第3話 自動人形、入学する
引っ越しから数日後、今日は初登校日だ。高校は家から徒歩10分の距離にあるので、ぱっぱと準備し、家を出る。
新設されたこの国立ダンジョン対策高等学校、通称ダン校はかなりの敷地に面している。一般的な校舎に加え、観客席付きの広く頑丈な体育館・闘技場がある。なぜ観客席付きなのかというと、まずは訓練の見学用。そして決闘する際の観覧用だ。即戦力になる人材の教育に力を入れていることが窺える。
ここまでは一見変わった体育系の学校と思われるが、実際には学力も高く、冒険者になる気がない人でも、この学校に入る時があるらしい。
そう言えば、クラスメートはどんな人達だろう。前みたいに視線を向けられるのは覚悟しているが、出来れば普通に接してほしい。
俺は期待に胸を膨らめせ、大きな校門の先に大きな一歩を踏み出した。
♦︎ ♦︎ ♦︎
「ねぇねぇ、今日だよね? 転入生来るの」
「そうだぜ。確か男だったな」
「男子か〜…女子が良かったな〜…」
「別に男子でもいい。あ、先生来た」
一つの席に集まり話をしていた3人はそそくさと自分の席に戻った。朝の挨拶をし、先生からの連絡。
「今日はみんなが知っての通り、このクラスに転入生が入ります。蒼くん、入って来てください」
俺は先生に呼ばれ、扉を開け黒板代わりの大きなスクリーン前に移動する。
「初めまして。神生蒼です。訳あってこの学校に来ました。機械をいじるのが得意です。3年間よろしくお願いします」
自己紹介は即興で考えた。機械をいじるのが好き、あながち間違いでもないから大丈夫だろう。
「…という訳で、今日から丁度冒険者になる手続き始まります。お前の席はあそこです」
と、先生は窓際の1番後ろの席を指差す。
「これでHR終わります」
HRが終わり、一斉にクラスのみんなが俺のところに来た。
「よろしくね! 蒼くん!」
「ねぇ、連絡先交換しない?」
「何かのファッション雑誌に出た時ある?」
と質問攻めにされた。俺は、当たり障りのない返答で質問を流していく。それでも中々終わらず、1校時目が始まる寸前まで主に女子に周りを囲まれた。
1校時目が始まり、担任の先生がギルドカードを配っていく。
「はーい、このギルドカードは必ず無くさないように。なくしたらすぐに言ってください」
パラパラパラっとめくると、冒険者の心得などが書いてあった。覚えておいて損はない為、一目見ただけで内容を覚えていく。
「冒険者の心得なんかも載ってるから、ここで確認したりはしないが来週までには読んで内容を大体でも良いから覚えておくように」
やっぱりこれは覚えないといけないのか。でもこれ結構量あるぞ。内容は…
・その国の法律に基づき行動すること
・仲間を裏切ってはいけないこと
・他のパーティに迷惑をかけないこと
・ギルドの指示、招集には原則従うこと
・ダンジョンで異常があった場合はすぐに
ギルドに連絡をとり、撤退すること
・ギルドカードの偽造、他人への貸与はしないこと
:
・以上を守らない場合、ギルド又は国からの罰則があり
って感じだ。30項近くもある。それに加え普段の勉強もあるから相当追い詰めないと普通ならキツイかもしれない。
「それじゃあこの時間は、パーティを決めますよ〜。って言っても、今回は学校で決めてあるんですが」
教室中で「えぇ〜」と響く。だがこれは正しいと思う。どうしても生徒たちが自分で決めると戦闘などにおいて相性が悪いのに「友達だから」とパーティを組み、最悪ダンジョンでそのパーティが全滅してしまう。
ギルドが推奨しているパーティ編成は、前衛にタンク役やアタッカー役の剣士や盾持ち、後衛にサポーター役の魔法使いにし、1パーティにつき4、5人。実際現役の冒険者達もこの編成のパーティにしてるところが多い。たまに、全員魔法使いや、全員槍使いなど、偏った編成もいるが、極稀だ。
先生がスクリーンに4人一塊で名前を書いていく。先生が書いている間みんなワクワクしていたり、暗い表情になったりと様々だ。
