第18話 マギクラフト社社長との対面

誘拐されてから数日。普段通り学校に行く。攫われていた間は欠席扱いになっていたようだ。久しぶりに登校した俺にパーティーメンバーが「体調悪かったの?」と心配してくれている。実際にはそれよりも危険な状態だったが。


今日の放課後にマギクラフト社に行こうと思う。早く済ますのに越すことはない。


「マギクラフト社に用があるのですか?」


「うん。ちょっと杖の定期点検に」


放課後、校門前でみんなと別れたが、愛海と進行方向と同じだったので、もしかしてと思い聞いてみた。


「なら、一緒に行きませんか?」


「えっ!?」


「俺も、そちらに用があるので」


「なら一緒に行こう!」


「分かりました」


愛海と並び、歩道を歩く。彼女の髪色は光の当たり方によっては青にも緑にも見える。とても珍しい色だ。俺のマスター(開発者)も同じ髪色だった。それだからかついつい彼女を見てしまう。


何故か愛海の頬が赤く染まっているが熱でもあるのではないだろうか? 本人に聞いても「大丈夫だから!」の一点張りだが。





マギクラフト社は学校から案外近くにあり、学校を出て30分経っているか経っていないかくらいだ。正面入り口から入ってすぐに愛海とは別れ、受付に足を運ぶ。


「すみません。ちょっと良いですか?」


「はい。ご用件は?」


営業スマイルで対応する受付。


「こちらの社長とお話がしたいのですが」


そう。あの後インターネットで調べてみると、どうやらあの男はこの会社(マギクラフト社)の社長らしい。あんな身なりで社長だったのか、と


「すみませんが、ご予約などはされていらっしゃるでしょうか?」


「いえ……」


「であれば、残念ながら本日はご案内できません。また後日……」


「いえ! あの……せめて社長さんに伝言を残したいのですが」


「はい。それでしたら大丈夫です」


「では……数日前にお会いしました、神生蒼です。また後日伺います、とお願いします」


受付の人は綺麗な字でメモを取り、復唱する。


「以上で、大丈夫でしょうか?」


「はい」


「承りました。またのご利用をお待ちしております」


俺が建物を出ようとした時、あの時に感じた懐かしさを再び感じ、後ろを振り返る。ちょうど、1人の男がエレベーターから降りてきた。


「あ、君はあの時の……」


「社長、どうされましたか?」


「あぁ。なんかここに来たほうがいい感じがしてな。どうやら当たったようだ」


間違いない。俺に宿っている魂の父親だ。前見た時より心なしか肌の血色が良くなっているように見える。


「すまんがその子と話したいことがある。通してくれ」


「あ、はい」


男に連れられて俺は最上階にある社長室に行った。社長室、と言っても部屋自体はそこまで大きくはなく、置かれている椅子やテーブルといった家具も高価そうなものはない。質素な部屋だった。置かれている数少ない家具の一つである机だけは正面奥に佇んでいる。


「そこに座ってくれ」


と言い、コーヒーを淹れている。俺はその言葉に従って椅子に腰掛けた。


「私の名前は……神生悠だ。見ての通り社長だよ。それにしてもまた来てくれたんだね。ありがとう。いや、あの時はウチの者が連れて来ちゃったのか」


はっはっは、と声では言っているがその目は笑っていない。今にも死にそうな、ハイライトがない目だった。


「そ、それで……君は蒼なのかい!?」


急に声の調子が上がったと思うと、俺の名前が出てきた。


「はい。俺の名前は神生蒼です」


「じゃ、じゃあ、俺の事を覚えているか?」


何を言っているんだ? 俺はこの男とはほぼ初対面のはず。脱出した時くらいしか見ていない。


「それよりも、まず言うべきことがあるのでは?」


「そ、そうだね……まずはあの時の謝罪をさせてくれ。申し訳なかった」


俺の前に移動して深く頭を下げる。


「本当に、すまない……君が警察に通報するとなっても我々はそれを止めない」


頭を下げたまま、こちらの顔を見ようとしない。する気がないのか、する気力がないのか。


「頭を上げてください。俺は通報する気はありません」


俺が通報したら、この人たちは何も抵抗もせず捕まるだろう。だが、その場合、俺も怪しまれる可能性がある。俺について警察から捜査され、人間ではがバレてしまったら元も子もない。少なくとも、経歴から怪しまれることになる。


「俺を、ここに攫った理由を聞かせてもらえませんか」


俺は通報する気はない。だからといってこれからも同じような事をさせるわけにはいかない。人を誘拐する理由を知っておかなくては。


「それは、珍しい魔道具やダンジョンで生成されたレアアイテムを集め、研究するためだ。そして今あるようなロボットのように科学技術に囚われない、ゲームで言う“ゴーレム”みたいなものを開発するためにね。あの子を……私の息子を生き返らせる為に」


「生き返らせる、ため?」


「そうだ。私の息子は3月に病気で死んでしまってね……それから妻も元気を無くしてしまってね。だから息子を……蒼をせめて魔道頭脳として復活させようと思って__」


「ダメです! そんなこと!」


人間を、しかも死人を魔道頭脳やゴーレムとして復活させるのは禁忌だ。復活しても喜ぶのは遺族や関係者だけで、復活した本人がそうとは限らない。それに人間の意思と魔道頭脳との相性の問題がある。人によっては思考がマスターがいないゴーレムなどのようにバグり、正常に動かなかくなってしまう。


「魔道頭脳で人間を模倣するなどしてはいけません! 元となった人への侮辱と等しい行為だ!」


「分かっているよ!」


机を手で叩いたと思ったら、その男は泣き目になっていた。


「でもッ、私には……蒼が必要なんだ! 私たちには、蒼が……」


机に俯き、さっきまで乾いていたその目は涙一杯になっていた。俺は男の背中を摩り続ける。すると、何処からか声が聞こえてきた。


『おとうさま、どうされました、なみだをながして。そちらのおかたは……』


音が聞こえてくる方を見ると、驚くことにそこには魔道頭脳らしき魔道具があった。

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