第12話 電話ととある社員、そして動画配信
神生蒼の担任である鈴木香子は、机に突っ伏しながら男に電話をかける。
「もしもし?」
『あぁ、香子か。どうした? また蒼のことか?』
「え、えぇ」
『今度は何があったんだ?』
電話越しに男のはぁ、と大きなため息が聞こえて来る。
「今日は、身体検査をしたの」
『……それで?』
「身長と体重を測ったのは問題なかったんだけど……」
『……魔力量か』
「……えぇ」
『はぁ……』
心なしか、さっきよりも大きく聞こえるため息。
『今度はなんだ? 魔力がバカ高かったか? それとも0だったか?』
半分諦めたようにいう男。
「測れなかった。たぶん多すぎて」
『多すぎて?』
急に前のめりになる。
「そう。最初の1、2秒くらいは多分正常に動いてたわ。ずっと9を羅列させて。けど数字が大きすぎたのかパソコンがバグってその後魔力量測定装置が破裂した」
『は? ちょっと待て意味分からん。ダン校の魔力測定装置って、マギクラフト社製の最新のやつだよな?』
「多分……担当じゃないから分からないけど」
「確かそれで測れる上限の目安が999999(九十九万九千九百九十九)のはずだ。蒼は、魔法使い、なのか?』
「えぇ、そうらしいけど……どっちかと言うと剣士らしいわ」
『んん?』
「うちの訓練を担当してるの志鎌亮太って言うB級の冒険者なんだけど、その人曰く、剣士としても魔法使いとしても凄いらしいわ」
『ほ〜う。やっぱり神生蒼には何かありそうだな……本当に異世界人で、異世界人は皆魔力量が多すぎるのか、それとも異世界人の魔力量が正常に測れないのか……やっぱり今度そっち行くわ』
「来るの!?」
『あぁ。何も行事がない日を教えてくれ』
「えぇっと、ちょっと待ってね……」
パソコンでカチカチと音を鳴らしながら予定表を吟味する。
「えっとね、逆に行事がある日にすれば?
『ん?』
「今度体育祭があるのよ。多分貴方にも招待状が行くわ。その時に弟くんと会えば良いじゃない」
『なるほど。その考えは無かった。じゃあその日に“迎えに”行こう』
「え、今なんて……」
『ピーピーピー』
はぁ。
女は電話の男のように、深くため息をついた。
♦︎ ♦︎ ♦︎
自分はとあるベンチャー企業のエンジニアだ。まぁ、ただの下っ端だ。今日はダン校の我が社の冷暖房機の使用前のメンテナンスに来ていた。
この学校は創立してから間が経っていない事もあり、ほぼ最新鋭の機器が揃っている。ウチ(マギクラフト社)で供給している魔道具も、その1つだ。
昼ごろにメンテナンスが終わり、会社に戻ろうと思ったら、学校の先生に「訓練場見ていきませんか?」と聞かれた。
自分には戦闘向きの〈スキル〉が無かったために、冒険者ではなくエンジニアをしているのだが、男である俺は戦闘に興味を湧かないはずがない。
ましてはここは名門「国立ダンジョン対策高等学校」なのだ。教育の高さもさることながら、冒険者の育て方も良い。ここを卒業した冒険者が一人前になって活躍するのはよく聞く話だった。
訓練場、どう見てもコロッセオのような建物に入る。近づいてくる金属同士がぶつかる音。心を驚かせずにはいられない。
どうやら1対1の模擬戦をしているらしい。
ふと、その場の見慣れぬものに気づく。
「剣が、浮いている?」
ふわふわと直立した状態で浮いている剣。魔道具なのだろうか? 魔道具としたウチ(マギクラフト社)の専売特許だからウチ(マギクラフト社)の製品なのだろう。
あいにく自分はダンジョン武器課ではないためそっちの方は詳しくない。
「〈水弾〉」
そう小さく聞こえた直後、浮いていた剣から水の塊が飛んでいった。あまりの事に開いた口が塞がらない。流石に自分でも分かる。あんな物、ウチ(マギクラフト社)でも作っていない。
俺はその事が衝撃的すぎて、会社に戻って先輩にダン校で見たことを話した。それはもう大きな声で話してしまった。誇張もせずありのままに。だって物が浮いてるなんてダンジョンの物でしか知らないんだ。
その後上司に何故か呼ばれて詳しく話たのだけれど、どうしてだろう? まぁ、何故かボーナスを増やすって約束されたし、いいか。
♦︎ ♦︎ ♦︎
「さて、やってみるか」
普段なら、今日のような休日もダンジョンで荒稼ぎに行っているが、今日は違う。今日は、動画サイトでチャンネルを開設する日だ。
何故かって? もちろん金を貯めて買いたいものを買うためだ。
動画サイトにはゲーム実況、歌など、さまざまな種類の動画が上がっている。
どのような動画を上げるチャンネルにしようか。
ゲーム実況の場合、編集は俺の頭(魔導頭脳)ですぐ出来ても、ゲームのプレイはすぐには終わせられない。加えて、有名なゲームは大抵既に多くの人が実況しており、そこに新規参入するのは難しい。
歌ならどうだろうか?
歌、近年ではボカロ(ボーカロイド)の曲を歌ってみた、のような動画が多く、再生数もループ再生があるため稼ぎやすい。歌うのも、元動画を俺の声でカバーしたのでいい。
大体の方針は決まった。後はチャンネル名だ。
そうだ、「Aoi」にしよう。俺の名前をそのままアルファベットにしたものだが、ちゃんと意味がある。それぞれ3語の英単語の頭文字から取ったものだ。AはAutomaton(オートマトン)で意味は自動人形、oはobedient(オビディエント)で従順な、iはintelligence(インテリジェンス)で知能・聡明・知性という意味だ。
俺は早速チャンネルを創設し、早速「歌ってみた」を上げてみた。その曲はボカロで命をテーマとしていた。命を持っていない俺がこの曲のカバーを公開するのもなんか皮肉だが、金が稼げれば、良いんだ。命を持っていない……俺が……
突如俺の思考にノイズが走る。慣れないことをしたためだろうか。
それはほんの一瞬であったが、俺はそこから刻一刻と、自分がバグり始めたのを自覚するのには十分だった。
「こちらに来てから3、4か月経ったのか……」
結構持ったな、とこれからバグり始めた自分が何をしでかしてしまうのかを想像してしまう。
「やっぱり、機械神になったところで、所詮俺は自動人形か」
マスター(持ち主)のいない自動人形やゴーレムは、出来が悪いのだと数日、良いもので1か月で思考がバグり、暴走する。
思い出す、自分を開発したマスター(開発者)の容姿。俺とは違う、緑っぽい青の髪でロングヘア。とても研究者とは思えない程容姿淡麗で、御子息様がいた。ただ幼少の頃に亡くなってしまい、俺は彼が16歳に成長した時にこんな感じだろうと見た目は設計されていた。なので名前も御子息様の名前で呼ばれていた。
アレ、俺の名前って、なんだっけ? 何故今「神生蒼」と名乗っているんだ?
俺の開発ネームは、「戦闘用自動人形会話可能型開発機」……あれ、マスター(開発者)からはなんて呼ばれていたっけ……?
コレはバグじゃない。ちゃんとした俺の思考……
『ずっとあなたのそばにいるわ』
マスター(開発者)の言葉。心なしか、もう少し、時間を貰えたようだった。
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