第5話 自動人形、初ダンジョン

装備も整ったし、俺は武器を〈アイテムボックス〉にしまう。


この〈アイテムボックス〉は、権能機械神の能力の1つで、念じれば大量の物を出し入れできる便利な能力だ。これに気づいたのは、〈ステータスオープン〉した時である。これはとても便利な能力だ。手が空くし、ほぼ容量無限だ。


俺はその他の必要な物も〈アイテムボックス〉にしまい、部屋を出る。


今日入るダンジョンは、学校からそう遠くない所にある難易度が低いダンジョンだ。学校の訓練でもここを使うらしい。


ここはだいぶ初期に出現したダンジョンで、既に攻略済み。スタンピードが起きない安全なダンジョンだ。初心者向けではあるが、利用者は多い。おそらく同じ学校の生徒もいるだろう。


小学校のグランドにある小山に大きく開けられたような入り口。俺はその隣にあるギルド支部に『利用届け』をだし中に入る。


この『利用届け』というのは登山届けのダンジョンバージョン。遭難などの理由で行方不明になった際に捜索するためだ。


中は洞窟型のダンジョンではあるが、薄暗い暗いくらいで足元に気を付けさえすれば問題ない程だ。俺の前後に他の冒険者がいるが、足を取られることなく、俺に変な視線を向ける様子もない。


……よし。


途中から一気に開けるようになり、冒険者達は散らばっていく。俺も気合いを入れてさらに奥へ。


ピョコンと1匹のスライムが俺の前に現れる。


スライムはゲーム内では雑魚キャラ扱いされているせいか、侮る人が多いが、実際にはとてもすばしっこく、初心者の生半可な攻撃はその身体の性質ゆえ弾かれる。大抵の人は、初めはスライムを倒すのに時間がかかる。


俺はあまり時間をかけたくないのでアイテムボックスから武器をだす。それと同時に目が黄色から赤色にうっすら光る。これは戦闘モードみたいなもので、通常モードの時よりも力が強くなる。


一気に距離を詰めて一閃。うん、これなら前衛として働けるだろう。最悪魔法での援護もできる。


その後、ゴブリンなんかも出たがスライムの時と同じように瞬殺していく。


正直ゴブリンは死体を回収しても金銭的においしくない。スライムなら、そのゼリーのような体なので加工して上手く使われるので、是非とも回収していきたいが。


ただ戦闘の際にどうしても『制限』が目立つ。この『制限』と言うのは、お俺が元いた世界ではゴーレムなどに必ず付けられる機能だ。マスターが登録されていない時、力がMax時よりも10分の1に抑えられ、魔法も攻撃系の魔法は初級くらいしか出来ない。今の俺は機械神となっているのでどれくらい制限されているのか、実際はよく分からないが、どのみちマスター登録を行わないとな。


午後5時を過ぎ、キリも良かったので俺は引き返し、ギルド支部へと戻った。


「素材の買取はこちらでーす!」


夕方というのもあり、建物内は若干混雑している。俺は職員が言っていたカウンターに行き、回収してきたスライムの遺体を換金する。


なんとか職員に変に見られることなくその作業はすぐ終わった。今回の稼ぎはなんとスライム20匹に対し2万円。1日でこの値段は破格だと思われるかもしれないが、スライムゼリーは保冷剤、子供の玩具などで使用される。こと今は5月。これからどんどん暑くなる。スライムを使った保冷剤は従来の保冷剤よりも保冷力が高いので、その分需要が高いのだ。しかし原材料の一部スライムを量産出来ないのが難点。


換金した後、人混みを抜けギルドから出ると、俺の前に1人の男が立ちはだかってきた。


「お前、見ない顔だな? 新人だろ? 先輩冒険者である俺が冒険者のイロハを教えてやるからこれをくれよ」


っと男は片手で金を示し、ニヤニヤ笑いながら脅すかのように腰の短剣を少し抜き見せびらかしてくる。この前の悪漢といい、俺はトラブルに愛されているのだろうか? ごめん被りたい。


「おい、早く答えろ! 俺はC級だぞ!」


C級というのは冒険者のランクの一つ。6つあり、下からE、D、C、B、A、Sとある。特にSランクの冒険者は人外な力を持っていると聞く。ちなみに今の俺のランクはもちろん1番下のE。C級は一人前と言われるランクだ。側から見たら、こうなっては最後俺に勝ち目はないと思うだろう。


俺・が・人・間・で・あ・れ・ば・。


さて、今回はどのように対応しようか。俺は相手がよっぽどの悪人でない限り、普段は攻撃出来ないように倫理設定されているので喧嘩で勝つのはなし。かと言って断ろうとしても、この手の者はしつこいだろう。俺に対しては諦めるかもしれないが、また他の新人冒険者に同じ様なことをするかもしれない。そうゆうのを今後させないために口止めをする必要があるか。


ある程度対応を決めた俺は男に向き直る。


「結構です。冒険者は助け合うものなので、先輩方が親切に教えてくれるのならともかく、見返りを要求するのは筋が違うと思います」

「な、わざわざ俺が教えてやるんだぞ!?」

「あなたのような物事を履き違えている人に教えてもらうよりかは、自分から金出して他の人に教えてもらった方がいいと自分は判断します」

「……くっ」


俺は〈アイテムボックス〉から男の背後に剣を10本剣先を向けた状態でだし、魔法で浮かせ待機させた。


男は短剣に手を添える。その表情は俺に断れたことに驚きつつも脅せばいけるという余裕がある。


「そもそも、自分の危機管理が出来ていない人にイロハを教えてもらっても、それが本当に通じるかどうか分かりませんしね」


俺は男の背後を指差しながら言う。男は俺の指につられて後ろを見る。すると、急に男の顔が青ざめて行き正気がなくなっていく。他の新人に金をたからなくなるように、もっとトラウマを植えつけよう。


俺は男の胸がぐらを掴み、顔を近づかせる。目を戦闘時の色、赤色に変色させ男の目をまっすぐ見ながら周りで見ている冒険者にも聞こえるようにボリュームを上げて言う。


「新人冒険者にお金をたかるのは自由ですが、ミイラ取りがミイラにならないように気を付けてくださいね」


最後に笑みを浮かべ、乱暴に男を突き放す。男は「ああ、あぁ……」と涙を浮かべ完全に萎縮しているから大丈夫だろう。


俺は周りからの視線を避けるため足早にその場を去った。

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