第14話 オカズにされる巫女
「おっぱいなのか? やっぱりこの時代の男どももみんなおっぱいなのか!」
「仕方ないよ聖子ちゃん。軍隊なんだから実用性重視だよ」
杏が荒ぶる聖子をなだめている。
勝者の美津子は優雅にお茶をすすっているが、その胸中はなかなかに複雑だ。
ふだんはただ重たくて肩こりの原因。
そのうえ男どものいやらしい視線を呼び集めるだけの煩わしいものだと思っていたものが、それによっていつも自分をいじる聖子に一矢報いることが出来たのだから、それはまあいい。
だがしかし、杏に教えてもらった実用性の意味を知った時は正直言ってげんなりした。
世間では「おかず」とも言うらしいのだが、自分が不特定多数の男たちに「おかず」にされているのだと思うと、美津子は怒りというか恥ずかしさというか、何とも言えない奇妙な感情を覚えるのだった。
きっかけは山本連合艦隊司令長官からの依頼だった。
インド洋作戦と本土東方沖海戦、そしてMO作戦。
相次いだ勝利の影に巫女の存在があったことは帝国海軍のみならず今では国民の誰もが知るところだった。
しかし、彼女たちの姿を知る者はいまだに少なく、どことなく日本人離れした見目麗しい乙女たちだという噂だけが一人歩きしていた。
それは帝国海軍も同じことで、彼女たちの容姿を知る者はごく一部の者に限られていた。
だから、山本長官が彼女ら三人と一緒に撮った写真を見せるとあっという間に人だかりができた。
そして当然のごとく周りの連中からは羨望や嫉妬の視線を向けられる。
浮世離れした美女三人に囲まれやがって、と。
それが、あまりにも気持ち良かったので、山本長官はあちらこちらでその写真を見せびらかしていた。
連合艦隊司令長官とは思えない大人げない態度だった。
一方で見せられた側の人間たちは、その写真が欲しくてたまらなくなった。
かわいい巫女様が三人も写っているのだから、きっとものすごいご利益もあるのではないか。
欲しい。
しかし、相手は雲の上の連合艦隊司令長官。
写真をくれなどとは口が裂けても言えない。
だが、そこに異を唱える勇者が現れる。
真珠湾攻撃を皮切りに開戦以来大戦果を挙げ続け、飛ぶ鳥を落とす勢いの第一航空艦隊司令長官の南雲中将だった。
インド洋作戦で巫女の託宣に助けられ、その巫女たちを今では命の恩人とさえ思っている南雲長官は、やっぱり自分も写真が欲しかった。
南雲長官はインド洋作戦が終わった後、時間に余裕ができたときに作戦成功の礼を言うために三人の巫女と会った。
彼女たちは聡明で美しく、次から次へと繰り出される愉快かつ知的なトークは大げさではなくほんとうに時がたつのを忘れさせた。
会ったのはその時の一度きりだが、出来るのであれば毎日でも会いたかった。
せめて写真でもいいから。
そう思っていたら、そんな南雲長官の心情を見透かしたかのように山本長官が勝ち誇ったように件の写真を見せびらかしたのだ。
南雲長官は山本長官に抗議した。
職権乱用ではないかと。
そして、そんな南雲長官の元に同じ思いを抱いた男たちが集結した。
男たちは、山本長官に面会を申し込んだ。
そこで山本長官はこれは職権を乱用したものではなく個人的なつながりで得た写真だと弁明したが、片や大将の山本長官、片や少佐にすぎない巫女たちでは説得力が無かった。
このままではいらぬパワハラの疑いを招くと悟った山本長官は巫女たちに事情を説明、写真を撮らせてもらえないかと泣きついた。
そうしたところ、彼女たちは写真は海軍内だけにとどめること、そしてそれを有料とし、その収益を戦争孤児や戦死した将兵の遺族たちに使ってもらえるならば承諾すると言った。
山本長官にとっては渡りに船だった。
さっそく海軍報道部の撮影スタッフを手配し、巫女たちに来てもらった。
その写真撮影会場は尋常では無い数の人間が集まっていた。
なぜか報道部とは関係無さそうな人間までいる。
実は秘密のベールに包まれた巫女たちを一目見ようと職権を乱用してこの場に来た者が大勢いたのだ。
