第6話(閑話) 電話とあの声

蒼がダンジョンに潜っている時間帯。蒼のクラスの担任である鈴木香子はある男に電話をかけた。


「もしもし、私よ」

『お前か。お前からかけてくるなんて珍しいな。俺の弟のことか』

「そうよ。今日学校でステータスカードを作ったんだけど…」

『それがどうした? バカ強かったか?』

「いいえ……違うわ」

『じゃあなんなんだ?』


電話越しに聞こえる男は急かすように言う。気になるのだろう。


「名前以外、読み取れない字だったわ…」

『……は?』

「おそらくだけど、性別、年齢、レベル、魔力、スキル、称号の項目……あと名前と性別の間との間に1項目あったわ。ねぇ、これって、アンタがこの前言ってたスライムのステータスと同じじゃ…」


あの子……がダンジョンで蔓延る魔物と同じと考えると身震いする。


『いや、研究者の中にはダンジョンは元々異世界のものだったと仮説を立てている人がいる。もしかしたら「神生蒼」は異世界人なのかもしれない』

「……そう、そうよね……」


男の見解を聞いて少し安心する。


『この事は、他人に漏らしてないよな?』

「え、ええ」

『じゃあ蒼のステータスのデータを俺に送っといてくれ』

「分かったわ。ねぇ、もしあの子が本当に異世界人だとしたら……」

『……普通の学校生活は送れなくなるだろうな……』

「そう……それじゃあギルドの仕事、頑張って」

『ああ』


電話を終え、ふぅ……とため息をする。

まさか自分の生徒がこんな大事になるなんて。一職員である自分に出来ることは少ないが、神生蒼の味方になろう。そう思った。


♦︎ ♦︎ ♦︎


知り合いの女性と電話越しに話した男は、自身の机の引き出しから一枚の書類を出す。


「異世界人、ねぇ……」


神生蒼、推定15歳。道に迷っていた所を散歩中であった小林幸弘に拾われ、そのまま同居。養子縁組をし、5月上旬から国立ダンジョン対策高等学校に編入。それまでの経歴は一切なし。


書類を読み返すと、彼が異世界人である事と辻褄が合わない訳ではない。むしろしっくりする。なら、彼の目的はなんだろうか? なぜこの世界に来たのだろうか?


こんな問題を抱えている者が弟になった事に頭を抱える。


「やっぱり、直接会ってみないとな」


仕事が忙しいせいで実家に帰れず、結果彼にも会えていない。自分は相手の本質を見抜くスキル〈心眼〉があるので、その時に考えよう。


男はそう考え、仕事を終えた。


♦︎ ♦︎ ♦︎


世界の何処かで、創造神は一息ついていた。


「ワシの知識にもない『機械神』。そして自動人形か…」


自動人形が持ち主が居ないまま起動させた状態で放置した場合、1ヶ月もすれば思考がバグり暴走してしまう。だから『疑似人格』と偽り『人間の魂』を憑依させた。正直その場凌ぎではあるが、これで数ヶ月は持つ。


「それにしても、"神生蒼“か。まさか憑依させた魂の名前で名乗るとはの……」


死んだばかりの魂だからか、生前の影響が強く出ているようだ。まぁその方が、暴走する心配も少なくなるが。


機械神というものがどのようなものであるかは分からない。自分と同じく神に名を連ねる存在ではあるが、1度も聞いた事がなかった。


「早く持ち主を登録してもらわなくては…」


下手をすれば人類滅亡……なんて事も考えられる。しかし神は地上に直接手を出してはいけない。精々加護を与えたりするくらいしか出来ない。


この先どうなるのか。それは創造神すら想像出来なかった。

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