第23話 マギクラフト社の魔道頭脳

自身に異常がない事を確認した俺は、魔道頭脳を再起動させようしたが、直前で愛海に止められる。


「だ、大丈夫なの? さっきみたいな事にならないの?」


「多分大丈夫です。俺が保証します」


「なんか蒼くんがそういうと妙に安心感があるね」


「安心していただけて何よりです。ですが念のため、少し離れてもらえませんか?」


愛海が重い足取りで数歩下がったのを確認して、魔道頭脳を起動させる。魔法をずっと連発したせいか、疲れている。


『ここは……』


無事に起動したそれは、辺りの情報を確認しているようだ。


『あ、蒼お兄ちゃん!』


もし身体があったのなら、そのまま抱き着いてきそうな調子の言葉だった。口調も神生蒼本人っぽいし、変なイントネーションも治っている。どうやら成功したようだ。


「調子はどうだ? 蒼」


「蒼!?」


俺が魔道頭脳を『蒼』と呼び、愛海は訳が分からなくなっている。


『うん。特に変な感じはないかな〜。強いて言うなら身体がないのに違和感があるかな』


「そうか。とりあえず異常が無いなら良い」


「蒼くん! 大丈夫かい!?」


避難していた神生悠が戻ってきた。彼に魂の移動が終わった事を伝える。


「あ、蒼、なんだよな?」


『そうだよお父さん』


我が子の声を聞いて大人らしく無い泣き声を上げている悠を見ていると、俺も泣きたくなってきた。


「えっと。か、解決?でいいのかな?」


事情をほぼ全く知らない愛海が聞いてくる。そんな彼女に俺は「知らなくて大丈夫ですよ」と涙を流しながら言った。





結局魔道頭脳の暴走によって、整備工場の備品はほぼ全滅。その日来ていた客の魔道具の8割ほど壊れるという損壊で終わった。それに対しマギクラフト社は「無償で新品を用意する」と後日行われた会見で発表した。この失態により、マギクラフト社は今までの勢いをなくす……と思われていたが同会見でその意見は打ち消される事になる。


「__同時に、我が社から会見という場ではありますが、お見せしたいものがあります」


その発言をきっかけに、裏からある物がのったテーブルが運ばれてくる。シャッター音がうるさいくらいに鳴り続ける。


音が止んだと同時にマギクラフト社社長、神生悠はテーブルの上にのっている物に掛かっている布を取る。


「現代のコンピューターの進化形、世界初の魔道頭脳です! “ブロア”、挨拶をしなさい」


『みんな初めまして! 僕の名前はブロアです! よろしくお願いします』


「「「「おお〜」」」」


「こちら、ブロアは__」


説明が長々と続く。おそらく、今回の事件の記憶をこの『世界初の魔導頭脳』で薄れさせようという魂胆だろう。


その作戦は成功し、会見の後半はほとんど記者から魔導頭脳『ブロア』に対する質問会みたいになっていた。当然、ブロアの正体はあの人暴走した魔道頭脳である。名前の由来は『神生蒼』から名前だけとって『あおい』。それをスウェーデン語にしたらしい。『あおい』は日本では熟していない青色の実から『未熟』という解釈が出来る。開発者である神生悠は今回の騒動から自分がいかに未熟か思い知ったらしい。彼は取り返しのつかないような事をしてしまったけど、これから挽回していって欲しいと思う。


あの日の事、俺の『本気』のことは愛海には誰にも言わないようにと口止めをした。彼女のサポートがあったとはいえ、1人でベテラン冒険者が複数人で挑むような敵を倒したのだ。変に目をつけられたくない。




マギクラフト社の記者会見から更に数日後の休日。インターフォンが鳴ったので出ると神生悠が来ていた。何やら色々持ってきたようで、俺はすぐに彼を家に入ってもらう。


「高校生が、こんなに良いところに住めるんだねぇ」


「実家からの仕送りが多いので。それにこの部屋は一括で払ってくれたそうです」


「一括で……君のご実家も謎というか、裕福だねぇ」


とお茶を啜る。


「ところで、今日ここに来た要件は何でしょうか?」


「あぁ、そうそう。あの時のお礼に今時の高校生が欲しがりそうな物を持って来たよ。ぜひ貰ってくれ」


大きな袋から取り出したのは最新のゲーム機とそのソフト、文房具、しまいには高性能なゲーミングPCとその周辺機器の受取用の書類が入っていた。


「こ、こんなにですか?」


流石の量に俺は少し怖くなる。


「あぁ。君はそれくらい凄いことをしてくれたからね。感謝しても仕切れないよ」


「そ、そうですか……」


「ところで、話があるんだが、良いかな?」


一転して雰囲気が変わりる。


「はい」


「君はあの時素晴らしい事をした。ただ、それだけではない」


『それだけではない』? 何が言いたいんだ?


「何故君のような高校生が、マギクラフト社という魔法技術において頂点である僕たちに匹敵する、あるいは越える技術と知識を披露したからね」


「そ、そうでしょうか……?」


思わず視線を逸らしたくなる。


「そうさ。魔法技術は基本ウチが独占しているからね。部外者であるはずの君が何故魔法技術の知識を持っているのか。気になるのは当然だろう?」


確かに、この世界の魔道具のほとんどがマギクラフト社製だ。つまり技術・知識は独占されているはず。だが俺はそれらをデータとして記録してあるから悠は疑問に思ったんだ。


「まぁ、言いづらいんだったら言わなくて良いけどね。君は僕らの恩人だ」


はは、と笑う悠。


「ご配慮、感謝します。代わりにといってはなんですが、ちょうどお昼時ですし、昼食食べて行きませんか?」


「お、助かるよ」


「何か食べられない物はありませんか?」


「特にないよ」


「分かりました」


そうして、俺は2人分の食事を用意することになった。

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