第13話 マギクラフト社の人と会う

6月も中旬になり、蒸し暑さが増す。本当にこの湿度の高さはヤバい。俺には問題ないが、人間だったら熱中症に気をつけなければならない程だ。


授業中の水分補給も自由にして良いと言う放送があった。教室内は魔道具があるから、と思うがそこは気持ちの問題か。


学校の気温を調整する魔道具は、俺が思っていたよりも優秀だった。この世界では、魔法技術はあまり発達しておらず、代わりに科学技術が発達している。魔道具という存在が、ダンジョンによってこの世界にもたらされたのは数年前、ダンジョンから出土された物が始まりらしい。


それに目をつけ、魔法技術の研究が始まり今現在では日本のベンチャー企業、「マギクラフト社」がほぼ技術をだ独占していると言っていい。


そして何故か俺は学校でマギクラフト社のお偉いさんと対面している。


「初めまして。私は、マギクラフト社の矢木と申します。こちらはエンジニアの佐々木です」

「初めまして」

「こちらこそ、初めまして」


どちらも営業スマイルでぺこりとお辞儀する。


「本日の私たちの要件は、あなたの武器こちらで調べさせてほしい」


武器……噂が広がったのだろうか。いや、初めての訓練の日に観客席に人がいたからそこから漏れていたのだろうか?


「聞けば、あなたの武器は宙に浮いたり、魔法を放っていたようですね。どうやって手に入れたのか詳しく聞かせて頂きたいの__」

「嫌です」


明らかにお持ち帰りして、研究し、可能なら副製品を売るつもりだろう。だが出来るだけ地道に技術を確立して行ってほしい。俺の武器を解析しても、大した成果を得られないだろうし。


俺の返答を聞いた2人は顔を引き攣っている。


「な、なんで嫌なのか聞いても?」

「嫌だからですよ? 人間ってそうゆうもんでしょ?」

「ッグ……た、確か2本持っていましたよね?その片方だけでもいいのですよ?」


目が泳いでいる。そんなに断られるのが予想外だったのか? 俺からしたらそのしつこさが予想外なんだが。


「嫌と言ったら嫌です」

「な、なら提供してくださればお金を差し上げましょう。今回の場合はこのようになります」


と、バッグから紙を1枚取り出した。俺はそれを受け取り目を通す。10万、か。子供相手に結構弾んでいるなとは思うが、俺はそもそも差し出すつもりでは無いので興味はない。


「やはり結構です」

「高校生が調子に乗ってんじゃねぇぞ!」


とうとう取り付くのをやめたか。ことごとく俺の予想(シュミレート)を外してくるな。


「こちとらわざわざ出向いて頭下げてお願いしてんだよ! さっさと出せよ!」

「っちょ、佐々木さん……」


佐々木が矢木を抑える。よくこの性格でここに来たな。ただ拒否しただけで逆上してくるとか、営業向いてないと思うのだが。佐々木も少しは発言したらどうだろうか。そうしたらこの矢木が逆上するのを遅れさせれたかもしれないのに。


「魔法技術発展のために、貢献しようとは思わないのか! ダンジョンで人が死なないで欲しいとは思わないのか!」


は? 何を言っているんだ? ダンジョンに入るのも、そこで命を落とすのもその人の勝手だ。


「そのような状態では話合いになりません。他に用件がないので有れば、俺はこれで失礼します」


俺はそう言い放ち、部屋を出て行こうとすると、矢木の囁きが聞こえた。


「すぐ後悔させてやる……」




それから1週間。何も異変のない生活が続いている。学校に行き、ダンジョンで荒稼ぎして、家に帰ったら動画をネットにあげる。


いつの間にか動画サイトのチャンネルの登録者が5万人を超えていた。まだ今あげたの合わせて3つしか動画がないはずだが……


まぁお金が貯まるから良いんだけど。


最近は、帰り道に誰かに尾行されている。誰かは分からないが、不穏な感じがする。


それに加え、バグによって発せられるノイズだ。今はそこまで気にならないが、肝心な時に力が入らなくなったりする可能性があるので鬱陶しい。




ある日、知らない男が数人家を訪ねてきた。


「すみません、マギクラフト社の者なんですが、弊社と魔道具開発の件で、契約しているのにも関わらず、例の物が提供されていません」


毎日毎日、俺が帰ってきた直後にこのインターフォンである。まぁ、毎回居留守をしているので問題はない。流石にここ(20階)まで上がってくることはないだろう。




「神生さん。そのまま契約を無視していると、訴えられますよ!」


そう思っていた時間が俺にもあった。


いつものように、またインターフォン越しに何か言ってくるのかと思ったら警官も一緒にいた。


いや、もしかしたら偽物かもしれない。しかし、エントランスのような人目のある場所で警官を騙る可能性は少ないだろう。


「ただ、あなたの武器を1本だけ! 1本だけ提供してくださればいいんです!」


オマケにこの必死さである。なんで顔がニヤけながらそんな必死な声を出せるのか疑問だ。しかも大声で。


流石にこれ以上やられると苦情が来そうなので、「近くのファミレスで話し合いましょう。今からそちらに降ります」と提案した。


するとなんて返ってきたと思うだろうか?


「いや、それではお店に迷惑をかけることになる。お宅に上がらせた方がいい」


警官がそう謎の冷静な判断で語る。いや、既に俺やマンションの人に迷惑かかってるんだよ。


仕方なく俺は部屋に向かい入れる。


すると警官は「お邪魔します」とゆっくり入ってくるが、マギクラフト社の人は俺を押し退け、ズカズカと入っていって、部屋の中を物色し始めた。


「はぁ?」


流石の俺も絶句だ。こんなの誰が予想(シュミレート)出来るだろうか。他人の家を物色するなんてただの泥棒だ。


しかも運が悪いことに、たまたま点検のために出していた武器が彼らに見つかってしまった。


これだからファミレスで話し合おうと言ったのに。もはや話し合いではない。


流石に警官も異常に気づいたのか、顔を引き攣っていた。流石にこれは看過出来ないだろう。そう思ったが、警官は止める素振りを見せない。


「いやぁ〜なんだ神生さん。渡す気があったのなら最初からそう言ってくださいよ〜」


と汗を垂らしながら笑顔で言ってくる。そのあなたが床に垂らしている汗、俺が拭くんですけど? 毎週毎週いつでも来客があってもいいように、丁寧に丁寧に掃除しているんですよ? この世界の掃除道具や掃除の仕方をネットで全力で調べて実践しているんですけど?


俺は初めてイラついたかもしれない。



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