第35話 円陣エンジン

 各クラスは最初の競技に挑む前に円陣を試みた。やはりどのクラスも気合が入っている。全員でお揃いのクラスTシャツを着こんで、自らの筋肉を見せようと袖まくりをしている剛腕な男子も、ペイントなんかを顔に入れている可愛らしい女子も、一致団結して肩を組む。誰かの「いくぞ!」という声と共に荒々しく叫ぶクラスがいるかと思えば、変なユーモアセンスを持った謎の人物がクラスの輪の中で奇妙な踊りをして笑いを起こしているクラスもある。

 さて、我らが二年A組も肩を組んだ。クラスカラーは黒。強烈な日差しとの相性は最悪だったが、服から伝わってくるピリピリとした暑さが逆に体育祭優勝への熱さを駆り立てる。

 作られた輪を取り仕切るのは塩田だ。

 こういう時の塩田は、無神経でお調子者のいつもの塩田とはまるで顔が変わる。頼りがいのある勇ましい顔つき。恐らく、男子からも女子からもかっこいいと思われているに違いない。違いない。

「よーし、皆いいか、勝つぞ」

 体育会系の永田と稲垣が当たり前だと呟いた。

「一年に負けるなんて問題外。んでもって、三年もぶっ倒して彼らの最後の体育祭をぶち壊してやろうぜ」

「そうだ!」

「それで、誰のために戦うの?」

 と悪だくみの最中にいるような顔をするさつき。それを聞き、塩田も、クラスの皆の顔も同じ表情になる。

「んなもん決まってるだろ。巻髪五郎のためにだよ!」

 より一段とA組が活気づいた。

「いくぞA組、絶対勝つぞ! 巻髪五郎のために!」

「五郎のために!」

 四十人の声が揃った空気の震え。それだけで私の目は潤みかけたが、いやまだ、ここから始まるのだ。

 周囲にいた一年j組と二年B組の面々は首を傾げた。

「ん? 巻髪五郎?」

「誰だそれ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る