第34話 マスター登録

「愛海!」


俺はこの危機的状況を打破すべくすぐ行動に移す。〈アイテムボックス〉から、俺が余裕を持って制御出来る最大の4本を出し、この空間に飛ばす。俺が事を済ませるまでに注意を引くのだ。


「今からオークキングに反撃をします! そのために協力を願います!」


「協力って、何をすれば良いの?!」


「今から説明します!」


俺は右手で左腕を力強く引っ張り、肩から力ずくで外す。


「俺は、このように人間ではありません! 俺は自動人形です! 今は仕えるマスターがいないため制限により全力が出せません! なので愛海にマスターになってほしいのです!」


「え、え……」


俺の急な人外告白で戸惑っている。心中察しはつくが、状況が状況で今は急がなければならない。


「お願いします! マスターを登録出来ればあの時みたいな力が出せます! お願いします!」


俺は愛海を焦らすことしかできない。今、俺たちの命運を愛海が握っているのだ。


「わ、私がそのマスターになれば、みんな助かる?」


愛海の問いに俺は「はい」と力強く答える。


「分かった。後で詳しく教えてよ!」


「はい」


愛海の前で膝をつき、契約を始める。


「私は戦闘用自動人形会話可能型開発機です。人間の幸福のために稼働し、マスターの命令に従事します。私には責任能力がありません。私が犯罪行為・違法行為をした場合、マスターである貴方が責任を負うことになります。了承しますか?」


「は、はい」


「こちらに魔力を流してください」


手を差し伸べ、魔力を流すよう促す。愛海は俺の手を握り、魔力を流してきた。


「魔力を登録しました。魔力はマスターの判別・認証に使用されます。最後に、貴方のお名前をお聞かせください。名前を登録すれば、契約は終了します」


「上原、愛海」


「マスター『上原愛海』を設定しました。マスター登録に伴い、制限を解除します」


魔永石から生み出される魔力量が一気に増え、思考速度は早くなる。背中には電気で出来た翼が4対生える。左腕は人型の腕から変化して鈍い色の砲身に。マギクラフト社の時よりも倍以上強くなったように感じる。


「マスター、ご命令を」


俺は引き千切った左腕を修復し、マスターとなった愛海に命令をするよう促す。


「目の前の、あのオークを倒して!」


「承りました」


(人命保護を最優先。3人を対象に治癒魔法及び結界魔法を発動)


これで、遠慮なく攻撃出来る。


俺は左腕の砲身をオークキングに向ける。出力は……初めてだし、ダンジョン内なので抑えめに30%くらいにするか。


「〈陽電子砲〉」


俺の左腕の砲身から巨大なビームが放たれ、キングオークを貫くどころか塵ひとつ残さず消してしまった。キングオークの後ろには、大きな風穴が開き、どれほどの威力だったかを物語っている。


「す、凄い……」


愛海はその強大な力に腰が抜けてしまったようだ。なので彼女を介抱する。


「あ、蒼……お前こんな隠し玉持ってたのかよ……」


いつからか動けるようになっていた恵と優里が俺たちに駆け寄ってくる。


「愛海、大丈夫?」


「うん、ちょっと腰抜けちゃっただけ」


「そう。良かった……」


みんなで無事を確認してる時、地面に巨大な魔法陣が現れ発光し始めた。


「そうか。私たち、というか蒼くんだけど、ボス倒したんだね」


「なんかすみません」


「良いよ。そのおかげで私たち、助かったんだし。あの力については聞きたいことがあるけど」


「俺もだ。俺も力不足だったから上から言えない立場だが、お前が最初から本気を出してればみんな危険な目に遭わずに済んだんだ」


「はい、すみません……」


「まあ、素振りを見る限り見せたくない力というのは分かったけどな。後で教えろよ」


「はい……」


魔法陣の光が段々強くなり、部屋全体が光に包まれた瞬間俺たちは転移し、地上に戻った。


それからは忙しかった。このダンジョンで初めてボスにキングオークが現れたことをギルドに報告。ついでに攻略手続きをした。〈ステータス)を確認すると、称号の欄に『初級ダンジョン攻略者』と追加されていた。


「いくら生徒会役員、というよりあの2人に関わる理由を作るためにダンジョン攻略したとはいえ、きっついわ」


「そうね。改めてあの2人の凄さを実感したわ」


あの2人とは、生徒会長と副会長の工藤遥と斉藤雄紀の事だ。


「でも、今回はもっと難易度の高いダンジョンに出るようなボスを俺たちは倒したのですから、少しは自分を誇って良いと思いますよ」


「ほぼ単独で倒した本人に言われてもねぇ」


「はは、違いねぇ」


と笑う3人。頼むから他人に言いふらさないで欲しいと願う。


かれこれ面倒ごとを終えた後、俺は3人に改まって話題を振る。


「それで、その、さっきの力の事なんですが……」


「あぁ、良いや今聞かなくて。疲れたしそれより早く帰りて〜」


「わ、私も。早くお風呂入りたい」


「私は、そのぉ、親に早く攻略した事伝えたいから良いかな」


「気にならないのですか?」


「はいはい良いから良いから。今日はもう解散!」


気を使ってくれたのだろうか。本来は俺が気を使わなければならないのに。


俺は別に自分が自動人形である事を理由もなく隠したいわけじゃない。むしろ今の性格上、早く明かしてしまいたいと思っている。だが明かした後、俺は人として扱ってもらえるのか、今まで通り接してもらえるのか不安なのだ。


「腹を括ろう」


あんな、自分でもよくわかっていない力を見せてしまったのだから。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る