第21話 パーティーメンバーとの初めての実戦

俺に土塊が飛来してくる。突然のことに反応が少し遅れたが、危なげなく避ける。だがその一発だけでは終わらなかった。土塊だけではなく、炎や氷、様々なものが俺を目掛けて飛んでくる。


いきなり相手の攻撃の手数が増えたので、捌き切れなく前に障害物に身を隠す。


「あれじゃあ、好き勝手し放題じゃないか!」


どうやら、周りの魔道具に魔法を発動させているらしい。その証拠にいくつもの魔道具が淡く光っている。


(これはヤバい……!)


今まででも受け流しので精一杯だったのに、それにプラス攻撃魔法まで飛んでくるとかいくら俺でも無理だ。せめて、制限がなければ……


悔やんでいても仕方がない。コレを野放しにすると人、物問わず破壊するだろう。誰かがそれを止めなければならない。止められなくても、せめて時間稼ぎさえ出来れば良い。目の前のコレは、おそらく上位の冒険者が束になって立ち向かわないと止められない、化け物になったのだ。


(もう、再起不能になるくらいに壊すしか……)


2度と魔道具による修復が出来ないように、本体の魔道頭脳ごと壊す。開発した悠には申し訳ないが、命を守るためだ、壊すしかない。


そう決心した時、視界が揺らぎ、いつの間にか俺は真っ白な空間にいた。


『お願い! 壊さないであげて!』


そこには10歳にも満たないだろうか。幼い子供がいた。心なしか容姿が俺に似ている、気がする。


『お願いだから、壊さないで……!』


泣きじゃくる男の子は一体……なぜ俺はこんな所に?


『我儘なのは分かってる! だけど、どうしても壊して欲しくないんだ! “お父さん”のために』


『お父さん』? もしかしてこの子は……


「君が、神生蒼なのか?』


『うん。そう、だよ』


「ここはどこだ? なぜ俺がここにいる?」


『ここは多分、精神世界?かな。多分僕が強く願ったからこうなったんだ。『壊して欲しくない、誰にも傷ついて欲しくない』って……』


なるほど、そういう事か。


「君はさっき、『壊さないで』と言っていたな?」


「うん! そうしてくれる、の?」


懇願する顔で俺を覗き込んでくる。


「先に言っておこう。現状では不可能だ」


『そんなぁ……』


自身よりも優れる相手を壊さないようにしろと? 無理がある。逆に俺の方が壊されそうなんだ。なりふり構っていられない。


『じゃあ、もしその制限を、一時的に解除したらどうじゃ?』


もう一つ、老人のような声が背後から聞こえたので振り返ってみると、そこには伝え語られる想像神と瓜二つの姿をしているモノがいた。


『ほっほっほ。ワシは正真正銘創造神じゃぞ? 機械神よ』


この声、間違いない!


「あなたは、この前の」


『ちゃんと覚えておったか』


俺がこっちの世界(日本)にくる前に聞いた、『あの声』だ。


『あまり長くそっちに干渉出来んから、手短に話すぞ』


「あ、はい」


創造神の話によると、あの『神生蒼』を放置すると、多くの命が奪われてしまうらしい。それは俺も予想していた事だが、まさか神が干渉してくるとは。そして、もし俺が止めなかった場合、代わりに駆けつけた複数のAランク冒険者のパーティーが共同で壊すらしい。


