第32話 ボス前の休憩
「優里! 私が時間稼ぐから今のうちにバフかけ直して!」
「分かった!」
攻略2日目。俺たちは初日ほどまでとは行かないがハイペースで攻略中。今戦っている魔物は朝の作戦会議に出てたビッグスライムだ。作戦通りいけば危なげなく倒せるはずだったのだが、どうやらこの個体は変異種のようで核が2つある。一方の核を壊してももう一方の核が残っており、その核を攻撃しているうちに破壊した核が復活するという悪循環に陥っている。
このビッグスライムと遭遇してから既に20分は過ぎており、これ以上時間を掛けるのは良くないと判断。〈アイテムボックス〉から剣を数本追加で出し、火力の足しにしている。とは言っても初級魔法しか使えないので微々たる程度だが。
「愛海! 大火力の魔法の準備を! 恵くんは愛海を守ってください! 俺が注意を引きます!」
俺だけでも防衛に徹するなら可能。愛海の本気の攻撃魔法なら、核に届かずともビッグスライムに大ダメージを与えられる。
俺の指示を聞いた愛海はすぐさま大規模な攻撃魔法の準備を始めた。最近は優里と一緒に魔力操作の訓練はしているけれども、今回のような大規模の魔法を使うなら詠唱がいる。恵はその詠唱中の最終防衛というわけだ。
カチカチカチカチ
俺が注意を引いている間に詠唱を済ませた愛海が、タイミングを見計らって魔法を発動。巨大な氷の弾がビッグスライムに当たったと思ったら次の瞬間、その巨体がみるみる内に凍っていく。それは表面だけではなく内部の核にまで広がり、十数秒ほどでビッグスライムは完全に凍り、動かなくなった。
「やっと倒したー!」
「終わったー!」
「恵、まだ攻略終わってない」
ビッグスライムの変異種という思いもしない敵を倒せて勝ちムードになってはいるが、まだ攻略は続く。俺が下見した時の事を考えると、そろそろダンジョンボスがいる所を発見してもおかしくないと思う。
その考えは当たっていて、ビッグスライムに遭遇したところから数分歩いた所に、頑丈そうな巨大な扉がそびえ立っていた。
「ここがボス部屋……凄いなんか、威圧感がある……」
「ん……」
「こここ、怖がってるのか? なら、お、俺がせせ、先陣を__」
「「馬鹿! それだけは辞めて!」」
いくら魔力人一倍が多い愛海でも、ビッグスライム戦でほとんど使い切ってしまったようだ。それに優里は愛海に比べ魔力が少ない分、ポーションで補給していたのである意味限界に近い。恵は元気を装ってはいるが、前衛で動き続けていたため体力も残り僅かだろう。
「キリがいいですし、今日はここまでにしてボスが明日にしませんか?」
「賛成! 私、お腹がヤバい……」
「そうね。私も魔力ほぼ使い切っちゃったし……」
4人で魔道具を使いテントに移動。今回はビッグスライムと戦ったためにその粘液が装備に付いているため、全員まずはその対処から。
女子にはそのまま風呂に入ってもらい、俺たちは男子組は残りのポーションの在庫などを確認。女子組と入れ替わりで風呂に入った。
「やっぱすげー違和感あるわ」
恵の言葉が浴場で響く。
「体つきは男なのに、股間だけないってもう女だろ」
「だから男ですって」
「分かってる。ただネタにせずにはいられないね」
「そうですか」
勘違いされていない事に一安心した。
「そう言えば蒼って、どこ中なんだ?」
「え、えっと……」
どう答えれば良いのだろうか。適当な学校言って誤魔化すか? だがバレたら悪い印象を与えてしまう。
「……いや、いいわ」
「え?」
「いや、そんな思い悩むんだったら何かあったんだろ? 無理に言わなくて良い」
「……ありがとうございます」
気を使ってくれて助かった。だけど恵に申し訳ないし、こちらから話題をつくろう。
「恵くんは中学校の頃どうでしたか?」
「ん、俺? 俺はなぁ。色々だったぜ。ダチと遊んだりテストで赤点取ったり反抗期だったり」
「勉強はしてないんですか(笑)」
「あぁ。あん時は勉強なんてクソ喰らえだと思ってたからな。テストの度に放課後補習受けて、それが多くてそれまで入ってた部活辞めさせられたんだよな……結局そのまま高校に入っちまったが(笑)。お陰で全然勉強分かんねぇ」
はは、と笑い飛ばす。
逆に重い空気になってしまった。どうしよう。
「恵は、その、す、好きな女の子はいないんですか?」
「あ、俺優里と付き合ってんだ」
即答。彼女持ちかい。しかも相手は優里か。道理で2人の距離が近いと思った。
「優里に笑われないように、『高校からは勉強頑張ってやる!』って意気込んでいたんだが……現実は厳しいわ」
「大丈夫ですよ」
落胆している恵に言う。
「人は、生きている限りいつでもやり直せます。それに勉強なんて大人になってする人もいますし、なんなら俺が教えますよ」
最後に小さい声で「俺は人の幸せのために存在しているのですから」と呟く。
「お、おう。ありがとうな」
少し照れくさそうに言う。
「今、俺の事呼び捨てだったよな?」
「あ……気にしないでください恵くん」
「いや。呼び捨てのままで良い。その分頼らせて貰うぜ、蒼」
「はい。いつでも頼ってください」
その後、長風呂だったため恵はのぼせてしまった。恵の彼女である優里は「一体ボス倒す前に、何やってんのよ……」と呆れながらも彼の体調が良くなるまで看病をしていた。
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