蛇足その三

 「マル一計画」でのお買い物が終わって、「次へ」ボタンをクリックしたら、今度はピンク一面の画面に赤い文字で「マル二計画」というタイトルが現れた。

 デザインセンスが無いというよりも明らかに手を抜いているでしょ、これ!

 まあ、看板よりも大事なのは中身か。

 私もパッケージ詐欺にはよく引っかかる。

 特にあのメーカーときたら、箱の絵と中身が全然違いすぎて・・・・・・

 私は二度もだまされた。

 話がそれた。

 要は中身だ。


 「マル二計画」は「マル一計画」に比べて予算は五割以上も増えている。

 それはいい。

 だが、航空機予算が建艦予算の一割にも満たないちょっと歪な計画だ。

 その代わり、艦艇の充実ぶりはすごい。

 史実でいうところの空母「蒼龍」と「飛龍」、それに軽巡「利根」と「筑摩」、さらには水上機母艦の「千歳」と「千代田」それに「瑞穂」といった有名どころがずらりと顔を並べている。

 さらに近い将来に軽空母「祥鳳」ならびに「瑞鳳」となる給油艦「剣埼」と「高崎」も含まれ、それに「千歳」と「千代田」も将来は空母になるから「マル二計画」とはまさに中型空母と軽空母の爆誕祭のようにも思える。

 そのうえ、駆逐艦や潜水艦、それに水雷艇や駆潜艇を合わせて四〇隻近くも建造する。

 そりゃ、航空機に金が回らなくて当たり前です。

 だから、私は冷遇されまくりの航空隊に予算を振り向けるべく昔はやった事業仕分けなるものを断行する。

 当時、一部の人間から喝さいを浴びた事業仕分けも、今にして思えば壮大な公開パワハラとしか思えないのだが、そう思っているのは私だけだろうか。


 話がそれた。

 まずは軽巡「利根」と「筑摩」だ。

 軽巡とは言っているが、史実では二〇センチ砲を八門持つ立派な重巡として産声をあげている。

 その「利根」と「筑摩」は日本の巡洋艦としては居住性が高く、水偵も従来の重巡の二倍搭載でき、そして機動部隊の目となって活躍した艦としても評価が高いが、私はそんなにこの艦のことを評価はしていない。

 もともと索敵というのは艦攻の仕事であって、「利根」や「筑摩」に頼る必要などないのだ。

 攻撃力が落ちるからといって艦攻による索敵をケチるようなアホがいるから代りに「利根」と「筑摩」の水偵が使われたにすぎない。

 それに、「利根」はミッドウェーという肝心なところでやらかした。

 そもそも、吹き曝しの露天繋止でふだんから満足に整備が出来ない水偵を重大な場面で索敵に使う方がどうかしている。

 カタパルトだって風雨や潮風に常にさらされ続けている。

 ただでさえ機械的な信頼性に乏しい日本の航空機なのに、野ざらしにされたそれを重要局面で頼るなど有り得ないのだ。

 なんにせよ、索敵こそ風雨をしのげる格納庫内で入念に整備を受けることが出来る信頼性の高い艦攻に任せるべきなのだ。

 航空原理主義者であり、索敵至上主義者である私が言うのだから間違いない、と思う。

 まあ、入念に整備されたはずの二式艦偵に通信エラーが生じたではないかという批判はスルーさせてもらう。

 とにかく誰が何と言おうと「利根」と「筑摩」はキャンセルだ。


 次は「千歳」と「千代田」それに「瑞穂」の水上機母艦トリオだ。

 このうち「千歳」と「千代田」は空母に改造されたものの、時すでに遅く戦局への寄与はごくわずかだった。

 それに最期というか末路も悲惨だったし、これは最初から造らない方が彼女らのためだろう。

 だから、愛をこめてこの三姉妹をキャンセルする。

 最後に悩んだのは「剣埼」と「高崎」だ。

 この二隻は比較的全長が長いので飛行甲板を可能な限り延長すれば空母としての使い勝手はそれほど悪くはない。

 しかも二八ノットとそこそこスピードも出る。

 だが、これも涙を飲んで却下だ。

 九九艦爆や九七艦攻ならなんとかなるが、彗星や天山の運用まで見据えれば、やはり艦型が小さすぎる。


 ここまで軽巡二隻、それに水上機母艦三隻に給油艦二隻を事業仕分けしたわけだが、これだけで「蒼龍」型空母三隻分以上の金が浮いた。

 この金で「蒼龍」型空母二隻を増勢し、残りの金はすべて航空隊予算に回したいところだが、私にはどうしても史実より増やしておきたい艦があった。

 工作艦の「明石」だ。

 「明石」の優秀性や実績はすでに語りつくされているが、この艦のおかげでどれだけ海軍艦艇の回転率が高まったか想像がつかない。

 やはり一隻だけでは惜しい。

 まだ予算は余裕で五隻は造れる額が残っているのだが、三隻にとどめておこう。

 残りは航空隊予算に回す。


 よし、次は本命の「マル三計画」だと思っていたらコンピューターが四隻の空母を「蒼龍」型にするか「飛龍」型にするか尋ねてきた。

 そう言えば、日本は「鳳翔」を廃艦にすれば空母の保有枠を二万一〇〇トンにできる。

 もし、「蒼龍」や「飛龍」をそれぞれ二万一〇〇トンで建造できれば、史実よりも余裕があって攻防のバランスの取れた空母にすることができる。

 もちろん、軍縮条約に抵触しないように「飛龍」の完成時期を後ろにずらさなければならないが、それは史実でもあったことだ。

 いい考えだと思い、それが可能かどうか担当者さんに聞いてみたが答えはノーだった。

 史実に無い艦を無制限に認めるとなると、プログラムが極めて肥大化するらしい。

 まあ、そうだろうな。

 プログラミングの素人の私でもそれくらいは分かる。


 仕方が無いので「蒼龍」を四隻建造することにする。

 担当者さんは「蒼龍」も「飛龍」もゲームの中では同じ値段だから、グラム当たりの単価は「飛龍」の方がお得ですよと話しかけてくる。

 空母は牛肉や豚肉じゃないっての。

 空母「蒼龍」と「飛龍」は一長一短だ。

 離着艦の容易さで言えば右艦橋の「蒼龍」だが、防御力では「飛龍」が上回る。

 「飛龍」や「赤城」の左艦橋について、戦争を生き抜いた複数のベテランの手記を読んだことがあるが、あるベテランは左艦橋も右艦橋も慣れれば同じと言い、別のベテランは気流の悪さと信号を始めとした左艦橋独特の視線移動の難儀さを訴えていた。

 まあ、「翔鶴」が左艦橋から右艦橋に変更したのだから、やはり左艦橋はよろしくないのだろう。

 結局、私は「飛龍」ではなく「蒼龍」を四隻建造することに決めた。

 念のため購入した艦艇を再チェック、問題が無かったので「次へ」ボタンをクリックした。

 こんどは紫一色の画面にピンクの文字で「マル三計画」と書かれた画面が現れた。

 ゲームの内容よりも、まずはこのセンスをどうにかしてほしい。

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