「よし、それじゃあこのグループで集まって戦闘面にも触れつつ再度自己紹介してくださ〜い。あとパーティ名だとか、どうゆう方針でやっていくのかもこの時間が終わるまで話し合っていいですからね〜」
各々名前を呼び合い、固まってく。ただ俺は今朝来たばかりで誰の名前も覚えていない。
「あ、蒼くんこっち!」
教室端から俺の名前を呼ぶ声が聞こえ見てみると、3人集まっているグループがあったので、そのグループに合流した。
「んじゃ、俺からすっかな。俺の名前は伊藤恵。スキルに剣術があるから前衛だ。よろしく!」
っと、金髪で筋肉質な男子が自己紹介した。
「あ、私は秋葉優里。支援魔法が得意なので後衛になると思う」
っと、内気な女の子。
「私の名前は上原愛海。魔法全般できるけど攻撃魔法が得意かな。支援魔法もできるっちゃ出来るけど自分以外にかけられないし。最後だよ、あ・お・い・くん?」
俺とは少し違う緑っぽい青髪の女子が俺に顔を近づける。あれ、この人確か悪漢から助けた…
「シー!」
それを言い出そうとしたら、口どめされたので真面目に自己紹介をする。
「先ほどもしましたが、俺の名前は神生蒼。すみませんが、俺はどんなスキルをもっているのか分からないので、これ以上言える事はありません」
「はっ!? 自分のステータス見た事ないのか!? 『ステータスオープン』って言えば、他人にも見られるが、見れるはずだぜ?」
ステータスは魔物を含め全・て・の・生・き・物・に与えられるもの。名前、年齢、種族、性別、レベル、魔力、スキル、称号がステータスに含まれる。
「〈ステータスオープン〉、ほら、こんな感じでやってみろ」
恵が自分のステータスを見せてくる。
《ステータス》
名前:伊藤恵
種族:人間
性別:男
年齢:16
レベル:12
魔力:550
スキル:剣術、体術
称号:なし
「へ〜、あなたレベル高いわね」
「そりゃあ俺の親父が冒険者やっててな。暇な時に訓練してもらってるんだ」
レベルはわざわざ戦闘をしなくとも、訓練で少しずつ上がる。ついでに前の世界での一般人の平均レベルは10だと言われている。
そもそも俺は生き物ではないから言っても出ない。けどここで言わないのは不自然だからやるだけやっておこう。
「〈ステータスオープン〉」
《ステータス》
名前:神生蒼
種族:機械神・自動人形
性別:なし
年齢:不明
レベル:なし
魔力:∞
権能:《機械神》
称号:人の形を模した物
……なんでステータスが出てくるんだ!? それに機械神って……
同時に権能の《機械神》でどんな事ができるのかがわかった。俺はあの時、この世界で再起動する前に聞こえたあの声が入っていたことを思い出す。
「まさか、お主みたいなのが機械神になるとはの」
今、《ステータス》が出たのも、改造していないはずのセンサー類の性能が上がったのも、俺自身が機・械・神・になったためか。おまけに《機械神》なんて権能までついている。
権能とは、スキルと似たようなものだ。ただ、その効果がスキルとは桁違いに高い。例を挙げると、〈剣術〉のスキルを持つ者が何人集まろうと、〈剣術〉の権能版を持つ1人に勝てない。また、スキルは複数人が同じものを持つが、権能の場合は1人1人全く違うものだ。
権能を持つ者はとても希少で、この世界だと1万人に1人もっているとされている。そのゆえギルドや国、企業らは権能保持者を囲うことがほとんどだ。
幸いにも、恵や京介、愛海には名前しか読み取れなかったようで安心する。
「ええっと、多分前衛での近接戦も後衛でのサポートもできると思います」
俺は元々制限さえ解除されればほぼ全ての魔法を使えるし、近接戦も、機械神になったことで性能が上がったこの体がある。オールラウンダーだ。
「そう……じゃあ恵と一緒に前衛やってもらおうかしら」
愛海さんは《ステータス》のほとんどを読めなかったことを不服そうにしつつも、切り替えてそんな提案をした。
「そうだな。俺も親父との訓練で腕にある程度自信はあるが、ダンジョン自体には行ったことないからな。助かるわ」
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