第44話 初々しい

「すみません、ご心配をおかけしました」


「大丈夫よ」


実家で食事した後、俺はすぐさま東京に戻ってきていた。今は普通に登校している。


「あの後家に封筒が届いてさ、褒章したいから都庁に来てくれだって」


「了解しました。いつですか?」


「えっと、確か来週の……土曜日?だった気がする」


「では後で確認してみますね」


発電所の件だろう。でもアレは晴翔兄さんが解決したようなんものではないかと思う。俺は一時的に電気を供給しただけだ。


「十分だよ」


愛海が俺の頭に手を伸ばし、軽くではあったが撫でてくれた。


「は、恥ずかしいです……」


「えへへ〜、弟がいたらこうやって撫でてたんだろうな〜」


「愛海、嬉しいんですけど場所を考えてください……」


ここは学校。今は放課後だが部活や委員会の仕事で残っている生徒はたくさんいる。こんな公然の場所でこうされるのは恥ずかしい。

彼女も周りの視線に気づいたようで、手を下ろすと顔を赤く染め、手で覆う。


「と、とりあえず、また明日」


「そそそ、そうねっ」


すたすたと衆目に晒されながら廊下を歩く。と言うのも、愛海が俺の手と繋いだままだったからだ。男女が手を繋いで歩いている。それすなわち恋人同士だと認識される。

俺と愛海はそのような関係ではない。愛海は俺のマスターで、同級生で、仲間だ。そもそも自動人形の俺に「好き」という感情は不釣り合いどころか抱いてはいけない。

なのに、この胸の高鳴りは何だろう。彼女と繋いでいる手が異様に熱く感じる。彼女の照れる顔を見ていると、こちらまで照れてしまう。まるでこれは、人間が抱く「好き」と同じ感情__

駄目だ。彼女はマスター、俺は自動人形。それだけの関係、それだけの関係なんだ。

だけど、そう思い込ませることがいかに無駄なことか、分かってしまっている自分がいる。


蒼と別れた後、愛海は恵と優里と行動を共にしていた。


「ねぇ、どうしよう」


これだけじゃ伝わらないと知ってても、何故か口に出てしまった。


「何のことだ?」


「そ、その……蒼くんとのこと……」


愛海は照れくさそうに答える。


「私、なんか蒼くんと一緒にいると、気持ちが満たされるというか、楽しいというか……蒼くんがめっちゃカッコよくて見えて、それで……」


2人にピーンと、愛海の言いたいことが何なのか思いつく。それは「蒼に恋をしている」に違いない。


「「それは恋だよ」」


2人の声が重なる。


「いやいやいやっ、そんなの蒼に失礼だよ!」


「うん、それ、恋」


「私なんか不釣り合いだよっ」


 これはある意味重症だな、と2人は頭を抱える。


「たーっくもう。明日『好きです。付き合ってください!』って言えばいいだろ〜」


「えぇっ。そんなできないよ。いきなり告白なんてしたら蒼に引かれちゃう」


「なら、カラオケとか、何か誘ったら? プールもあるし」


「そ、それは……」


愛海は想像した。自分の素足とか、危ない所以外見られるのは別に良い。しかしこっちが相手の方を見るのは別。彼はまさに女子ウケしそうな体つきをしていて、絶対カッコいいんだろうな。それが合法的に拝……見ることが出来ちゃうんだよ!? 無理! 私が! 耐えられない!


「はわわわわ……」


「「……」」


絶対変な妄想してるな。彼女の様子を見れば分かる。あれは完全に男の体を見ることに緊張、というか1人で勝手に恥ずかしくなってる様子だ。


「とりあえず、落ち着こう」


「そうね! ひっひっふー、ひっひっふーっ」


「それ産むときのやつ!」


「愛海、もしかして、ヨユーある?」


「そんなわけないよ!」


「分かったから、俺たちを呼び寄せたワケを教えろ」


実は愛海が2人に一緒に帰ろう、と言っていた。


「その、蒼に何プレゼントしたら良いかなぁって」


「プレゼントぉ?」


「うん。ただ男子って何あげれば良いか分からなくて」


「ソユコト……」


男子がもらって嬉しいもの。文房具は自分で好きなものを買っているだろう。

そもそも彼は人間ではないのだから、自分の『男子がもらって嬉しそうなもの』が通じるか分からない。


「難しいな」


「恵は何もらええば、嬉しい?」


「俺か? 俺は、ゲーム機は持ってるし……アイスとかくれると嬉しいな!」


「アイス?」


「俺はファッションとかキョーミねーし、変に凝ったもの貰うより食べれるモノくれた方が良い」


「聞く相手を間違えた」


「やっぱこの話はなし!」


「「え〜どうして」」


普段はガツガツいくのに、こういうことになると急に奥手になるな。いつも通りでいいだろうに。


(このままじゃ愛海の初恋は実らない)


(そうだな。俺たちがサポートするか)


(ガッテン)


と2人はアイコンタクトのみでやり取りをした。


「みんなでショッピングモールに行くとかどうだ?」


「それならオマエも緊張しねえだろ」


「私たちが、いるし」


「たしかに」


「あとはLINEで詰めよーぜ」


気づけば駅にまで来ていたので、3人は別れた。

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