第27話 ダンジョン攻略前の下見

平日の放課後。俺は攻略予定のダンジョンに来ている。下見だ。今回は3日間という制限時間が設けられている以上、安全に且つ早く攻略しなければならない。


届出を出していざ、ダンジョンへ。


ここのダンジョンは初心者向け。特に入り口に近いところでは魔物は出ない。だが進んでいくにつれて魔物は出てくるようになるし、その魔物も強くなっていく。そして、攻略するためには『ダンジョンボス』を討伐しなければならない。


ダンジョンボスは他の魔物とは一線を画すほど強い魔物のことで、そのダンジョンの象徴に近い存在である。他にもダンジョン内には定期的に強力な魔物と遭遇するが、それらを余裕で倒せないとダンジョンボスは倒せないと言われている。


「お、回復キノコが生えてる」


回復キノコ。それは呼称で正式名称はヒールマツタケ。回復ポーションの材料や、松茸に似ていることからそう名付けられた。通常の松茸との違いは少し赤みがかっていること。これは研究によってダンジョン外での栽培が可能になっている。そのためスライムゼリーよりは安いが小遣い程度の買取額にはなる。


俺はそういった金になりそうな物を採集・倒して回収しながら順調にダンジョンを進んでいく。安全そうな場所をマークしながら。


しかしそうやって最後まで平和でいられることはなかった。巨大な鬼の魔物、オーガとの遭遇である。


オーガは基本的に鬼と見た目は変わらない。手に持っている棍棒を振り回しわして攻撃してくる。オーガの攻撃は威力が強い分早くない。落ち着けば、初心者の冒険者でも避けられる。だが防御力が高く、生半端な攻撃は通じない。


俺はまず距離を詰め、オーガの足の腱の所を切る。すると、オーガは立てなくなりその場に膝を着く。次に遠距離から目玉を狙って魔法を放つが、腕で防がれてしまった。ただこれは想定内、というより作戦通りで今度は腕で防御した事によって空いた脇を切り、腕を切り落とす。後はトドメを刺して終わりだ。


「オーガは色々と原材料になるから魔物が血の匂いで寄ってくる前に回収しないと」


目、睾丸。どれも値が張るアイテムの材料になる。スライムゼリーの倍とまではいかないが、それでもいい稼ぎになる。


俺はその後もダンジョンを探索して行く。魔物が現れては瞬殺し、有用な素材は回収。強力な魔物の場合でも対応は変わらない。奥に行けば行くほど魔物は強くなるが、回収できる物も高価になる。俺はこれから来る人達のことを考えて薬草とかは全部は回収していない。こんな奥まで来たのに収穫0は可哀想だからだ。


そしていつの間にか、ダンジョンボスまであと半分というところまで来た。


(こんな簡単だっけ。前の世界だともっと苦労するようなデータがあるのに)


ここは初心者向けダンジョン……そう自分に言い聞かせる。たまにノイズも走るが……まだ暴走するほどでは無い。


来た道を戻りギルド支部で回収した物を換金。普段なら現金としてその場で貰っていたのだが、今回はかなり高い金額だったので口座に入れてもらった。受付の人がその額を口にした途端周りの人たちがこちらに振り向いたのも理由の一つ。


その後は寄り道をせずにすぐ帰宅。そして夕飯。


「いただきます」


1人静かではあるがこれはこれで良い。昼間はパーティーメンバーといることが多いので刺激が絶えない飽きない時間だが、それとは対照的に刺激が少ないこういった時間を確保しておくのは大事だと思う。


自動人形が何言ってんだ、と思われるかもしれないが、本当に大事。


(誰に言ってるんだ俺……)


うん、今日も美味しい。一人暮らしを始めてから1ヶ月くらい経つが、毎日料理は欠かせずやっている。こっちの世界に来た時初めて食べたお義母さんの料理が忘れられないからだ。


あのお粥は本当に忘れられない。全く知らない味付けだったけど、考えるより先に食べていた。あれは完璧だった。


だけど俺の料理は完璧だけどお義母さんほど美味しく感じない。レシピとか全部教授してもらったけど、何かが足りない。毎日料理をし続けているのは、その“足りない何か”を見つけるためでもある。


「ごちそうさまでした」


食器を片付け一息つく。


(今日でもう木曜か)


試験まであと今日含めて2日。今はもう夜だから実質1日。あまり使わないLINEでみんなに準備出来ているか聞いてみる。


『夜遅くにすみません。皆さん準備進んでいるでしょうか?』


パーティーのグループLINEにそう呟く。するとすぐに既読になった。


『俺は親父から回復薬8本譲ってもらった。なんか魔力薬もくれるらしいけど、いるか?』


『いるいる! 私はともかく優里は多分回復間に合わないから』


『りょーかい。蒼、テントは用意出来てるのか?』


『俺は持ってるので、当日持ってくだけですね』


『そういえばそうだったな。食糧係の2人はどうだ?』


『愛海と2人で買い出しに行ったけど、大体どこも携帯食糧の品数が少なくて、一応買ってはあるけど心許ないから明日また買いに行く予定』


『俺も荷物持ちで行きましょうか?』


『いや、大丈夫』


『分かりました』


このようなやりとりも5分以内で終わる。インターネット様様である。


もう夜遅かったので、LINEを閉じて俺はすぐ寝た。

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