第10話 自動人形、教える
初めての訓練から数日が経った。
俺と恵は時の人気者になり、クラスメートに話しかけられるようになった。特に俺に関しては、恵は主に前衛の人から話しかけられるが、俺は何故か後衛の人からも話しかけられる。そして、その時に大体言われるのが「魔法教えてくれない?」だ。
出来れば教えてあげたいが、俺とこの世界の人達が使う魔法はだいぶ違う。
魔法には、発動の仕方で2つに分かれる。その一つが、頭の中で魔法式を書き出す方法、「書き出し式」だ。俺もこのやり方だ。この方法の良いところは"頭の中で魔法式を書き出しさえすれば"、無詠唱で魔法を発動出来る。
悪いところは人間にはこの方法が向いていない事だ。人間の頭脳では、文字の羅列を全て覚え、それを頭の中で思い出すのは難しい。逆に俺(自動人形)やゴーレム、魔導具ならば、その処理が早いので向いている。
もう1つが〈スキル〉の恩恵を受ける「スキル式」。この方法は、〈スキル〉が勝手に脳内に魔法式を作ってくれるため、ある意味「書き出し式」と同じだが、こちらは逆に人間には向いていて俺(自動人形)やゴーレムには出来な・い。また、最初は詠唱が必要で、発動に時間がかかりやすい。
そもそも、自動人形やゴーレムには〈スキル〉ないので、自分で地道に書き出すしかない。まぁ優秀な魔導頭脳(魔法版コンピューターのような物)であれば、「スキル式」よりも早く魔法を発動出来るのだが。
俺は「書き出し式」、対して彼らは「スキル式」。俺はただただ魔法式を覚えて、それで魔法を発動する練習をしろ、としか言えない。
「スキル式」は、努力で何とかなる。用は数をこなせばいいのだ。だから今できなくとも、魔法を日常的に使っていれば、そのうち無詠唱を習得できる。
ある日の昼休み。案の定俺は同じパーティメンバーの愛海と優里から魔法を教えてほしいと言われた。
流石にパーティメンバーのお願いを断れる訳もなく、俺たち3人は早めに闘技場へ移動した。
「さて、何から教えましょうか……」
来てはみたものの、何を教えれば良いのか分からない。精々魔力操作が上手くなる訓練を教えれるくらいだ。
……うん? 魔力操作の訓練……?
魔力操作が上達すれば、少ない魔力で大きな効果をもたらす魔法を発動出来る。発動した後の調整もしやすくなる。無詠唱がしやすくなる。後は発動速度が早くなったりもする。
よし。
「ねぇ、この前蒼がやってた無詠唱で同時に5つの魔法を発動してた奴。コツを教えて欲しいんだけど……?」
「私も。それ教えて、欲しい」
残念ながらそれは無理です。なので……
「まずは魔力操作の練習をしましょうか」
「「魔力操作?」」
そこからか。
「魔力操作って言うのは、そのままの意味で、魔力を操作する事です」
「魔力操作をすると、どうなるの?」
「魔力操作が上達すれば、普通よりも少ない魔力消費量で済んだり、発動後の魔法の操作などが出来るようになったりします」
「無詠唱と関係は?」
「もちろん、無詠唱で発動しやすくなります」
よし、っとガッツポーズをする2人。
「では、〈筋力強化〉で練習しましょうか」
「「?」」
分かりやすく頭を傾げる2人。まぁ、これだけ聞いても分からないか。
「とりあえず、やってみてください」
俺の言葉の後、2人は〈筋力強化〉を自分にかける。
うん。やっぱりこの2人は腕が良い。基本はしっかり出来ている。早速2段階目に移ろう。
「それでは……今は〈筋力強化〉が全身にかかっている状態です。これを片腕だけに集中させてみましょう」
「片腕だけに?」
「はい。とりあえずやってみましょう」
2人とも顔を強張らせながら、腕に〈筋力強化〉を集中させようとしている。優里は覚えが早く、もう少しで形になりそうだが、愛海はまだまだ出来そうにない。
「全身の魔力を、強化したい腕に移動させる感じでやってみてください」
「……ねぇ、蒼くん。こんな感じ?」
「どれどれ……」
俺は魔力や、魔力の素となる魔素は空間認識センサーで感知している。そのため、魔力がどこに、どれくらい集まっているのか分かる。
優里はほぼ完璧に腕に〈筋力強化〉を集中させることが出来ていた。
「はい、出来ています。」
「やった……!」
「良いなぁ、優里」
羨ましそうにいう愛海。
ただこれは優里の覚えが早すぎるだけだ。他の人からすれば、愛海もいい線いっている。
「この〈筋力強化〉は、全身を強化する必要がない時、つまり局所的に強化したい時に使えます。無駄な強化をしていないので、上手く調整すればかなり魔力消費を抑えられます」
「なるほど、なるほど」
優里は一回体験したからか、納得している。逆に愛海はいまいちピンと来ていないようだ。これは完全に練習しないと上達しないので、個人の努力に任せるしかない。
その後他の生徒も来て、前衛、後衛に分かれて訓練が始まった。
俺たち前衛の訓練内容は、1対1の模擬戦だった。流石に今回は危ないとのことで、刃を潰してある槍や剣だった。
俺は恵とやる事になった。
「お前とやるのは初めてだな」
「そうですね。あの最初の先生との模擬戦で手を組んだくらい……それ以降はずっと体力作りでしたもんね」
筋トレにランニング、体幹トレーニング。俺にとってはただの動作でしかないが、人間にとってはキツかっただろう。それくらいに量が多かった。
「始め!」
志鎌先生の言葉で、俺たちは一斉に動き出した。
まず恵が俺に最短で迫る。そして1撃、2撃と攻撃して来るが俺はそれを剣で防御。すかさず攻撃してくるが、俺の体には当たらない。
「ちっ! この前と一緒じゃねぇかよ!」
俺は今、先生の動きを真似ている。こうして真似てみると、先生は確かに強いが剣の腕自体は基本を齧った程度。逆に俺が今まで学習して最適化した動きの方が良い。
それもそのはず、先生は槍使いだ。全く違う武器をアレほどまでに扱える先生が凄い。
「ウゼェ!」
流石に頭に来たのか、攻撃に妙に力が入っている。
今度は急に俺から突っ込んでいく。突然のことで焦ったか、恵は引き気味だ。俺は1発、2発
と連続で恵の剣の同じ箇所を攻撃し続ける。
恵はそれを避ける訳でもなく、ずっと剣で受けていたので、とうとう耐久値が限界に達し折れてしまった。
静まる空気。どうやら俺たちが1番最後だったようだ。
「そこまで!」
志鎌先生の言葉を聞き、俺は肩を下ろす。
「今の、狙ってやったのか?」
疲れ果て地面に寝転がる恵に聞かれる。
「はい」
「そっかぁ……やっぱりスゲェや」
「いえいえ。恵くんならすぐできるようになりますよ」
「そ、そうか?」
「はい。筋はかなり良いようですし、攻めの姿勢を維持できれば」
「だよなぁ。まさかいきなり突っ込んでくるとは思わなかったわ」
恵のその目は、ただ虚空を見ているわけではなく、遠くない未来を見据えているようだった。
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