第22話 謎の多い彼

彼との最初に会ったのは、入学前の日の夜。私は男に襲われていた。その男は冒険者だったのか力が強く、男の拘束を振り解けなかった。私は攻撃魔法が得意だ。杖も持ってたし、やろうと思えば反撃出来た。だけど法律で、許可された場所以外での攻撃魔法は禁止されている。それは冒険者が使う武器も同じだ。しかし、あの時に魔法を使っても正当防衛として扱ってもらえるかもしれない。だがそれは“普通の魔法使い”の場合だ。私の魔法は他の人に比べて強い。初級魔法でも、私の場合はそれが殺傷性を持ってしまう。初めて魔法が使えた時、ちゃんと練習用の的に当たったが、近くに家族がいたので、もし魔法が家族に当たっていたら……と今でも思い出す。そんな事があって私は普通じゃない事を自覚している。だから、魔法を撃たなかった。代わりに悲鳴をあげた。これで助けが来なかったら、私は誘拐されてしまうだろう。そんな思いの叫びだった。


その時、彼と出会ったのだ。暗い夜でも輝いて見える彼は、まるで異世界から来た王子様だった。彼は警察が来るまで男と会話をして私を助けてくれた。


よく見ると彼は私と同じくらいの歳で、まるでアニメのキャラクターのように整った顔だった。


危ない危ない。ありがとう言わないと。あまりに好みの容姿で見惚れてしまった。


「助けていただき、ありがとうございます!」


「いえいえ。俺は通報しただけですので」


通報? 彼はいつ通報したのだろうか? 私を助ける前に?


それを彼に聞いてみると、誤魔化すかのようにその場去っていった。


私の彼に対する謎が生まれた。


そんな出会いの相手と、入学先の学校ですぐ再会するとは思わなかった。しかも同じパーティー。これには運命を感じずにはいられない。


それから数日が過ぎ、訓練場での授業で彼はその化け物っぷりを見せた。見たこともない剣の魔道具を使い、無詠唱で魔法を使えるのにも関わらず、剣の腕もあまり詳しくない私から見ても良い。それに、恵は息切れしていたのに彼は全然余裕そうだった。剣も魔法も出来る。私は、そんな人を知らなかったし、普通いないと思う。


授業でも彼はその異常さを発揮していた。平均60点のテストで毎回100点を叩き出している。分からない問題を質問してみると、これ以上にないくらい分かりやすく解説してくれる。彼がどれくらい出来るのか知りたくて、まだ授業ではやっていない内容の問題を解説してもらったけど、彼は問題を見て迷うことなくすぐ解説を始める。


ただ人付き合いが苦手なのか、彼はこっちから話しかけない限り基本1人でいる。自分の席で課題をやっていたり、当番の仕事をさりげなくやっていたり。


私はそんな不思議な彼に惹かれて、優里と一緒に、「魔法を教えて」と彼に頼んでみた。彼のような力を自分にも、という気持ちで頼みこんだが、それは気持ち全体の3割くらいで、残り7割は『彼ともっと話したい』という願望だった。


彼は私たちの頼みを快く受け入れてくれて、色々な事を教えてもらった。その一つが、『魔力操作』だ。


漫画とかで聞くような言葉だけど、まさか現実でも同じようなものがあるなんて。


私は驚かずにはいられなかった。


彼は、どこでそのような知識と技術を得たのだろう? 彼の近くにいるだけでその謎が段々深まっていく。


6月。珍しく彼は学校を休んだ。本当に珍しかったからか、恵が「明日雨でも降るんじゃね?」などとほざいてたけど、実際明日の天気予報は『雨』だった。


あんなに勤勉な彼が、いきなり学校を休むだろうか? 私は疑問に思い、担任の香子先生に聞いてみると、先生も欠席の理由を知らないそうだ。


「やっぱり……」


彼に何か事件が起きて、それで学校に来れないのではないだろうか。私は不安になった。


だが彼は欠席した翌日から再び来るようになった。何事も無かったかのように。




そして今、彼は私の膝の上で気を失っている。一緒にマギクラフト社に来て、別れた後、彼は私がいる整備工場にあろうことかマギクラフト社の社長を連れて来たのだ。しかも大きな魔道具を持って。なので私は何なのか気になり、2人の周りを囲む集団に紛れて様子を見ていた。


何か話しているみたいだったけど、周りの話し声で上手く聞き取れない。残念がっていたその時、突如建物の明かりが消えた。そして、先程彼が持っていた魔道具に他の魔道具が吸い寄せられて行く。


「危険です! 離れて! 避難してください!」


彼の呼びかける声が聞こえ、私は自分の杖をバッグに入れたのを確認して急いで避難した。


避難はしたけれども、本当にそれで良いのだろうか? そんな疑問が頭に浮かぶ。当たりを見渡してみると、蒼くんがいないことに気づく。


(何でいないの!?)


