蛇足その二
私こと聖子が見たクソゲー「ショッピング艦隊」の記念すべき最初の画面は背景一面が青色で、その中央に「マル一計画」というこれもまたケバい赤色のタイトル文字だけのものだった。
16色カラーか256色カラー時代のエロゲーでさえも見なかったような手抜きと最低なセンスだ。
どうにかしてほしい。
ところで、ロンドン条約の結果を反映したこの「マル一計画」は、後年の「マル二計画」や「マル三計画」に比べて予算規模が小さく、特に航空機のそれは絶望的なほどの低予算だった。
艦のほうも、めぼしいものといえば四隻の「最上」型巡洋艦と、あとは追加で建造が決まった潜水母艦「大鯨」くらいのものだ。
私としてはこの「マル一計画」では航空機予算をしっかりと確保しておきたい。
この時期に搭乗員になった連中は将来起こる太平洋戦争では幹部搭乗員としてとても貴重な存在になるはずだからだ。
それとともに、私は確認しておきたいことがあった。
「ねえ、担当者さん。もし仮に『最上』型をキャンセルするとして、その影響で米国の建艦計画に変更とかは生じたりするの? それと、航空隊を増強し過ぎてロンドン条約で見送られた航空戦備の制限が再び取り沙汰されるとかってこともゲーム中であり得るのかなあ」
「そうですねえ。米国もまた『ヴィンソン案』に従って艦隊整備を進めていますから『最上』型をキャンセルした程度ではさほど影響は出ないでしょう。ただ、このことで対抗艦のいなくなった『ブルックリン』級軽巡の主砲が一五門から一二門に減る可能性はありますが。それと航空戦備をいくら増強しても他国からクレームが来ることはありません。政治のことまで考慮に入れるとプログラムが膨大になってしまいますから」
なるほど。
ゲームにも予算の制約はあるわよね。
でも、担当者さんが今言った程度なら問題ないだろう。
ならば、航空主兵主義を超越した航空原理主義者あるいは航空至上主義者の私は「最上」型をすべてキャンセルする。
ただ、キャンセルこそしたものの、私は実は「最上」型が好きだ。
「最上」型といえば、中身は悪いが見た目はスリム美人のそれだ。
出来た時から虚弱体質で、新鋭艦にもかかわらずすぐに入院を余儀なくされた深窓の令嬢とも言える。
だが、そのスタイルはめっちゃ私好みだ。
特に軽巡時代の三連装砲塔を装備していた頃のそれは最高だ。
そう言えば、杏が造ったプラモデルを見たことがある。
彼女の部屋に形状の異なるそれが二隻あった。
細身の美しい砲身が一五本も突き出しているその姿はまさに海のプリンセスだ。
私のお勧めは三連装砲を装備したまま航空巡洋艦に改造した「最上」だ。
史実では有り得なかった状態だが、それもまた実に美しかった。
それにしても、いったい杏はこんなものを造って何をしているんだ?
そんな「最上」型をキャンセルするのは断腸の思いだが、日本軍勝利のためだ。
ここは心を鬼にする。
ついでに「大鯨」もキャンセルだ。
鉄砲屋や水雷屋、それにどん亀乗りから苦情がきそうだが、そんなことは知ったこっちゃない。
それにどうせ「大鯨」は改造されて中途半端な性能の空母「龍鳳」になるんだ。
だったら、そんなものは最初から造らずにもっと大切なものにそのリソースを割り振るべきだ。
それと、本当だったら失敗作の「初春」型や「白露」型駆逐艦も建造を取りやめたいところだが、日本の国力だと後になって駆逐艦の大量生産なんておそらく出来ないだろう。
不本意ではあるが、駆逐艦は全艦計画通り建造することにしておこう。
それから、駆潜艇と掃海艇のほうは逆に増やしておくとする。
後になって護衛艦艇の不足で泣くのはごめんだ。
そして、「最上」型や「大鯨」の首切りによって捻出した金で航空隊の拡充だ。
おお、これだけで航空隊の予算が三倍以上になった。
というか、ベースが低すぎるだけなのだが。
まあ、なんにせよこれだけあれば、幹部搭乗員の不足で泣いた史実の二の舞は避けることができるだろう。
次は「マル二計画」だ。
あれ? 美津子が眠たそうにしている。
金持ちにこのゲームはつまらないか。
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