蛇足その五完

 さあ、今回はご機嫌な「マル四計画」だ。

 建艦予算は前回の「マル三計画」の五割増し、航空機に関してはなんと五倍増しの大盤振る舞いだ。

 それにしても、この「マル四計画」では「なんでこのご時世にこんなものをつくるの?」といった艦がてんこ盛りだ。

 リストラの甘美な味を知った私こと聖子にとっては最高のターンでもある。

 まずは二隻の「大和」型戦艦。

 「信濃」と「第111号艦」だ。

 この二隻だけで予算ベースで二億六千万円が浮く。

 次に装甲空母「大鳳」。

 こいつはどうするか悩む。

 「マル四計画」で唯一の空母の選択肢なんだよなあ。

 まあいい。

 後で決めよう。


 戦艦、空母とくれば次は巡洋艦だ。

 「マル四計画」では四隻の「阿賀野」型軽巡と二隻の「大淀」型軽巡が予算計上されている。

 水雷戦隊指揮巡洋艦の「阿賀野」型は、はっきり言ってコンセプトが古すぎる。

 もはや艦隊決戦も肉薄魚雷戦もそれが望めるような時代ではないのだ。

 それにどうしてもというなら、似たような大きさの「古鷹」型に必要な装備を施して充当すればいいだけの話だ。

 ちょっと脚は遅いけど、致命的というほどでもない。

 それから潜水艦支援巡洋艦の「大淀」型も「阿賀野」型と同様、不要な存在だ。

 水偵で敵艦隊を捜している間に先にこちらが見つかって沈められるのがオチだ。

 中途半端な索敵能力しか持たない単独行動の巡洋艦など、艦載機や潜水艦の餌食でしかない。

 まったく日本海軍というのは攻撃偏重というか、自分たちが一方的に狩る側で相手が狩られる側だと思い込んでいるようなふしがある。

 そんなことだから逆に「大和」や「武蔵」といった戦艦が米機に、駆逐艦が米潜水艦にほとんど一方的に狩られるんだ。

 だから、この六隻の巡洋艦はすべてキャンセルだ。

 これで一気に一億七千万円ゲット!


 次にいらないのは「陽炎」型や「夕雲」型といった甲型駆逐艦と言われる水雷特化型駆逐艦だ。

 対潜、対空兵装が貧弱の極みであるこの艦に用は無い。

 全艦キャンセルだ。

 逆に必要なのは乙型駆逐艦とも呼ばれる「秋月」型防空駆逐艦だ。

 「マル四計画」では六隻の建造が予定されているが、ここはオールキャンセルした巡洋艦や一八隻の甲型駆逐艦の予算を流用して二四の隻建造としておこう。

 そう思っていたら、コンピューターに「出来ません」と弾かれてしまった。

 ポップアップされたメッセージによると、二四隻もの乙型駆逐艦の建造数に対して九四式高射装置や長一〇センチ砲の生産が間に合わないのだという。

 妙なところで細かいな、このゲーム。

 仕方が無いのでとりあえず最大値である一二隻を建造することにする。

 このため、しぶしぶながら甲型駆逐艦のうち一一隻を復活させる。

 駆逐艦はそれなりの数が必要だからだ。

 リストラはこのあたりにしておいて、こんどは捻出した予算で欲しいものを買う。

 とりあえず、駆潜艇や掃海艇といった安いのによく働く艦艇は増強し、ついでに給油艦も増やしておく。

 それでもまだ三億円以上余っているぞ。


 あっ、そうだ。

 「大鳳」をどうするか忘れていた。

 この際だ、金もあることだし、ここは二隻造っておこう。

 完成が昭和一九年になるのが少し残念だが、かと言って正規空母はいくらあっても困るということはないだろう。

 残りはこれまで通り航空予算に振り向けることにする。


 それからも私は「マル臨計画」や「マル急計画」、それに「マル追計画」の予算変更に勤しんだ。

 残りの「マル五計画」をあらためた「改マル五計画」や「マル六計画」については、コンピューターがそれまでの戦況を判定して決めるのだそうだ。

 初戦でボロ負けしていると、厳しいことになるらしい。

 私が出来るのはここまでだ。

 後はコンピューターがどう戦うのかを見て、一ゲーマーの立場から感想を述べたり、あるいは担当者さんから求められる質問に答えたり、気がついたことをアドバイスするのがこのバイトのお仕事だという。

 担当者さんと話している間にパソコンのスピーカーから突撃ラッパの音が流れてきた。

 ゲーム開始の合図だが、それにしてもこのゲーム、なんでこんなにセンスが悪いんだろう。






 杏「で、結局どうなったんだっけ」


 聖子「史実通り昭和二〇年八月一五日に降伏したわよ」


 美津子「あら、あんなに空母の数をそろえたのにダメだったんですか」


 聖子「ゲームソフトがおバカすぎるのよ。開戦時には『蒼龍』型と『翔鶴』型がそれぞれ四隻に『赤城』と『加賀』があったのよ。だから真珠湾攻撃なんかしないで普通に太平洋を東へ押し渡っていけば太平洋艦隊なんて簡単にやっつけられたのよ」


 杏「ああ、真珠湾攻撃をやっちゃったんだ」


 聖子「そうなのよ。ほんとバカよ。それで史実を大きく超える五七〇機による攻撃で戦艦群は壊滅させたんだけど空母群は例によって無傷だったの。で、その後は生き残った米空母にかき回されて消耗戦に突入。まあ史実で沈めた四隻の米空母に加えて『エンタープライズ』と『サラトガ』の撃沈もできたんだけどね。あっ、それと史実では一隻も沈められなかった『セックス』級空母も二隻撃沈したわよ」


 美津子「『エセックス』級です。わざと間違えないでください!」


 杏「で、このゲームソフト市販するの?」


 聖子「無理ね。発売したとしても誰も買わないわ」


 美津子「壮大な無駄ですね」


 聖子「そうね。そういうおバカなところだけは帝国海軍に似せてよくつくられているわ」


 杏「あんまり海軍の悪口ばかり言っていると、そのうちバチがあたって昭和の時代に飛ばされるよ」


 聖子「ないわよ。時間跳躍なんてただのSFよ」


 それから数日後、杏の言った通り私たちは昭和の時代に・・・・・・



 (完)

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連合艦隊の巫女 蒼 飛雲 @souhiun

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