第34話 上書きの詠唱
ルイスさんのずば抜けた無双はその後も続きモンスターを次々と蹴散らしていく。
「もうこの人だけで充分じゃないか?」という気持ちが段々と膨れ上がる。
「日が沈み初めてますね……ここら辺を寝床にしましょう」
時間はあっという間に過ぎてっぺんに昇っていた太陽はいつの間にか美しい夕日へと変化していた。
「ねぇマスター……ルイスちゃん凄く強くない?」
「あぁ……お前も大概だがな」
「えっ?」
可愛い顔してるのに凶暴な能力の仲間しかいない。
主に強力な重力魔法を操るユリエス。
何でもぶった斬る戦闘狂のレシリー。
一瞬でモンスターを蹴散らすルイスさん。
文面だけでも頭が痛くなる。
誰か1人でも敵だったらと思うと身の毛がよだつ。
「辺りには罠魔法を仕掛けたので皆さんゆっくりと睡眠を取ってください。明日はマグマ・ロードに突入します」
得意魔法は雷系らしいが他の属性の魔法もかなり優れている。
さすが上級魔法派だ。
しかしまだ火山地帯でもないのに色々と疲れた。なのに身体は躁状態になっており中々寝付けない。
「あれユウトさんまだ寝ないんですか?」
「えぇ……少し眠気が来なくて」
「色々な恐怖が心を襲うのは分かります。しかし大丈夫ですよ。どれだけ怖いモンスターが現れようと私が倒しますから!」
いやそんな笑顔なのにとんでもない魔法放つ貴方が一番怖いです。
キングウルフだとか無限回廊だとかが可愛く見えてきた。
「そういえば先生って?」
「あの人のことですか? 凄い方ですよ!」
振った瞬間、意気揚々と口を開くルイスさん。それほどまでに尊敬してる人物なのか。
「まだ私が未熟者だった頃、付きっきりで教えくださった魔法派の先生がいるんです。巷では最強の魔法派なんて呼ばれています」
最強の魔法派……。
つまりはこの世界で最高峰の魔法能力を持つ者から教わっていたということか。
それならあの強さも納得がいく。
「先生は凄いですよ! ちょっと変わり者ですが造語を発明したんですから」
「造語?」
「アサルトオークとグリーンビーを倒した時の詠唱は覚えていますか?」
あれのことか。あの時「ウェズデッド・パラライズ」と何を意味するのかよく分からない単語を発していた。
「例えば知能あるモンスターや冒険者と戦うとします。その際に「ファイヤー・ボール!」なんて詠唱したら何を出すかバレてしまうでしょう?」
言われてみればそうだ。
この世界の魔法は「ウォーター・フォール」やら魔法の効果を直訳したような詠唱が大半を占めている。
「その際に詠唱を造語に書き換えることで何を出すかを錯乱させるようにしたんです。書き換えは高度な技術なのでまだ限られた人にしか出来ませんが……」
「てことはルイスさんの魔法も?」
「えぇまだ完成とは言えませんけどね」
確かに考えられてる。
必殺技を撃つ前にその内容を公開するなんて冷静に考えれば間抜けだ。
しかし……それなら俺にも出来るんじゃないか?
「俺もやってみていいですか?」
「へっ?」
虹色の魔法陣を出現させルイスさんがやった神業をやってみることにする。
「なっ!? それワイルドカードじゃないですか! 先生以外で初めて見た……」
「ルイスさん、書き換えのやり方は?」
「えっ? あっまずは魔法陣に書かれている詠唱構築の消去を……」
魔法陣の中にある小さく白色で書かれている文章。
気を集中し魔法陣に深く刻まれた文字を徐々に消していく。
「消せている……!?」
「ルイスさん次は?」
「え、えっと空白のエリアに自身が詠唱したい造語を刻みます。そしてイメージを集中し新たな詠唱で魔法を放ちます」
新たな詠唱の入力……何にすればいい?
連想してしまうような言葉では意味がない。響きが良くて覚えやすい言葉……。
(そうだ……!)
「詠唱入力、アウローラ」
ラテン語で訳すと夜明け。
これならいい響きだし覚えやすい。
空白になったエリアに新たな詠唱が刻まれていく。
後はイメージを強く持ち新たな詠唱を勢いよく唱える……!
「アウローラ!」
ボォッ!
魔法陣から放たれた火球。
それは本来ファイヤー・ボールという直訳で唱えていたもの。
「やった……」
「なっ……なっ……!?」
成功した。
何処かで暴発する恐れは頭を駆け巡っていたが見事に詠唱を書き換え魔法は丁度いい威力で放たれる。
「こんな直ぐに成功するなんて……私だって半年は掛かったのに……」
だが造語なんて特殊オプションは神に与えられた時には記載がなかった。
神であれ全知全能ではないのか。それともその最強の魔法派が神の領域から外れた規格外の力を持っているのか。
出来るなら前者であって欲しい。
「これって他の魔法も出来ますか?」
「書き換えられるのであればどんな魔法でも……」
全属性の魔法が使える訳だが全て造語にしたら逆にどれがどれだか分からなくなる。
直訳詠唱はバレる反面、覚えやすかった。
全魔法の中で使いやすいのは炎魔法。とりあえずは炎関連の魔法を造語にするか。
「アウローラ」という言葉を基準に俺が思う新たな詠唱に書き換えていく。
「ユウトさん貴方は一体……」
「3年前の例の人もそうでしたか?」
「えっ? あぁそういえば……ユウトさんのように詠唱書き換えに成功していた気が」
やはりその転生者も成功していたか。
つまりは多分その者も神からの恩恵を受けているということ。
「ルイスさんありがとうございます。いい知恵を貰えました」
「は、はい……」
何かと不穏な空気が流れてきた。
転生者に今度は最強の魔法派。
この世界は俺が思っているよりも複雑な事情を抱えているのかもしれない。
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