第16話 脱出と懐かしい人
通路は警報が鳴り響き、赤い警告灯に照らされている。
空間認識センサーをフル稼動させて、この建物の構造を探る。
どうやらここは地下のようだ。地上は25階程の高層ビルらしい。
おそらく地上の階は“表向き”で今俺がいる地下は“裏”なのだろう。
曲がり角で警備の人が待ち構えていた。
俺が最短ルートで移動しているのを知ってか、通り道に人を戦力を置くようになったようだ。
ただ俺は〈透明化〉を発動したままだったのでそれらのほとんどをスルーしてきたのだが。
地下から地上への入り口はエレベーターのようだ。通路の突き当たりに大きく、頑丈そうなそれがあった。
しかし、その前には何人も腕の立ちそうな警備員がいた。いや、格好的には警備員と呼べないが。
流石にここは相手をしないとな行けなさそうだ。せっかくここまで来たのに、捕まってまた真っ白な部屋に連れ戻されるのはごめんだ。
俺はエレベーターから25m離れたところで〈透明化〉を解除した。
すると、立ちはだかっていた人たちが目の色を変えて俺を襲ってきた。
「『危険人物と認定。処理可能』」
懐かしく感情のこもっていない声を出す。
そして俺は戦闘モードに。目は赤く、力も強くなる。そして右手に〈アイテムボックス〉から武器を出す。
その間中々攻撃して来ないと思っていたら、いつの間にか相手は数歩ずつ後ろに後退りしていた。
おそらく原因は目を赤くした時の威圧感だろう。C級冒険者でも粗相をしていたし。していないだけでもこの人たちをある意味誉めるべきだろうか。そういえばこの世界の「ゲーム」や「アニメ」というものでは目が赤く光るキャラは大抵敵、というイメージがあった。相手からしたら、俺は敵か。
ワンチャン威圧だけで押し切れそうだ。そこで、魔永石の稼動率を上げ、俺の周囲に魔力を漂わせる。
これによって、魔力を知覚できる人はもちろんの事こと、出来ない人でもその雰囲気に気づくだろう。
俺は一歩、また一歩と前進する。すると予想通り、相手は道を開けてくれた。厳密には開け“させた”だが。
エレベーターに乗ろうとすると、『エラー』と操作板に映った。どうやらキーを持っている人でないと使えないらしい。
俺は勿論持っていない。なので〈機械操作〉でほぼ無理やりロックを解除した。
同じタイミングで上の階からエレベーターが降りてくる。そこから出て来たのは大量の増援だった。
俺は双方から距離を取る。
俺の威圧で壁に避けていた人たちも慣れてきたのかこちらに鋭い視線を向けてくる。
万事急須か。
〈透明化〉をしても、この数で通路を塞がれたら通れない。今までは少人数だったから良いものの、この数じゃ無理がある。まさに数の暴力だ。
だが数ならこちらも増やせる。通路はそこまで広いわけではないから全部は出せないが、あるだけマシだ。
3本の大剣を〈アイテムボックス〉から出す。
初級魔法しか使えないから、連射でゴリ押すしかない。
俺はすぐに魔法で相手を攻撃する。ただ相手は盾持ちを前に配置する事でダメージを負わないようにし、ゆっくり追い詰めてきた。
やばい。とにかくやばい。いくらシュミレートしてもここから脱出できる可能性は0に限りなく近い。
そうこうしている間に相手はすぐそこまで迫って来ていた。俺はすぐに剣を構え、応戦するが絶対数が覆るわけもなく俺はダメージを連続して負う。
左腕は変な方向に曲がり、右足は関節が歪んで曲がらない。その他切傷が少し。
俺の損傷した様子に気づいた相手は驚きの顔をしていた。
「おい……コイツ、義手と義足なのか……?」
「全然出血してねぇ……」
俺はその一瞬の隙を突き、魔法〈煙幕〉を発動。文字通り煙幕を発生させる魔法で外でやるとすぐ散ってしまうが、今いる通路といった狭い空間ではその効果を発揮する。
俺は空間認識センサーを使い、敵と接触しないようにしつつ全速力でエレベーターに走る。
もう、コレくらいしか考えられなかった。
だが〈煙幕〉が予想以上の効果を発揮し、俺は敵が慌てふためいている間にエレベーターで上階に行くことが出来た。
かなりボロボロだ。顔の皮膚も一部剥がれ骨格があらわになっているし、他の部分もそうだ。
『1階でございます』
エレベーターがゆっくり止まり、ドアが開く。時間は真夜中。地下にあんな施設があるとは思えないような明るい雰囲気の1階。窓からは月明かりが差し込み、その静けさを打ち消すように人の叫ぶ声、足音が床下から響く。
「さて、帰るか」
そう歩き出した時、後ろでエレベーターが動き出した音が聞こえた。敵が気づいて昇ってこようとしているのだろうか?なら早くここから離れた方がいいだろう。
だけど、ここで待っていたい。そんな気がする。自分にとって大事な何かが来るような気がする。
エレベーターは最上階まで昇り、すぐ降りてきた。そこから出てきたのは40代の男。高身長で少し細身だ。彼の顔は目にくまがあり、髪はボサボサ。
俺はその様子を見て何故か悲しみと焦りが込み上げてきた。会ったことも見たこともないはずの男性に対してだ。
「蒼、なのか……?」
「……パパ?」
っっ!?
なんで俺は「パパ」って言ったんだ? だけどこの温もり……お父さんやお母さんといる時と同じような温かさを感じる。
「どうしたんだ? その身体は……?」
その目は見開き、涙を浮かべていた。
「蒼、蒼!」
フラフラと近寄ってくる男。
「ひ、人違いです!」
俺は直ぐに壊れた足で必死に歩く。人に見られないように少し遠回りになるが出来るだけ裏路地を多用して、なんとか家に着いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます