多忙の巫女
第35話 報復絶頂
「ぎゃーっ、離せ美津子!」
叫ぶ聖子に、だがしかし美津子は彼女をがっちりホールドして離さない。
「やめてーっ、杏!」
杏の指先は止まらない。
三人娘が久しぶりに顔をそろえたその日の夜、聖子は杏と美津子から執拗な攻撃を受けていた。
ミッドウェー海戦から本土へと戻り、横浜沖に停泊している戦艦「大和」から二十数日ぶりに日本の大地へと降り立った聖子を杏と美津子はまだ明け方だったというのにもかかわらず待っていてくれた。
杏は泣きじゃくりながら聖子に抱きつき、美津子も目に少し涙を浮かべながら「おかえりなさい」と微笑んでくれた。
聖子も二人の顔を見たことでこれまでの緊張が解けたのと、杏と美津子が自分の無事を涙ながらに喜んでくれている姿にほだされて、彼女にしては珍しく瞳を涙でうるませていた。
このことで、聖子はこの二人に何をさせたのかを忘れ、完全に油断してしまっていた。
自宅に戻った聖子は久しぶりの地上の風呂を満喫した後、自室のベッドの上で意識を失うかのごとく眠りに落ちた。
朝寝、昼寝を通り越し、起きた時には日が沈みかけていた。
しかし若さの特権、ひと眠りしただけであっと言う間に回復した聖子はその日の夜、梃木さんと須俣さんの心づくしの手料理を杏と美津子とともに堪能した。
その後片付けを終えた梃木さんと須俣さんも居なくなり、あとは一階に杏と美津子に何やら言い含められた警備の人が居るだけとなった夜遅く、その杏と美津子が話があると言って聖子の部屋を訪れた。
ふだんなら用心深い聖子も、このときは完全に油断していた。
聖子が二人を部屋に招き入れた直後、美津子は聖子の背後に回り込むと同時に、彼女を羽交い締めにしてそのままベッドに仰向けに倒れ込んだ。
両足も見事にロックされて聖子は動きを完全に封じられてしまった。
驚いた聖子はなんとか振りほどこうとしたが、体重も力も美津子のほうが上だ。
聖子の背中に柔らかく、それでいて重量感のあるものが押し付けられてくる。
自分がダブルスコアの敗北という屈辱に沈むことになった美津子ご自慢の盛り上がりだ(聖子の被害妄想。美津子は邪魔と思いこそすれ自慢だなどと思っていない)。
聖子は「こんにゃろー」と思ったが、目前の脅威にその思いも一瞬で吹き飛ぶ。
目に妖しい光をたたえた杏が顔前に迫ってきたからだ。
聖子は知っている。
杏がこの目をしているときは完全にやばい。
自分が好きなアニメや漫画、それに大切な人や物をボロクソに言われたときと同じ目をしている。
「聖子ちゃん、私が何で怒っているのか分かっているよね?」
「えーっと、たぶん例の『薄い本』のせいかな?」
「そうだよ。よくもあんな気持ちの悪いものを書かせてくれたよね。私はあれで本当に漫画を描くのが嫌いになりそうになったよ。美津子ちゃんもそれはもうつらそうにベタを塗ってくれていたんだから」
「しかたないじゃない。あれしか方法が思いつかなかったんだから。それに、あんたと美津子の描いた『薄い本』のおかげでルーズベルト大統領はいまや絶体絶命のピンチよ。これでよかったのよ。これしかなかったのよ!」
「そうかも知れない。私は聖子ちゃんほど智謀に長けてないから、その辺のことはあまり良く分からないけど。でも、それはそれ、これはこれ」
「やばい! マジでやばい!」
聖子は胸中で叫ぶ。
聖子は自分でもそこそこのビッチだという自覚はあるものの、だがしかし杏はその聖子がとうてい及ばないと思うほどのビッチだ。
ふだんは心の奥底で眠っているだけだが、それが今は完全に目覚めてしまっている。
「ドSのビッチ杏が覚醒している!」
聖子は胸中で「どうする、どう切り抜ける?」と自問する。
「あっ、杏。そういえばお土産があるんだ。実際に手に入るのは少し先になるけど連合艦隊司令長官から『間宮』の羊羹を百本あまりむしり取ることに成功したの。手に入ったらあんたに半分あげるからそれで勘弁してもらえない?」
「羊羹はもらう。でも、それはそれ、これはこれ」
杏の口調が変わっている。
そして目の光は完全に嗜虐モードへと移行し、口の端はつりあがっている。
自分を背後から羽交い締めにしている美津子も聖子からはその表情は見えないが、その気配から杏の変貌に驚いているようだ。
まずい、まずい、これは本当にまずい。
聖子の本能が警鐘を鳴らす。
「杏、お願い。話を聞いて。あーだめか・・・・・・」
杏はもう話は終わったとばかりに聖子のパジャマのボタンに手を伸ばし、ひとつひとつ外していく。
「ねえ美津子、私を離して。杏がああなったら無事では済まないの。私殺されちゃう」
杏への説得ではらちが明かないとみた聖子が今度は背後で自分を冷静にロックをし続ける美津子に懇願する。
