしひしと伝わってきた。
ひとまず、真央は五郎の話を信じてみることにした。
「それで、おじいちゃんはどんな役割を与えられたの?」
「私に与えられた役割は、仲間集めだ。当然エリアAに所属している人は私たちの二倍三倍の知名度を持っている。同人数で戦っても負けてしまうだろう。だからこそ、私たちは相手の二倍三倍の兵士を集める必要がある」
「なるほど」
「ナポレオン三世曰く、打倒ナポレオンという同じ志を目指す仲間たちは集め尽くしたらしい。だから私は、別の理由で戦争に参加してくれる人を集めなくてはならない」
「でも、死後の世界だから死んでも死ぬことはないんでしょ。なら、死ぬのが怖いから戦争にいかないっていう理由はないんだよね。なら……お金とか?」
「お金! 死んで数日しか経っていないのにもうその存在を忘れかけていたよ。死後の世界にお金は必要ないからな。じらしても仕方がない。正解は、情報だ」
「情報?」
「うん。死んでから知名度を上げるのはそうそう簡単なことではない、というかほほ無理だ。そういうわけで、彼らが知名度の次に求めるのが、最新情報だ。人の記憶は死んだ時のままでストップするが、現世の時は動いている。そう、情報が日に日に遅れていくんだ。自分が時代に取り残されていくような感覚、嫌ではないかね。だからしばしば死後の世界では情報を取引材料に使うことがあるらしい。まぁこれは全部斎藤さんが言っていたことだがともかく、私がやるべきことはそれだ。最新情報を引き換えに仲間を集める」
真央は理解した。
要するに、真央が五郎に逐一今の世界のことを教えるのだ。死後の世界で、今の時代の情報はおろか、女子中学生が持つ最新トレンド情報を持っている人物は中々いないだろう。いわばそれをお金代わりにして、「この情報をやるから戦争に参加してくれ」と五郎は要求することができるのだ。
「なるほど、なるほど」
少し心が弾んでいる自分に気がついた。
「まずはどんな情報が必要なの?」
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