第20話 暴走する魔道頭脳
整備工場に着いた俺たちは、周りの目を気にせず準備を始める。その中にはさっき分かれたパーティーメンバーの愛海もいた。
魔道頭脳を作業台の上に置き、電力と魔力を供給する極太の線を繋げる。
「最後に一つ、言っておくことが」
「なんだい?」
「もし魂を移すのを蒼本人に拒まれたら、その時は諦めてください」
「わ、分かった……!」
こればっかりは魂本人の意志に左右されるため言っておかなければならない。
「念のため、今魔道頭脳に入っている人格と記録のバックアップを取りたいのですが」
「分かった。おーい! 質の良い魔石を持ってきてくれー!」
近くにいた社員らしき人が、慌てて拳大の魔石を持ってきてくれた。
『神生蒼』を〈機械操作〉で半強制的に起動させ、ついでに〈機械操作〉でデータを魔石にコピーしておく。
『あれ、わたしはどうしたのでしょうか? でーたがぬけています』
「「「「お〜」」」」
急に魔道具が話しはじめたからか、周りから感心の声が聞こえてきた。
「君に一つ、言っておくことがある」
『はい』
バックアップを取る前に修正しておきたいことがある。
「君は自身を人間だと思っているようだが、君は人間ではない。魔道頭脳なんだ」
『ちがいます』
「本当だ」
『わたしはにんげんです。にんげんのようにかんがえ、うごくことができます』
「なら、身体を動かしてみるといい。身体があるのであればな」
『……わかりません』
無理難題を突きつけてみると、恐れや怒りといった気持ちが篭っている言葉が帰ってきた。
『わかりません。からだがなにかわかりません。どうして? わたしはにんげんだからからだがあるはず。なんで__』
「さっき言った通り、君はただの魔道頭脳で、身体がないからだ」
『うそだ。わたしはにんげんなんだ! だれがなんといおうと! なのに、なのに!』
バッ
工場の電気が突如消える。様子が明らかにおかしい。
『わたs.;....p.2lnjrengaklnrbglhbggk__』
これはヤバい……暴走だ。完全に理性を無くしている。
周辺にあった魔道具が吸い寄せられ、それが人を形作っている。ガラクタの寄せ集めと見えるそれは異様な雰囲気を醸し出していた。
「危険です! 離れて! 避難してください!」
目の前の“コイツ”が何かしらの行動を起こす前に避難を呼びかける。周りの野次馬も俺の必死さが伝わったのか、慌てて出ていく。「この建物からでろ!」と声をあげてくれる人もいた。
残ったのは俺と神生悠と“コイツ”。さて、どうするか。
「蒼くん……コレは一体……」
目の前の魔道具の塊を恐怖で震えながら指差す悠。無理もない。先程まで自分の息子として認識していたそれが原型を留めていないのだから。
「魔道頭脳の暴走です」
「暴、走?」
「思考にバグが生じた時、特に質の悪い魔道頭脳に起こりやすい状態です」
「そんな……」
今回の場合はユニークケースだ。本来魔道頭脳は最初から『自分は魔道頭脳だ』と自覚出来ている為、このような暴走はしない。“普通”ならば、安全装置が働いて強制停止し、暴走を止めることができる。しかし、今回に至っては、人間だと自覚してしまっている、安全装置がないので、暴走を止められなかった。
魔道具が吸い寄せられたのは、魔法によるものだろう。ならば同じような要領で、その人型の身体を動かせるのは想像に容易い。
『ワタシハ、ニンゲン……』
一歩、『神生蒼』が動き出す。
『ウソヲイウオマエハ、コロス』
『神生蒼』が魔法で俺に周囲の魔道具を飛ばしてくる。だが俺の近くには神生悠がため、避けると彼に当たってしまう。俺は〈アイテムボックス〉から剣を取り出し、弾くので精一杯だった。
弾いた魔道具は、壁や床に当たり壊れると思っていた。しかし、それは妙な頑丈性を付与されているようで、原型を留めたまま、再度俺たちを襲い掛かる。〈念力〉と〈頑丈化〉のような魔法を行使しているのだろう。または日本製由来のハード面の作り込みの良さか。
「こんな事をしては、あなたのお父さんも傷付いてしまします!」
予想外の頑丈な魔道具に感心している余裕はない。魔道具は今も弾丸までとは行かないが、俺たちを殺すように急速に迫って来る。攻撃を止めるよう、必死に訴えかけるが聞く耳を持ってくれない。おそらく先の俺の言葉を嘘だと思い込み、周りから音の情報を受け付けないようにしているようだ。
「蒼! 頼むから、辞めてくれ……」
神生悠も同じように懇願する。すると、一瞬『神生蒼』の動きが止まったように見えた。しかし、それでも攻撃が続く。だが今までとは違い、俺に攻撃が集中している。ならば……
「悠さん逃げてください! 攻撃が俺に集中している隙に!」
「だ、だが……」
「良いから早く!」
「分かった。だが頼む……蒼を、壊さないでくれ」
こんな時に何『神生蒼(息子)』の心配をしているんだ。そんな余裕はない。
「努力はしましょう……」
「ありがとう」
「無理です」と答えたらまた懇願してくる可能性があったのでそう答える。その言葉を聞いた悠は作業台などの障害物で攻撃を避けながら整備工場を出ていった。
『オトウサマヲ、カエシテ!』
攻撃が激しくなった。本体も動いだして俺に殴りかかる。周りに神生悠(人間)というハンデがない今、俺は全力を出せる。
〈アイテムボックス〉からもう一本の剣を取り出し、元々あった剣は宙に浮かせ飛んでくる魔道具を処理。取り出した剣で本体の攻撃を受け流す。
頑丈に創っておいてよかったと思う。相手の攻撃は俺の制限付き状態でのMaxの力と同じくらいだ。だが体格はあちらが勝るし、こちらの攻撃が当たってもすぐ他の魔道具で直ってしまう。さしずめ、『自動修復機構付き魔道具ゴーレム』と言ったところか。
俺はダメージを負えば、〈修復魔法〉を使わなければならない。今は『神生蒼』の能力を解析しながら戦っているので、新たに魔法を発動させるためには処理能力も限界で遊撃させている剣を停止させなければならない。すると、相手の攻撃を処理しきれなくなり、またダメージを負ってしまう。
相手が人間ならまだ良かったかもしれない。人間なら誰しも少なからず癖という弱点があるので、それを突ければまだ余裕があった。だが今回の相手は魔道頭脳。その攻撃にパターンは無く、本体からの攻撃もあるので面倒だ。
この状況の改善案を模索ていると、突然土の塊が俺に向かって飛んできた。
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