「大丈夫です、聖子さん。生命の危険があると判断したときはすぐに解放しますから」
杏が聖子のパジャマのボタンをすべて外し終えた。
「杏、だめよ。女の子どうしなのよ、私たち」
「大丈夫。くすぐり殺すような真似はしない」
「何こわい事言ってんのよ! 私がくすぐりに弱いことはあんたが一番よく知っているでしょう!」
パジャマをはだかれ、肌があらわになった聖子に杏は指を這わせていく。
「んっ」
聖子が夜中に発生させている、つまりは杏にとっては耳障りな騒音の中で最もポピュラーな声をさっそくあげる。
杏は聖子のどこが弱点なのかを知悉している。
夜中に隣室の聖子の部屋から聞こえてくる音と気配で聖子の手と指がどこをどう這いずり回っているのか、どんな態勢なのかが手にとるように分かるのだ。
野生の勘に恵まれた杏ならではのありがた迷惑な能力だった。
杏の指が動くたびにだんだんと声が上ずり、吐息が艶めかしくなる聖子に、多少は「薄い本」でエロ耐性が付きつつある美津子も、こと実戦は初めてであり免疫はまったくない。
動揺が頂点に達した美津子は聖子を羽交い締めにしたまま、自分自身も硬直してしまった。
あとは杏の独壇場だった。
指先が妖しく聖子の肢体を這い回る。
「本当は下着の中が最大の弱点だというのは知っているけど、今回は初犯だからその上からだけで許してあげる」
そう言って下着の上から指を(以下、作者自主規制)
やがて、恥辱に顔を赤らめる聖子の表情と、その正反対の声と体の反応に興が乗った杏はビッチモードを完全解放。
杏はあっさりと前言を翻して今度は聖子の下着の中に指を(同、作者自主規制)
ビッチ杏が令和の世界だけでなく、昭和の世界にも爆誕した瞬間だった。
杏の聖子に対する攻撃はその後も一切の容赦も妥協も無かった。
聖子の大事なマジノ線は杏のフィンガーテクによる機動戦術によって散々に蹂躙された。
ほどなく聖子は陥落した。
「美津子ちゃん。もうロックを解いていい」
抑揚のない声で杏が美津子に声をかける。
体も心も完全に硬直していた美津子は「はっ」として聖子を解放する。
生命の危険があると判断したときにはすぐに解放すると言っておきながら、すっかりそのことを忘れてしまっていた。
美津子は聖子の惨状を見て少しばかり後悔する。
「杏さん、少しやりすぎたんじゃないでしょうか。もし、聖子さんに裁判に訴えられたら勝てる気がしないのですが」
心配になった美津子は杏に大丈夫なのかと問いかける。
「私と聖子ちゃんの間ではこの程度のことは全然問題無い。それに昔、私も今のようなことを聖子ちゃんにされかけたことがある」
「聖子さんが杏さんを?」
「そう。聖子ちゃんは昔は幼女好きの幼女だった」
なんと、まあ。
美津子はほとほと呆れてしまう。
「それで、どうなったのですか?」
「返り討ちにした。それから聖子ちゃんと仲良くなった」
杏の言葉に美津子は頭が痛くなりそうだった。
美津子も以前から聖子がエロ娘だとは知っていたが、そんなに昔からそれが発現していたとはまったく想像すらしていなかった。
まさに筋金入りだ。
そして、美津子の本能が告げていた。
これ以上この二人の過去に深入りしてはならないと。
美津子は、もう一度杏に聖子は大丈夫なのかと念を押す。
「大丈夫。気持ち良すぎてちょっとばかり頭の中の一部が飛んじゃっただけ。一晩寝たら疲れてもとれて元気になっているはず。それにやりすぎなのは聖子ちゃんの方。また明日から騒音に悩まされると思う」
「騒音?」
「ううん、何でもない」
美津子はそのことについてもこれ以上は聞かない方が無難だという本能の警告に従い話題を替えた。
杏に「もう気は済みましたか」と問いかける。
「うん。おじさん同士の気持ち悪い絵を書かせた報いに女の子同士の世界に堕としてやろうと思ったけど、聖子ちゃんにとっては自分が気持ち良ければそんなことはどうでもいいみたい。根っからのエロ娘だよ。聖子ちゃんは」
杏の言葉に美津子はため息をつくしかない。
「もう夜も遅いですけど、どうします」
「手を洗って寝る」
薄暗闇のなか、杏の指先がなぜかてかっている。
「聖子さんはどうします?」
「このままでいい。夏だからこのまま寝ても風邪をひくこともないはず」
「そうですわね。私も部屋に戻って眠るとします。じゃあ、お休みなさい、杏さん」
「うん、お休み」
杏と美津子が部屋を出ていった後には、ベッドの上に転がされたままの聖子が、決して乙女が他人に見せてはいけない表情で荒い息を吐き続けていた。
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