第24話 社長のハードスケシュール
「美味しいね」
俺が用意した食事をパクパクと食べる悠。
「お口に合うようで良かったです」
昼食のメニューはミートソースのパスタである。一応テーブルの上にお好みでかけられるチーズや調味料を置いたのだが、悠はそれに見向きもせずそれを平らげてしまった。
「は〜。久しぶりに手作り料理食べたな」
「奥さんは、作ってくれないのですか?」
「あぁ。実は最近はカップラーメンとかで済ませているからねぇ。食べ応えのある美味しいパスタだったよ」
彼曰く、以前は魔道頭脳の研究、今は事件の後処理などで忙しいらしく、夜帰るのが遅いらしい。奥さんは「作り置きしておくよ?」と提案したらしいが悠はそれを反対。どうも作り置きだと「早く帰って食べないと」という焦りがでてしまい、研究に集中できないため反対したようだ。
「今後は仕事を早く切り上げ、奥さんと夕食食べたらいかがですか?」
「でも、それじゃ__」
「あなたはもっと仕事を部下に任せてもいいと思います。今はブロアもいるんですから、家族との時間を増やす事をお勧めします」
「まさか、高校生である君から、言われるとはね……よし、今日は仕事パッパと済ませて家に__」
俺は悠の肩に手を置く。
「今日、日曜ですよね?」
「あ……」
「もしかして、今日も仕事を?」
必死に首を横に振る。
「なら、何故贈り物とは別で、荷物があるのでしょう?」
「……」
「黙秘は肯定とみなしますよ」
悠は観念し、今日の大まかな予定を話してくれた。その内容は
6時 起床
7時半 会社到着&仕事開始
11時 蒼の家
2時〜 仕事再開
7時 定時
〜9時 残業
9時半 帰宅
といった感じだ。日曜なのに平日並みに働いていてちゃんと休みを取れているのか心配になる。おそらくこのスケジュールは以前よりマシなのだろう。今こそ少し隈がついているくらいだが、前はげっそり死人のような顔をしていた。
「妻にもそうだが君にも頭が上がらないよ」
「それなら生活習慣を改めてください」
「あぁ、そうするよ」
最後にお茶を一気飲みして悠は帰って行った。ちょっと焦った時もあったが、なんとかやり過ごせた。
(さて、チャンネルはどうな感じかな)
アプリを開き、自分のチャンネルのページを開くと、『チャンネル登録者数1万人』と表記されていた。しばらく放置していたが、初めてあげた動画の視聴回数はかなり伸びているようで、すでに10万回以上再生だった。その動画のコメント欄には
『これ本当に機械音声!?』
『ゼッテー人間だろこの声』
『人間だったらめっちゃ上手いし、機械音声だったら普通にスゴイ』
などと様々なコメントが寄せられていた。
(人間に似過ぎているか……)
『不気味の谷現象』というのが存在する。これは、ロボットなどが人間に近づいていく過程で起きる現象だ。声や顔、姿形は似ていても何故か不気味に感じてしまう。それが『不気味の谷現象』だ。日本人形が怖く見えるのもそれが原因の1つだと言われている。
俺はその現象が発生するのを抑えるために完全に人間っぽくしたのだが逆に仇となってしまったようだ。今後は少し機械音声っぽくチューニングしよう。
『\]!\|?.o ]?.=]/02;&ls&: h!.&/€_\!|』
ノイズ……最近少ないなと思っていたが、ここで一気に来るか。ノイズが発生すると頭が痛くなるような感覚になって不快だ。しかも、その痛みは時が経つにつれて強くなる。
「い、いい加減、マスターを決めないと……」
今回の頭痛はまだ耐えれる。身体も自分の意志で動く。まだ大丈夫だ。
俺はそう自分に言い聞かせた。
♦︎ ♦︎ ♦︎
「ほんと、良いマンションだなぁ」
神生蒼の家を出た僕は、そのマンションの前にいる。これから仕事に行こうと思っていたけど、蒼くんに止めたからよしておこう。
(今日やらなかった分は……平日にやるかぁ……)
とはいえ家族との時間を増やすため仕方がない。部下に仕事を一部預けることになるが、それは追々相談していこう。
(やっぱり不思議くんだよなぁ)
神生蒼の経歴を思い出す。といっても今年の2月くらいからの情報しかなかった気がするが。
(ウチの情報課なら出身小学校まで余裕で調べてくるんだけどなぁ普段)
なのに彼は今年からの情報のみ。これ以上調べてもきっと何も情報を落とせないだろう。
(経歴が消されているのかな? だとしたら重要人物なんだろうけど、逆に皇族とかの国の要人はテレビによく出てて、通う学校は調べやすいんだよなぁ。だとしたら外人? 目の色や髪色は珍しいが喋り方的にそんな事は無さそうだし)
強いていうならいつも敬語を使っているくらい、か。あと雰囲気が高校生じゃない。だけど大人って感じもしない。
(これ以上悩んでも仕方ないかな)
バスに乗り込み、吊り革に掴まる。
自分と同タイミングで入ってきた親子の会話が耳に入った。
「ママ〜。お菓子出して〜!」
「だーめ。ここでは食べてはいけません」
「なんでぇ。ちょっとくらいいいじゃん〜」
「そもそも今日はお菓子持ってきてないんだいら我慢して。“元々無いもの”ねだったってしょうがないでしょ」
「む〜。ママのケチ〜!」
「はいはい……」
(懐かしいな。蒼が元気だった頃はあんな風によく外に出てたなぁ。蒼もよくお菓子食べたっけ。けど妻が『ウチにお菓子もう無いんだから無理でしょ。“無い物はいくら探しても無い”んだから』って……)
無いものはいくら探しても、無い……? いやだとしても、なら何故無いのか? 彼の魔法技術の知識……魔法……ダンジョン……ダンジョン!?
ダンジョン。未だ謎が多く、解明し切れていない。ダンジョンには主に魔物がいるが、中には人間並の知恵を持つ人型の魔物、いわゆる『魔人』という存在が確認されている。
魔法技術も元々はダンジョンにあった物を参考に確立した技術だ。その技術を知っている……少なくとも、ダンジョンとはなんらかの関わりがあるように思える。もし彼が魔人の類であればあの経歴にも納得できる。時が来るまでダンジョンに潜伏していればいいわけだ。
なら、彼の目的はなんなのだろう?
ゲームでダンジョンといえば魔王がいる。そんな設定が現実にも存在し、彼が魔人であれば彼は魔王の配下ということになる。
(僕はゲームを少ししかやったことないし、そういう小説や漫画を読んだこともあまりないから、てきとうになるけど、魔王と言ったら悪者ってイメージがあるんだよなぁ)
とはいえこれはあくまで仮定の話だ。
(変に詮索するのは彼になんか申し訳ないなぁ)
彼の出自、知識、技術……どれも魅力的な物だ。特に魔法技術に関しては僕よりも詳しいだろう。なら彼から教わって、魔王なんかがいても大丈夫なようにもっと魔道具作ろう。
(僕ら家族の恩人、だしね)
悠は普段よりも軽い足取りで駅へ向かった。
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