第14話 話し合いをしよう?

彼らの所業に流石に頭にきた俺は、武器を取り上げ、何故か引っ越しする際に運び込まれて来た頑丈そうな金庫に入れ、施錠。そのタイム、なんと10秒。施錠RTAだったらかなり早いかもしれない。


武器を無理やり取られ、呆気とられている彼に、テーブルの椅子に座るように促す。


「“話し合い”をしましょうか」


俺は微笑んで言う。今回目を赤くするのはしていない。あれはどうやら圧が凄いようで、初めてギルド支部に行った時に絡んできた男は、失禁していたらしい。なんとも哀れだ。流石に家では漏らしてほしくない。うん。


けどそれでも圧が伝わったのか、何故か顔を青くしている。さっきまでの勢いはどこに行ったのやら。


警官にも座って貰い、俺はお茶を出す。


「さて、まず契約について聞きたいのですが」

「え、ええ。困りますよ! 契約を無視してもらっては!」

「まず、どのような契約内容なのでしょうか? 俺には身に覚えのないことなので、契約書見せて貰えませんか? もちろんコピーした物で構いません」


男から紙を渡される。それを見て唖然とした。


契約内容が酷い。俺にはなんの見返りもなしにただただ武器を渡せ、そう言っているも同然だった。しかも契約した日は4月。この月はまだ実家にいた時期だ。


「まず、ただこちらがあげるだけの契約を交わすとは思えません」

「けど、実際に__」

「それにこの日付。この時はまだこっち来ていません。田舎の実家に居ました。もし本当にこの日に契約を行っていた場合、両親が知っているはずです。もし連絡先が分からないのであれば、今伝えましょうか?」

「うぐ……」

「もしこれが嘘ならば、今すぐ帰ってください。または、俺とお互い納得するまで話し合いますか? こちらはそれでも結構ですよ?」


俺の言葉を聞いてぶが悪いと感じた彼らはそそくさと帰っていった。ただまさか帰り際に武器をお持ち帰りしようとしていたのにはもう怒りを通り越して呆れた。


警官も「ご迷惑をおかけしました。こちらでも調査してみます」と言っていたのでこっちは白か。流石に警察まで敵に回していたら手が足りない。


けどこれで終わりだろうか? あのしつこさだ。絶対またなんかくる。


まぁその時はまた正論をぶつければいいか。


♦︎ ♦︎ ♦︎


同日夜。マギクラフト社で佐々木は頭を掻いていた。


「クソッ。また回収出来なかったか」


情報課の彼はターゲットを調べて尽くしていた。


肉親がいない以外は至って普通の高校生。ダン校に通っていようが、所詮は高校生だ。だから学校で頭を下げればアレを提供してもらえると思っていた。


だが実際に行ってみれば即答で断られ、自分が逆上して終わった。自分は確かにイラつきやすい性格であると自覚はしているが、まさかあんなにイラつくとは思っていなかった。


彼と話していると何か違和感を感じる。まるで自分は何も話さない“物”に話しかけているかのようだった。もしかしたらその違和感がさらに自分をイラつかせていたのかもしれない。


さっき、ターゲットの家に押しかけさせた2人が帰ってきた。2人から結果を聞くと、またやられたと言う。


今回は警察に嘘の事情を話し、同行してもらった。わざわざ偽の契約書を持たせた。だが、その契約書の矛盾点を突かれ、追い出されたと言う。


ただ一回、武器を手に取ることが出来たと言っていたのでその事を詳しく聞いた。


見た目は青が印象的な黄色の魔石が嵌められた大剣。そう、魔石が嵌められていたのだ。魔石は魔道具に必須な素材で、産出量がかなり少ない。


ただ魔導具としては優秀だろうが剣として使うのは、難しいだろうと語っていた。両手でやっと持てたらしい。だがターゲットはそれを軽々片手で持っていたのだと言う。


2人を早めに帰らせ、天井を見る。

自分はこの会社(マギクラフト社)が創設されてからずっといる。だからプライドがある。ウチ(マギクラフト社)では、研究開発のためには手段を選ばない。流石に仕返しが怖いためB、A、S級の冒険者や大富豪には手を出さないが、それ以外なら珍しい魔道具を持っていたら必ず“奪って”来た。そしてそれを解析して複製して高値で売る。


勿論一時期警察に目をつけられた時もあった。だがその時は我々情報課が対処してきた。


今回もきっとそうなるだろう。ましてや相手は高校生。少し特殊なところはあるが、今回は簡単に終わりそうだ。


それにこの前の恨みを返せていない。今回は自分もでしゃばってとことん料理してやろう……


「ん?」


「ターゲットの名前、『神生蒼』か……」


確か、社長の苗字は神生。そして御子息の名前は『蒼』……


コレは単なる偶然なのだろうか? 同姓同名は珍しい。特にこの『神生』という苗字は社長しか見たことがない。


「勘繰りすぎか……」


社長の御子息は、3月に亡くなった。治療法が確立されていない難病だったらしい。社長は頭を下げ、大金を使い、息子の病気を治そうと必死になっていたが願い叶わず。


それでも息子を諦めきれなかった社長は、ほぼ禁忌を犯すと言っても過言ではない事を目標に、日々を過ごしている。社長という身でありながら、誰よりも研究室に篭ってあるものを開発している。


御子息はちゃんと火葬され、弔われたはず。だからコイツは赤の他人。だがそこに自分の勘が引っ掛かる。


自分の勘はよく当たる。この会社でこの役に付けたのも勘が当たりやすかった事が大きな要因の1つだ。


「社長に報告するか」


今回も勘を信じよう。きっと、何かがあるはずだ。

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