第15話 誘拐される
マギクラフト社の凸があってから約1週間。何かしてくるかなと思っていたがここのところ特に何も起きていない。だが念のため常時空間認識センサーをフル稼動させている。今制限がかけられている状態でも半径100m以内であれば、目視できなくてもどこにどうゆう物があるのか分かる。
流石に学校には来ないだろう、とは思うのだが、最初の例があるため、気を抜けない。
俺はいつも通り学校に行き、ダンジョンに行き、家で動画をネットにあげる日々を送っている。チャンネル登録者も15万人を超え、ほぼ軌道に乗った言っていいだろう。
休日、学校の課題を消化している時にインタフォンが鳴った。
先週ネットで購入した腕時計がもう届いたのだろうか。海外のメーカーだからもう少し届くまでに時間がかかると思っていたのだが。まぁレビューを見ると、「思っていたより早く来た」なんてコメントがあったから、そうなのだろう。
俺は機械神ゆえか、機械が好きである。精密機械、電気機械、魔道具問わず、そのどれもが好きである。
年頃の男だと、ゴツゴツとした腕時計を羨ましがるかもしれないが、俺が今回買ったのは無駄なものを省いたデザインのアナログ腕時計だ。俺の髪と同じブルーの文字盤に、視認性を重視した針、重厚感を感じさせるガンメタルの側面にお洒落なブラウンレザーのストラップ。
しかも20気圧防水でサファイアガラス。ストップウォッチ機能はあるが、電波もソーラーも無いただのクォーツ時計なのだが、その分厚みがない。あとで改造してソーラー&電波にしよう。
画像を見るだけでも、俺はそのデザインに惹かれてこの日を待ち侘びていた。
俺はすぐに下に取りに行く。普段質素な生活(?)をしているから、少しははっちゃけても良いだろう。
だが、現実はそう上手くはいかなかった。
その宅急便は偽物で、マギクラフト社の刺客だった。
刺客は俺の後ろからハンカチで睡眠薬を吸わせようとした。しかもかなり強力な。
俺は人間ではないため、効きはしないが逆に効いていないと俺自体を不穏分子として見られかねない。
俺は仕方なく眠る演技をしたのだった。
そろそろいいかなと目を開けると真っ白な部屋に椅子に縛り付けられていた。
武器は〈アイテムボックス〉にしまってあるから部屋を荒らされても大丈夫なはず。
後はどうやってここから抜け出すか、か。空間認識センサーを稼動させると自分が縛り付けられている椅子をはじめ、所々に魔道具が仕組まれてあるようだ。
試しに魔法〈炎弾〉を発動してみると、かなりのタイムラグがあった。どうやら、この部屋には魔法が妨害されるらしい。この前愛海と優里に教えた魔力操作が出来ないと発動すら出来ないだろう。
『おぉ、もう起きたのか。やはり警戒して損はないな』
聞いたことのある声が部屋に響く。この声は、学校で対面した佐々木か。
『随分とあっさり捕まったなぁ? もう少し抵抗すると思ったが、所詮は子供かぁ』
煽り口調で言ってくる矢木。しょうがないだろ! 逆にあそこで捕まんなかったら怪しまれるんだよ!
『……ふむ、どうやら例の物はどこかに隠してあるようだなぁ? どこにあるのかなぁ?』
ガラス越しに見る彼の表情は見下すように笑っていた。
『言わないと〜こーなるぞぉ?』
彼が何か操作したかと思うと椅子に高電圧の電流が流れた。俺には無害、ただ人間にはそれなりの苦痛があるだろう。それっぽく痛みに悶えている風に声を出しておくか。
「ぎゃぁぁぁぁ!」
うん。我ながら下手である。思った反応出なかったのが気に食わないのか、電圧を大きくしていた。
もう人間であればあまりの痛みに気絶しているくらいだ。それでも俺には効いていないが。
しばらくすると、電気が流れなくなった。突然部屋に数人の大柄な男が入ってきて、俺を椅子ごと持ち上げ、ぶん投げる。
そして胸ぐらを掴まれ殴られる。何度も何度もした後、男たちは部屋から出ていった。
幸いにも威力はそこまで強くないため、損傷はない。ただいい加減出たい。
アレから何時間経っただろうか。自分の体内時計によるとここで俺が目を覚ましてから24時間はとっくに過ぎていた。
食事は与えられず……俺は必要ないから良いが。お手洗いにも行けず……俺は行く必要がないから良いが。定期的に尋問(拷問)され……俺は痛覚がないから良いが。ずっと矢木の煽りを受けて……正直どうでもよく聞こえてきた。
はぁ。
人を手助けするために造られた俺(自動人形)が、なぜこんな状態にならなければならないのか。制限が無ければいくらでも“暴れまわれる”のに。
暴れる……? いかんいかん。ノイズの次は過激な思考か。本当にそろそろマスター(持ち主)登録しないとな。
そんな事はともかく、どうやってここから脱出しようか。制限のせいで初級魔法までしか使えない。椅子に縛られて身動きが取れない。
あ、燃やせば良いのか。
幸い俺を椅子に縛り付けている縄は特殊な感じはなく、おそらく普通のもの。それなら燃やせる。少し過激だがこれで身動きが取れるようになるのだったらもうこれで良い。
〈着火〉
初級魔法の〈着火〉。その名の通り着火する事くらいしか出来ないが今はそれで十分だ。
長い時間をかけてようやく縄を焼き切った。
さて、ここからは……
『おい! アイツの縄から抜けてるぞ! 早く捕まえろ!』
矢木の焦った声が響く。どうやら抜けられるとは思っていなかったようだ。
空間認識センサーが入口の方からくる数人の人影を感知した。それで俺は魔法〈透明化〉を発動させ、扉付近に待機した。
ドサッ
勢いよく扉が開かれ、重数人が流れ込んでくる。
「おい! どこにもいねぇぞ!?」
『さっきまでそこにいたんだ! 探せ!』
「探すも何も、ここには椅子くらいしかねぇじゃねぇか!」
口論している間に、俺はそっと開けっ放しの扉から部屋を出ることが出来た。
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