第33話 危機と打開

「さて、行きますか!」


3連休最終日。昨日までにボス部屋手前まで攻略した俺たちは、今日はとうとうダンジョンボスに挑戦する。本来なら作戦を立て、安全に討伐するのは良いんだろうが、ダンジョンボスはランダムだ。ある程度力は揃っているが、ネットで調べた限り基本ダンジョン内にいる魔物の上位種の中からランダムである。つまり、このダンジョンの場合、スライムの上位種であるキングスライム(ビッグスライムよりも強力な魔物)や、ハイオーガ(オーガの上位種)などの可能性が高い。


ぶっちゃけ本番に近い。初心者向けダンジョンと言われているとはいえダンジョンボスは段違いに強い。だから多くの冒険者はわざわざボスを倒すのではなく、ダンジョン内の魔物を倒したりアイテムを回収して金を得ている。ダンジョンボスを倒してもその栄誉とボスの遺体くらいしか報酬がない。ゲームのようのに宝箱が出てくるわけではない。


パーティーリーダー(?)の恵が、その巨大な扉に触れる。すると扉は地響きを鳴らしながらゆっくりとひとりでに開いた。


4人で恐る恐る扉の先に進む。前から俺、恵、愛海、優里という順だ。全員が扉の中に入り切ると、ひとりでに開いた扉は無常にも今度は勝手に閉まった。


「げ、俺らは強制かよ……」


この扉閉まる・閉まらないもランダムだ。閉まっていなければボスから逃げる事が出来る。扉さえ越えてしまえばボスは手出ししてこないと言うゲームによくある便利設定だ。そして逆に、扉が閉まった場合は、ボスを倒すまで逃げられないという仕様だ。今回の俺たちがそのパターン。最悪全滅するまで逃げられない。


扉が閉まると次に、壁沿いの松明に火がついていく。ついには空間全体が明るくなり、ボスの姿が露わになった。


「なんだ。ハイオーガじゃん。攻撃さえ気を付ければ余裕!」


アレは、本当にハイオーガか? 7mは余裕で超えそうな巨躯、手に持っているのは棍棒ではなく日本刀のように刃が反っている剣、装備している金属製の防具にあの頭の冠は……


「違います! これはキングオーガ! 全員距離を取って!」


俺たちの前に現れたのはキングスライムでもハイオーガでもない。キングオーガだ。キングオーガはハイオーガと見た目の差こそあまりないが、強さが段違いだ。オーガ系特有の弱点『動きが遅い』も、キングオーガは克服していると言っても良い。そして攻撃力の強さはハイオーガ以上と、キングスライム以上に厄介だ。


俺の咄嗟の注意によって、全員が距離を取ることが出来たが、後数秒遅れていたらキングオーガの横薙ぎを食らっていた。


「オラァ! 食らえ!」


恵が反撃と言わんばかりにキングオーガの武器を持っているその腕に斬りかかる。が、傷つけることは叶わなかった。その攻撃を鬱陶しいと感じたのか、キングオーガは恵をその大きな手で掴もうとするも、間一髪避ける。


「恵! 魔法打つから離れて!」


優里の支援魔法を受けた愛海がキングオーガに魔法で巨大な氷の飛礫をキングオーガに放つ。支援魔法のバフのおかげもあって氷はキングオーガの肩に刺さった。


ガアアアアアア!


ダメージを食らって興奮状態になったのか、息を荒くして俺たちを睨みつけてきた。そして次の瞬間、愛海に向かってその大きな刀を投げた。


「愛海!!」


愛海は咄嗟に無詠唱で魔法防御する。が、慣れてない無詠唱魔法を反射的にしたためか魔法の出来が悪く、投げられた刀は防御魔法を突き破り愛海に向かって進む。それを間一髪愛海が避けるも地面に当たった衝撃が凄まじく、愛海は吹き飛ばされてしまった。


「ちっ!」


恵が再びキングオーガに切り掛かるが、やはり刃が通らない。恵の熟練度、より使っている剣の性能不足か。


キングオーガが再び恵を掴もうとすると、急に辺り一面が明るくなった。


「攻撃魔法が使えなくても、光を出すくらいは、出来る!」


光に怯み、目を抑えるキングオーガ。その隙を逃す訳もなく、俺と恵はキングオーガに斬りかかる。俺は脇などを狙うが、恵はさらに目を潰そうとオーガの体に乗っていた。


「オラァ! 食いやがれこのクソ鬼!」


恵が手の上から剣をぶっ刺し片目を潰した。それを抜こうとしたが、どうやら限界だったようで刃が結構根元の方で折れてしまった。


「恵! 俺の剣を!」


〈アイテムボックス〉から一本剣を取り出し恵に投げ渡す。


「よっしゃ!」


だが剣を受け取るときに恵は動きを止めてしまい、オークに摘まれ投げられた。しかも投げられた先に優里がいたため、オークの1撃で2人がダメージを受けた。その2人にキングオークは追い討ちと言わんばかりに大岩を投げつけた。


「あ、蒼くん……君だけでも……逃げて……」


優里が搾り出した声は、俺にこの場から逃げることを促す声だった。


冗談じゃない。なぜ俺は造られ、存在しているのか。人を幸福にするのが俺の役割、使命だ。目の前に困っている人がいるんだ。俺に逃げるという選択肢はない。それに、この人たちを失いたくない。


だが、現状を打破出来ることは出来ない。魔法は弱いのしか使えないし、剣で攻撃するにしても、接近するときに攻撃を受けて全滅なんてしたらそれこそ本末転倒だ。何か策は……


『>]+{!):19\"・8@^^ke0-'d0;¥;』


今までの中で一番大きなエラーが、頭痛が襲ってくる。


(こんな所で!)


ん? エラーは、マスター(持ち主)がいないから。マスター(持ち主)を登録すれば無くなる。そしてマスター(持ち主)を登録すれば俺の制限を解除出来る。


恵と優里は攻撃を食らったばかりでまだ動けそうにない。けど序盤に攻撃を食らった分愛海は既に動ける。


やる事は決まった。あとは、行動に移すのみ!

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