「話の内容は理解した。それで、さっき俺の制限を解除するという話があったが……」


『うむ。今のお主ではあれには対処出来んと思ってな。“一時的に”制限を解除することにしたのじゃ』


「一時的に? 完全に解除出来ないのか?」


『出来ないのじゃ。お主の開発者のセキュリティがかなり厳しくてのぉ。創造神であるワシですら解除し切れんのじゃ』


流石我がマスター(開発者)です、と目の前に本人がいたら賞賛したい。


『おっと、そろそろ時間のようじゃ』


「そんな……」


『ゴーレムとかした魔道頭脳と、魂をよろしく頼む。ほれ蒼くん、あっちのお兄さんの方へ行くのじゃ』


『うん、分かった! ありがとう、“おじいちゃん!』


『お、おじいちゃん……』


神生蒼の魂にそう呼ばれ、何故かショックを受けている。


『創造神であるワシが、“おじいちゃん”……』


段々と創造神と神生蒼の魂が消えてゆく。創造神は最後までショックを受けたまま立ち直らなかった。最後がそれで大丈夫だろうか、と心配になる。




現実に戻ってくると、俺はパーティーメンバーである上原愛海膝枕に寝ていた。


「わっ。やっと気づいた。」


何故彼女がここにいる? 避難したのでは……


「どうしてここに?」


「後ろから見てたんだけど、急に倒れたから心配になって」


「すみません。愛海さんをこんな危険な所に……」


「い、良いの。私が自分の意思でここに来たから」


「ですが危険です。早急にこの場から避難をしてください」


「いや。せっかく来たんだもの。手伝うわ」


「いやしかし……」


「私だって魔法で戦えるもん。それにこの前の借、返せてないからね」


確かに、彼女が手伝ってくれるのは嬉しい。不特定多数の事が起きる以上、仲間はいた方が良い。


「では、これがパーティーとしての初仕事ですね」


「うん!」


彼女の覚悟は無駄には出来ない。だが、安全のために障害物に隠れながら戦ってもらおう。俺がやろうとしている事を魂の件は伏せて作戦を彼女に伝える。


『制限が解除されます』


頭にその音声が流れると同時に、全身から力が溢れてくる。思考速度も早くなり、幾らかの余裕が生まれる。背中からは、可視出来るほどに大きな電気で出来た2枚の翼が片側に生える。どうやら今創造神によって制限が解除されたようだ。俺のコアである魔永石から大量の魔力が生み出されるのが目に見えて分かる。


だが、完全な解除ではないからか、権能機械神の能力はあまり使えそうにない。今まででも使えた〈機械操作〉の強化くらいだろうか。


「蒼くん、凄い魔力が……それに、背中の__」


「準備が出来ました。説明は後でお願いします。愛海さんは準備出来ましたか?」


「い、いつでも!」


「では」


俺は障害物から思いっきり飛び出し、『神生蒼』に接近する。それに気づいた『神生蒼』が今まで通り周囲の魔道具を弾として俺に飛ばしてくる。


だが今の俺は制限が解除されている。〈アイテムボックス〉から剣を残りの8本全てを出し、それを遠隔で操作して魔道具を撃ち落とす。


異常に気づいたのか、『神生蒼』は魔道具の魔法を使ってきた。今までは避けるので精一杯だったが、9本もの剣から繰り出される魔法によって打ち消される。それに……


「危ない! 〈氷雪の壁〉!」


愛海が俺に合わせて魔法で壁を作り、攻撃を受け止めてくれる。俺はその壁を利用してさらに接近して行く。


作戦は、俺が接近して相手に触れる。愛海には『神生蒼』の攻撃を出来るだけ防いでもらう、という感じだ。


まるで心が通じ合っているようだった。俺が利用しやすいように、防御しやすいように次々と壁を作り出してくれる。伊藤恵と剣を並べた時はこうにはならなかった。あの時は、恵の動きに俺が合わせていた。だが今は違う。互い意識はしていないはずなのに、何故か愛海が何をするのか手に取るかのように分かる。


これなら行ける!


『神生蒼』に十分近づいた俺は、手に握っている大剣を力強く、高速に振り両腕と両脚を切り落とす。これで身動きは取れない。だがこれで終わりではない。俺はすぐさま『神生蒼』から離れる。


「〈風刃〉!」


愛海が放った攻撃魔法が俺のいた所を通り、胴体のみとなった状態からさらに魔道具が削ぎ落とされ、天井から極太のコードが繋がった魔道頭脳の姿が顕になる。


「蒼くん!」


『神生蒼』に触れる。また魔道具でさっきのゴーレムに戻る前に魂を移す。これはスピード勝負だ。


〈機械操作〉をしようとした瞬間、いつの間にかまたあの真っ白な世界にいた。


『ねぇ。やってくれるのは嬉しいけど、本当に良いの?』


先程創造神をおじいちゃん呼ばわりした神生蒼が聞いてくる。


「あぁ。人間がそう望んでいるからな」


『僕のこの魂を移す事は成功する、と思う。だけど君の中から僕が消えたら、今まで通りでいられるの?』


まだ幼いのに痛い所を突かれた。俺は彼の魂の影響で、人間らしい生活を送れている。この性格も、生活習慣も、全て影響を受けて形成されている。そんな状況で、魂がなくなったらどうなるだろうか? 人間らしく生きるバックアップとなる魂がないので、人間にしては違和感のある素振りをするかもしれない。


「あぁ」


俺は質問に対して、真面目に答える。


「君が俺の中から消えようが、俺は俺だ。今までとなんら変わらない。いや、むしろこれから“自分の”人格をつくっていこうと思う」


『そう。それなら安心だね』




突然、現実世界に戻される。彼との対話も終わった。後は、実行するだけだ。


淡く光ったままピクリとも動かない魔道頭脳にそっと手を置く。


「〈機械操作〉魂移行、強制シャットダウン」


俺の魔永石から小さな光がぼんやりと出てくると、そのまま魔道頭脳に吸われるように移った。


魔道頭脳から光がなくなって行く。10秒もすれば完全に光らなくなった。暴走していたせいか表面が発熱していてとても熱い。


魂を移した際、僅かにに自分の中から抜けたような感覚があったが、特に異常はないようだ。

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