第36話 君は人だ

「だけどそれじゃあ、君が秘密を打ち明けただけで、特に何も変わらないんじゃないかな?」


「えっ……」


人間ではないって言われたら、距離を置いたりする物じゃないか? 人間でないことをいいことに虐めてきたりとか。

恵たちに視線を向けると、遥の言う通り俺の予想とは異なる反応をした。


「ん? なんだ? 俺の顔に何かついてるか?」


「恵……空気読みなよ。……私は、蒼くんが人間じゃないことに、むしろ感謝してる。蒼くんいなければ、私たち……死んでたかもだから……」


「私は……みんなより早く知ったし」


「ほら?」


雄紀も無言で頷いている。


「君はその人間ではなく、自動人形という事実は驚くことだけど、言われないと分からないし。君が人間でなくとも“人”であることは変わらないよ」


「そう、なんですか……」


結果的に考えすぎだった。まだあって月日は浅いとはいえ、仲間として共に切磋琢磨してきた仲だ。そこで急に人外宣言をしても、その関係に綻びが生まれることはなかったのだ。


「ありがとう、ございます」


「うんうん、感謝しろ感謝しろ〜」


深く頭を下げた俺の背中をポンポンと遥は叩く。


「ほら、今日は飲むぞ飲むぞ〜」


「遥先輩、そのテンションは酒飲むときのですよ」


「ほれぇ、蒼も飲め飲め!」


遥が蒼のコップの烏龍茶をギリギリまで注ぐ。


「ほらほら遠慮するなよぅ」


そしてコップの縁ギリギリにまで注がれたそれを、手に取って飲み干した。


「プハーっ! やっぱコレが良いわぁ!」


「ちょっ、遥!? 様子がおかしい! 誰か遥を止めろぉぉぉ!」


雄紀の叫びのあと、恵が彼女のうなじに軽く手刀を入れて気絶させた。


「「「「「…………」」」」」


なんか空気が悪い。そりゃそうだ。憧れの人が酒を飲んだわけでもないのに酔っ払いのような言動をしたのだから。


「遥先輩……」


結局、パーティーはその時に止めて、雄紀が遥を保健室に移動。残った俺らはパーティーの後片付けをした。


「「「「…………」」」」


とても気まずい。主催者もそのお目付役もいない。


何か、話題を作ればいいのか? だがこの空気で下手な事を言えば滑るかもしれない。いや、滑ってもそれを笑いに変えてしてしまえばいいのか? だが俺にそんなボキャブラリーはないし……


俺が言い淀んでいると、その場の空気を変えるように恵の口を開いた。


「蒼の事さ、俺言いふらす気、ねえから」


俺のことか!? いや、なにも喋らないままよりかはマシだけれでも。この話題もちょっと重い。


「「私も!」」


と、女子2人。


本当にこの人たちはいい人ばかりだ。俺が人間ではない、その事実を知ってもこれからも付き合いは変わらないと。本当に俺は恵まれている。拾ってくれた両親は実の息子と変わらず可愛がってくれた。


「頑張って、皆さんに恩返しします」


「おう。まぁ、倍で返すけどな!」


そう言った恵の顔は、満面の笑顔だった。それに釣られてこっちも笑ってしまうしまうではないか。


マスターの愛海を守るには当然だ。だが、一緒に恵や優里、俺に関わった人たちみんなを守りたい。そう思った。

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