驚きのあまり、身体中から魔力が溢れ出てしまう。すぐ冷静になり落ち着かせる。


こればっかりは気をつけないと。自分は魔法だけではなく、魔力量も異常なんだ。しっかりコントロールしないと。


そう思っていると、工場ないから激しく物がぶつかり合う音が聞こえ始めた。蒼くんの事が心配になり、入り口からそっと顔を出して様子を窺う。


「何、アレ……」


彼は、見たこともない人型の“何か”と戦っていた。まるでそれは、ゲームでいう『ゴーレム』だった。


そのゴーレムの攻撃だろうか。魔道具が彼めがけて飛んでいく。彼がそれを避けると壁や床に当たり音が鳴る。


(さっきの音はこれだったんだ)


蒼くんはゴーレムの攻撃を軽々と避けたり、剣で受けたりしていて、全く食らっている感じじゃない。ただ攻めようにも攻撃が激しく、機をうかがっているようだった。


状況が変わったのはすぐだった。何とあのゴーレムは周りの魔道具を操り、その魔道具の魔法で蒼くんを攻撃し始めたのだ。


攻撃が増え、顔には出ていないけど厳しそうだった。


(手伝うべき? だけど私なんかが出しゃばっても足引っ張るだけ……)


加勢したいけど、私が足手纏いになるだけだ。ここは思いを必死に堪えて強い人が来るのを待つかしか……


そう我慢しようとした時、彼の姿勢が崩れそうになった。いや、倒れそうになった。それを見た私は、頭の中から我慢とか、足手纏いだとか、そんな考えが吹っ飛び、気づけば彼の元へ駆け出し、そして抱えていた。


(魔法で風邪を起こして彼が床に倒れるのを遅らせたけど、間に合うもんなの?)


本当にたった数秒でこの距離を移動したのかと疑問になる。身体中から魔力が溢れているから、もしかしたら簡易的な〈筋力上昇〉や〈速度上昇〉みたいな効果を得られたのだろう。


障害物に身を潜め、彼の頭を自分の膝の上に乗せる。


ここまで近づいたのはこれが初めてかもしれない。本当に、人間離れして綺麗で、イケメンで、息が……


(息がない!?)


ヤバイヤバイヤバイ。心臓マッサージ? こーゆー時はAED? けど使い方が分からない。


一瞬どう応急処置をしようか焦ったが、何故だか彼は起き上がる、そんな気がした。




何分待っただろうか? いや、実際は数秒しか経っていない。時間の進みが遅く感じる。


そして、彼は私の膝の上で目を開けた。機械的に動く瞼が開き、隠れていた目が私を見ている。


「どうしてここに?」


彼は私に問いかける。


(どう答えようかな。上げ始めたら正直キリがないんだけど)


蒼くんが倒れそうだったから。気になったから。この前助けてもらった借りを返せていないから。


私が彼の問いに答えると、私の身を案じる言葉を彼は言う。


(これは蒼くんが巻き込んだんじゃない。私が自分の意思で巻き込まれに来たんだ)


だけど私がそう彼に言っても、納得してくれないだろう。だから__


「私だって魔法で戦えるもん。それにこの前の借、返せてないからね」


そう言うと彼は納得してくれた。


「では、これがパーティーとしての初仕事ですね」


そう。学校での訓練を除くとこれが初めてのパーティーメンバーとの初仕事だ。今この場に残りもう2人は居ないけれど、蒼くんと一緒なら勝てる。そんな気がする。


彼は私に作戦を伝えて来た。彼が前衛で私が後衛。どうやら、彼にはあのゴーレムを止める術があるらしい。私は彼がゴーレムに接近するためのサポートの役だ。


せっかくの実戦。日々魔力操作の訓練をしていた成果を確認したい。


普段はあまり使わない氷系の魔法にしよう。ちょうどサポートするのに適した魔法がある。


そう息巻いていた時、突如彼から大量の魔力が発生した。それはもう今までに感じたことのない量で、高ランク冒険者の魔法使い何人分に匹敵するだろうか。それに背中に片側だけだけれど翼みたいなのが生えている。その姿は神々しい。翼に触ってみようと少し手を伸ばすが、電気でビリビリしそうだったので引っ込める。


彼はあたかもその状態が普通かのように、普段と変わらない態度だった。


「では」


彼はそう言うと、勢いよく障害物からその身を出しゴーレムに接近していく。それに気づいたゴーレムが放った攻撃を彼は先程取り出した剣を使って捌いていく。


「危ない! 〈氷雪の壁〉!」


私は彼がゴーレムに接近しやすいように魔法で壁を作る。その壁を彼は遮蔽物として、身を隠してゴーレムの攻撃を避けながら接近していく。


お互い知り合ってあまり経ってないし、なんなら初めて一緒に戦うけど、彼の動きが手に取るようにわかる。次どこにどのタイミングで壁を作れば良いかが分かる。私は戦闘狂ではないけど、今のこの戦闘は楽しく感じる。


後半からは私も攻撃をし、ゴーレムのコア?みたいなのがむき出しになった。彼がそれに触れると、彼の胸から光がコアに移動したように見えた。


「完了しました」


あの光が何だったのか気になるけど、私は買ったことへの嬉しさでいっぱいだった。


その場に佇む彼は、いつの間にか元の姿に戻っていた。

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