第31話 第一航空艦隊

 第一航空艦隊はミッドウェー北西海域の攻撃開始地点に到達すると同時に第一次攻撃隊を出撃させた。

 その少し前に重巡から一二機の零式水偵が米機動部隊の姿を求めて発進しており、間もなく第二段索敵として同じく一二機の零式水偵が後続するはずだった。



 第一航空艦隊

 甲部隊

 空母「赤城」 (零戦二七、九九艦爆一八、九七艦攻一八)

 空母「加賀」 (零戦二七、九九艦爆一八、九七艦攻二七)

 空母「瑞鳳」 (零戦二七)

 戦艦「霧島」「榛名」

 重巡「利根」「筑摩」「妙高」「羽黒」

 軽巡「長良」

 駆逐艦「風雲」「夕雲」「巻雲」「秋雲」「嵐」「野分」「萩風」「舞風」「磯風」「浦風」「浜風」「谷風」


 乙部隊

 空母「蒼龍」 (零戦二一、九九艦爆一八、九七艦攻一八)

 空母「祥鳳」 (零戦二七)

 戦艦「比叡」「金剛」

 重巡「熊野」「鈴谷」「最上」「三隈」

 軽巡「神通」

 駆逐艦「雪風」「時津風」「天津風」「初風」「陽炎」「不知火」「霞」「霰」「親潮」「黒潮」「朝潮」「荒潮」


 丙部隊

 空母「隼鷹」 (零戦二一、九九艦爆一八、九七艦攻九)

 空母「龍驤」 (零戦三三)

 戦艦「大和」

 重巡「愛宕」「鳥海」「高雄」「摩耶」

 軽巡「川内」

 駆逐艦「五月雨」「春雨」「村雨」「夕立」「吹雪」「白雪」「初雪」「叢雲」「磯波」「浦波」「敷波」「綾波」


 補給部隊

 空母「大鷹」 (零戦一二、九七艦攻九)

 重巡「那智」

 軽巡「由良」「阿武隈」

 駆逐艦「朝雲」「峯雲」「夏雲」「雷」「電」「潮」「曙」「漣」「響」「暁」「若葉」「初春」「初霜」

 水上機母艦「日進」

 油槽船一六、輸送船一八



 一航艦を指揮する南雲長官は日本を発ってから機嫌が悪かった。

 原因は山本連合艦隊司令長官だった。

 半月前、連合艦隊司令部と一航艦、それにオブザーバーの聖子による会議の席上で、聖子は自身もミッドウェー作戦に参加させるよう山本長官に直訴した。

 聖子によると、米軍がなにやら策動している気配があるのだが、巫女の力が完全復活していないうえにミッドウェーはあまりに遠く、その正体が何なのか分からないと言う。

 もちろん、聖子も一航艦が負けるとは思っていないらしい。

 しかし、それでも自身が現地に行くことによって、米軍の目論見を見破ることはかなわないまでも今感じている気配の正体を知ることで、場合によっては友軍の被害を減らせるかもしれないということだった。

 南雲長官は聖子を戦場に出すことは本意ではない。

 女の子には安全なところにいてほしい。

 だが、聖子の決意は固く、結局は山本長官が折れた。

 ただし、敵に真っ先に狙われる空母はやはり危険すぎるとして防御力の高い戦艦「大和」に乗るのであれば許可するという条件付きだった。

 聖子も不承不承ではあったが、その辺が落としどころだと思ったのだろう。

 もし、何かあれば「大和」から「赤城」にすぐに連絡を取れるようにしておいてほしいという要望を伝えて彼女は「大和」に乗り組むことを了承した。


 南雲長官は思う。

 ここまではいい。

 聖子が「赤城」に乗艦しないのは残念だが、空母は危険すぎるという山本長官の言うことは正論だ。

 許せないのはその山本長官がよりにもよって、その「大和」に乗り組んでいたことだった。

 お前、完全に聖子の尻を追いかけて来ただろう?

 今がどういう時局なのか分かっているのか?

 連合艦隊司令長官が職場放棄をしてどうする?

