マグマ・ロード編

第31話 優雅なる耐性

「これ全部か……」


 ようやく地獄の勉強から開放されたのも束の間、次は頭がクラクラするほどの準備。


 休息の時間は中々訪れない。まぁ無気力に毎日過ごすよりかはマシだと思おう。


「まぁいいじゃん準備も楽しく楽しく♪」


「お前はいつも楽しんでるな」


「今日は特にさ。何だって初めてマスターと二人きりなのだから!」

 

 今日はレシリーの防具の仕入れ。武具派は耐性魔法などの魔法を使えないためより強力な防具を必要とする。


 ユリエスは魔法の強化のためにルイスさんと特訓中。故にレシリーとは二人きりという形になった。


「いやぁマスターを独占できるのは最高の気分だね!」


「おいあまりくっつくな」


「いいじゃん僕達同じベッドで寝た仲なのだから!」


「あれはお前が強引に!」


「でも抵抗してなかったじゃん」


「っ……」


 恋人のように腕を回すレシリー。男同士なんだからと思えばいいのだがこんな見た目じゃそんなので片付けられない。

 

 髪はサラサラしてるし身体は柔らかい。おまけにユリエスとは別タイプの超がつくほどの美しい美少女……ではなく男の娘。

 横顔も見惚れるほどに綺麗。

 

 想い人はユリエスだがここまで近づかれるとドギマギしてしまう。

 距離感バグってるかつ犬のような良くも悪くも純粋で甘え上手な性格。


 前世にいたら一体何人の男を勘違いさせていただろうか。


「さてここにしようかマスター」


 連れて来られたのはドワーフの武具屋。やはり武器や防具となるとドワーフか。

 

「らっしゃい!」


 ユリエスよりも小柄で長い長い立派な髭を生やした初老の男性。

 俺が予想していた通りの姿に思わず感激する。これぞドワーフだ。


「お客さん見ねぇ顔だな」


「うん! 少し前にこの国に来てね。マグマ・ロードを渡れる防具が欲しいんだ!」


「なっマグマ・ロードを!? 兄ちゃん冗談にしてももう少し現実味あることを……」


「本当のことだよ?」


 一気に顔色が変わったドワーフ。冗談って言われるほどヤバい場所なのか。

 まっそう思われるのは想定内だ。


「旦那この子が言ってることは本当なのかい?」


「えぇ俺達は本気です」


「その胸元の紋章……上級魔法派か。分かった旦那達の話を信じるよ」


 早速胸元のバッチの効果が発動した。 

 どれだけ無謀なことでも話を受け入れてくれる。超難関な試験なだけのことはある。


「要望は?」


「火山地帯でも耐えれるほどの防暑性、でも機動力は残したいから今の服くらい露出は残しておいて欲しい」

 

 かなりの量の要望だが「あいよ!」と即答でドワーフはOKを示してくれる。

 その目は職人魂に火がついたような闘志を感じる真っ直ぐな目をしていた。


「本当に出来るのか?」


「多分ね、このメロディは信頼に値するよ」


 カン! カン! カン!


 奥から聞こえる金属のぶつかる音。徐々に店内が蒸し暑くなり始める。

 暇を持て余して数時間後、汗をダラダラとかいたドワーフは満面の笑みで現れる。


「出来ましたぜ要望通りのな!」


 黒を基調とした防具とは思えないほどにスタイリッシュで露出したデザイン。


「ガントレットからは耐熱コーティングを含む気体を常に噴射している設計、防具には黒の道化師ブラッククラウンを採用している、機動力を残しつつ防御力、耐熱性を底上げしておるぞ」  


 黒の道化師ブラッククラウン

 説明によると希少価値のあるマテリアルで美しい見た目とは裏腹にとてつもない耐久力をもつ代物。


 ずいぶんと洒落た名前だ。


「おぉ! いいねぇいいねぇ最高じゃん!」


 レシリーは満面の笑みで渡された新装備に細胞レベルで狂喜し酔いしれている。

 

「よしっその装備ならマグマ・ロードも「旦那」」


「代金を払ってくれませんかい?」


「えっ? あぁいくらですか?」


 妖艶さを感じる装備にレシリーと同じく見惚れていたせいでお金のことをつい忘れていた。

 希少価値を使っているのだから金貨5枚ほどだろうか。


「金貨15枚で」


「15……!?」


「当然ですぜ。耐熱コーティングに黒の道化師どちらも仕入れるのが困難な素材、それくらいの対価はよこしてくだせぇ」


「10枚くらいで負けてくれませんか?」


「いいやここは譲れない」


「じゃあ12枚で」


「駄目」


「13」


「駄目だ」


「14」


「無理だ」


「……15で」


 何度も交渉したが全くこちらの提案を受け入れなかった。頑固にも程がある。

 

 幸い無限回廊攻略の報酬で金貨は30枚ほど入手できた。しかしまさかその半分を装備1つで使うことになるとは……。


「ったくあの頑固ドワーフ……少しは負けてくれてもいいだろ」


「職人は皆頑固なんだよ。それよりもマスター早速この装備の実験していいかい? 僕を思いっきり燃やしてくれ!」


「燃やす!?」


「だって耐性力のテストだもん。マスターの魔法強いしいい実験になるかなって」


 大丈夫なのか?

 実験で装備が使い物にならないとかになったら泣くぞ俺。

 というかレシリー自体が危ない。


「ほらっマスター早く早く!」


 移動した人気のない広大な広場でピョンピョンと跳ねるレシリー。

 これから火に焼かれるとは思えないほどのハイテンション。


「ファイヤー・ボー「違う違う!」」


「何でそんな初級魔法なのさ! もっとド派手で凄い魔法にしてよ!」


「お前……下手すれば死ぬぞ?」


「大丈夫大丈夫! 多分何とかなるよ」


 何とかならない奴の言い方。まぁレシリーのことだ。妥協してたらいつまでも終わらないだろう。


 魔法陣を出現させ上級魔法の中でも比較的弱い魔法を放つ。


「インフェルノ・ショット」

 

 出現した真っ赤な業火はボウガンの形に変化する。


 ゴォォォォォ!


「!?」


 射抜かれた炎の矢は予想よりも遥かに巨大化していき回転を描く。

 最悪だ。ここで運任せの魔法が一番あってはならない方向に発動してしまった。

 

「避けろレシリー!」


 咄嗟の叫びは凄まじい業火によってかき消されレシリーは炎に呑まれる。

 辺りの草原は焼け焦げ凄まじい衝撃波が広がっていく。


「レシリー!」


「おぉ凄い!」


「えっ?」


 地獄のような光景に響き渡る享楽的な声。絡めるように纏わりついていた炎はスチームの噴射により豪快に吹き飛ばされる。


「レシリー無事なのか?」


「うん、なんかちょっとポカポカしただけでぜ〜んぜん平気だった!」


 あの魔法をポカポカって……。


 ウルフの時とまではいかずとも手応え的にはかなりの出力で魔法が発動していた。しかしレシリーの装備は傷一つついていない。


 「まさかこれが」と心の片隅でずっと思っていたが全く意味のない不安だった。


「よしっこれで僕の装備は完璧! じゃあ次は馬を買いに行くよ!」


 


 

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