ギャラリーのあまりの多さにとまどいつつも、報道部長は最初、三人の巫女がそれぞれ正面からほほ笑む写真が撮れれば十分だと考えていた
だがしかし、それに対して巫女たちが異を唱える。
それでは数がさばけない。
収益が上がらないのだと。
巫女たちの話によれば、さまざまなバリエーションの写真を数多く撮り、内容を分からないようにして売るのだという。
そのことで、購買者の所有欲を刺激し、完全コンプリートするまで何枚でも買わせるのだ。
当然、同じ写真を引きあててしまうこともあるが、その場合は他の人と交換するかあきらめてもうらかだという。
商魂たくましいと思ったのは、写真のうちの何種類かを極端に流通量を減らすという提案だった。
そのことで、金を持った将兵はそれを引き当てるまで何枚でも買ってくれるだろうということだ。
彼女たちは、その写真が売れれば売れるほど遺族や孤児たちが助かるのだから、可能な限り売り上げが伸びるように算段したいらしい。
そのために、恥ずかしいのを忍んで写真撮影を承諾したのだという。
彼女たちの遺族らへの思いやりと献身に感動した報道部長はその提案を受け入れ、多数の写真を撮るようにカメラマンに指示した。
それからは、巫女たちも会場の軍人たちもノリノリだった。
杏の提案でアニメからヒントを得たポーズを三人の巫女たちは決めまくった。
もともと令和時代ではコスプレ喫茶でバイトをしていたのだ。
ファンの要望を受けたカメラ目線などお手のものだった。
だが、こうなってくるとふだんなら時局をわきまえろとか無粋なことを言ってくる輩もいるはずなのだが、ここにいる軍人たちは巫女見たさに職権を乱用するような連中ばかりだから誰もそんなことは言わない。
もし、仮にそのようなことを言う人間がいれば、逆に空気を読めという視線にさらされるだけだろう。
やがて、興が乗ってきた三人娘は昭和十七年のガイドラインぎりぎりのセクシーポーズや表情もサービス、最後には調子に乗った聖子が十八番のアヘ顔ダブルピースまで披露した。
しかし、さすがにその時は顔面を蒼白にした報道部長がやってきて、救国の巫女様がそのような表情をなさるのはやめてくださいと涙ながらに懇願した。
そのことで、自身が周りが見えない一種の興奮状態に陥っていたことを自覚した聖子は、今自分が何をしでかしたのかを理解し、顔を真っ赤にした。
それからほどなくして全国の海軍基地で巫女たちの写真が発売された。
写真を買うことでいくばくかの金が遺族たちにまわるということが大義名分となり、写真は飛ぶように売れた。
さらに三人娘がにらんだ通り、そのうちの少なくない者が所有欲を刺激され、完全コンプを目指して写真を買いまくった。
中には入荷したとたんにすべての写真をまとめ買いして他の将兵から顰蹙をかう者まで現れたという。
そして、事前に十分に予想された事態は当然のように起こった。
将兵の多くは、巫女の写真をお守りがわりとして購入していた。
また、収益の一部が遺族の懐に入るのを知って購入を決めた者も多い。
だが、軍隊の多くは若い男子。
実用品として買う者も後を絶たなかった。
そんな連中にとって最高のおかずは美津子だった。
杏も美津子も聖子もいずれも美人で、首から上は単に好みの問題だった。
しかし、首から下は美津子が圧倒的な戦力を保持していた。
一方の杏も聖子もその戦力は貧弱では無い。
令和の時代においても十分に平均以上だ。
艦で言えば重巡級だろう。
だが、美津子は間違いなく戦艦級だった。
そして、いつしか実用性重視の将兵の間で写真の闇交換レートが存在するようになった。
美津子一枚に対して杏二枚、あるいは美津子一枚に聖子二枚。
後にダブルスコアによる敗北を知った聖子が叫ぶ。
「女はおっぱいじゃねー。テクニックだー」
そんな聖子を見て杏は思う。
アレの小さな男の人と同じことを言っていると。
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