 それに、お前、巫女の写真撮影会に行った士官らを職権乱用だと言ってそいつらをことごとく左遷するか昇進にストップをかけただろう?

 自分が巫女の写真撮影会に行けなかったからと言って、ひがんでいるだけじゃないのか?

 南雲長官の胸中に疑問の形を取った山本長官への罵詈雑言が次から次へとわきあがってくる。

 とどめはその山本長官からの一言だった。


 「私は巫女様をお守りするために『大和』に乗るだけだ。貴官の航空戦の指揮に一切口出しをするつもりは無いよ」


 つまり、航空戦以外は口を出す気満々じゃねえか。

 この戦い、航空戦だけで片が付くわけがねえだろう。

 誰が見たって最後は水上砲雷撃戦になるのは分かり切っている。

 だから「大和」を選んだのだろう。

 聖子にかっこいいところを見せたい、つまりは自分がおいしいところ持っていきたいという欲望むき出しじゃねえか。

 「赤城」艦橋で、命令の言葉以外には何も発しようとしない南雲長官のただならぬ様子に、周りの参謀たちは恐れをなして近寄ろうとはしなかった。

 ただ、彼らがそのことを「今回の戦いにかける南雲長官殿の気迫は凄まじいものがある」と誤解してくれたことは幸いだった。






 南雲長官が「航空戦だけで片が付くわけがない」というのは根拠があった。

 開戦時に比べて一航艦の対艦攻撃能力が著しく減衰しているのだ。

 現在、一航艦には対艦打撃能力を持つ九九艦爆と九七艦攻がそれぞれ七二機搭載されている。

 これは、真珠湾奇襲時と比べて半分をやや上回る程度の数でしかなかった。

 インド洋作戦に本土東方沖海戦、それに珊瑚海海戦で機体とともにあまりにも多くの熟練搭乗員を失ってしまったからだ。

 現在、一航艦に搭載されているこれら九九艦爆や九七艦攻にしたところで、作戦に参加しない「翔鶴」や「瑞鶴」、それに「飛龍」の機体をかき集めてやっとこさ揃えたものだ。

 零戦隊に至っては作戦に参加しない空母からの補充だけでは足らず、南方作戦を終えた基地航空隊から母艦勤務経験者を抽出し、さらに内地の航空隊から熟練搭乗員を根こそぎ動員してかろうじて定数を満たすことができたのだ。

 南雲長官はこのミッドウェーの戦いでも多数の熟練搭乗員を失うことを覚悟し、また過去の経験からそのことを確信していた。

 いずれにせよ、この海戦に勝とうが負けようが、一航艦はこの戦いが終わった後、しばらくの間は戦闘力を失うだろう。

 だから、作戦終了後は母艦航空隊の補充を行い、訓練をほどこさねばならないが、それには少なくとも数カ月はかかるはずだ。

 それでも、全体として真珠湾奇襲時のような技量は望めないだろう。

 南雲長官はだからこそ、この戦いが決して敗北が許されない皇国の興廃をかけた一戦だと思っている。

 巫女の聖子もそれが分かっていて、危険を承知のうえで「赤城」乗り組みを志願したのだろう。

 それを、あのクソおやじは・・・・・・

 南雲長官は胸中で山本長官を罵り続ける。

 それが十数度目のループに入ったとき、索敵に出した水偵から空母二隻を中心とする敵機動部隊発見の報が飛び込んできた。

 南雲長官はただちに第二次攻撃隊の発進を命じた。



 第一次攻撃隊(ミッドウェー基地空襲)

 「赤城」 (零戦九 九九艦爆一八)

 「加賀」 (零戦九 九九艦爆一八 九七艦攻九)

 「瑞鳳」 (零戦九)

 「蒼龍」 (九七艦攻一八)

 「祥鳳」 (零戦九)

 「隼鷹」 (九七艦攻九)


第二次攻撃隊(敵機動部隊攻撃)

「赤城」 (零戦九 九七艦攻一八)

「加賀」 (零戦九 九七艦攻一八)

「蒼龍」 (零戦三 九九艦爆一八)

「隼鷹」 (零戦三 九九艦爆一八)

「龍驤」 (零戦一五)

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