第33話 ニューパーティ

 その後も3人分の食費、簡易寝床、馬の耐熱装備。その他諸々の装備。

 最初は30枚もあった金貨は財布から消えていき最終的には2枚という惨事。


「やっと終わりか……」


 金が失くなる度に精神がやられた。

 色々とお金を出してくれていた親の苦労がようやく分かった気がする。


「これでリストは完了ね。備えは終えた」


「早く早く♪ 戦いに行こっ?」


 まぁ2人の為だと思えば貢いだ気分になれてまだ気が楽になれる。

 半分はレシリーへの出費だが。


「さてルイスさんは……」


 今日この日、フリラードの正門前で集合のはずだったが姿が見えない。


「ユウトさんお待たせしました!」


「おっ来た来た……えっ?」


 俺は幻覚を見てるのか? 

 足早に駆けつけて来るルイスさんの肩に乗ってる水色の……狐?


「すみませんお待たせしました」


「いや……それよりも肩にいるのは?」


「あぁこれですか? サポートモンスターですよ。名前はシエル」


「サポートモンスター?」


 サポートモンスター。


 魔力の一部提供を代償に契約可能なレアモンスター。  

 Aランク以上でなければ契約することは難しく可愛らしい見た目の反面、能力は凶暴らしいが……。


「これがレアモンスター?」


 可愛らしいペットにしか見えない。

 

「凄い可愛……」


「キィィィ!」


 ドゴッ!


「ごはっ!?」


 小さい前足から放たれる強烈アッパー。

 触れようとした瞬間、シエルは目つきを変え飛び掛かる。


「こらっシエル!? すみませんいつもはこんな気性が荒くないのですが……」


「い、いえ……痛っつ……」


 何でこうも嫌われるんだ。

 馬に蹴られるは可愛いモンスターからアッパー食らうは散々過ぎる。


(嫌な匂いでもしてんのか?)


 本気で自分の匂いが怖くなってきた。

 そういえば前世でも犬やら猫から異常に吠えられていた気がする。


「ま、まぁとりあえず出発しましょう!」


 色々と憂鬱だがとりあえずは荷物を背負いフリラード王国を後にする。

 短い期間だったが色々とお世話になった。


 エスラルド王国までは距離にして約80キロメートル。

 ノンストップで進めば10時間ほとで到着するらしいが夜の危険性やモンスターの出現などで最低3日は掛かる。


「ずいぶんと懐いたわねその馬、スズネだっけ?」


「名前つけてないと愛着沸かないからな」


 この生意気な馬にはスズネと名付けた。

 特に深い意味はない。鈴音と感じて書くとなんかお洒落だし響きもいいというしょうもない理由。


 初めて出会った時はあれほどまでに暴れた馬は今となっては大人しく俺を乗せている。

 ため息のような鳴き声が聞こえる辺りまだ納得はしていないようだが。


「しかし可愛げのないやつ……」


「飛ばしますよ。ついてきてください!」


 広大な大地にパカラパカラと馬の足が奏でる心地の良い音。

 まさにRPGと同じような光景に胸が踊る。


「ガァァァァ!」


 無論、ずっと平穏な時間が過ぎる訳でもなく案の定モンスターは出現する。


 可愛らしい見た目のスライム。

 凶暴な牙を光らせるウルフ。

 下劣な知性が働くゴブリン。


 多種多様なモンスターが俺達の旅路を阻んでいく。


「あっマスターあれ!」


 ズシン……ズシン……。


 地を激しく鳴らすゆっくりとした音。

 目の前に現れたのは巨大な斧を持ち防具に見を包んだオーク

 そして辺りを舞っているのは蜂のような緑のモンスター。


「アサルトオークとグリーンビーじゃん! 凄いどっちもレアモンスターだよ!」


 見た瞬間に有頂天になるレシリー。

 なんかよく分からないがそれほどまでに気分が高揚する貴重な存在というのは分かる。


「ねぇねぇ凄いよマスター!」


「そ、そうか……とりあえず倒すか?」


「うんそうしよ「待ってください」」


「ここは私が」


 止まらぬレシリーの言葉を静止したのは意外にもルイスさん。

 馬から軽やかに降りるとモンスターの大群へと立ちはだかる。


「30秒以内で終わらせます」


 常に朗らかだった笑みを浮かべていた顔は瞬きと共に覚悟を決めたような表情へと一瞬で変化する。


「ユリエス、俺らも加勢に行った方がいいのんじゃないか?」


「いや彼の実力を確かめるチャンスよ……しかしこの大群を30秒って……」


 6色に輝く魔法陣が出現すると光を纏わせた親指と中指を擦り合わせ息を整える。


「オォォォォォォォォ!」


 大地を切り裂くほどのオークの雄叫びを合図に大群は一斉に襲いかかる。


「ルイスさん!」


「心配は無用です」


 アサルトオークの豪快な一撃を軽やかに避け空中から攻めるグリーンビーを鮮やかな蹴りで退ける。


 見惚れるほどの無駄のない洗練された動き。数で物を言わせているモンスター達の猛攻を一切受け付けない。


「皆さん耳塞いでおいてください。シエル、サポートお願い」


「キュォォォォォォォォ!」


 空間を歪ませる超音波のような鳴き声はモンスター達の鼓膜を破壊し動きを封じる。

 

「な、何だこの音!?」

 

 耳を塞いでいても入ってくる心臓を握りつぶすような鳴き声。

 膝が崩れるほどに意識が揺らいでいく。


「チャージ完了」

 

 その時だった。


「ウェズデッド・パラライズ」


 パチン___。


 詠唱と共に指が鳴らされた瞬間___。


 ドグシャァァァァ!


 大群を囲むように上空に現れた黄色の魔法陣は無数の雷を落下させモンスター達を焼き尽くす……!


「「「えっ?」」」


 舞っていたグリーンビーの姿はもう何処にもいない。

 雄叫びを上げていたアサルトオークは原型をとどめないほどに焼かれ黒焦げになる。


「ふぅ……時間は何秒でした?」


「2、28秒……」


「ギリギリですか……まっ及第点といった所でしょうか」


 あれで及第点止まり?

 あんな魔法で満足いってないというのか?


「今のは一体……!?」


「全体攻撃の雷魔法ですよ。少しばかりチャージが必要ですが……しかし20秒以上必要とは先生に比べたらまだまだですね」


 不満げな顔を浮かべるルイスさん。

 それを見て恐怖心が募る俺達。


「先生……?」


「はい! 私よりも遥かに凄い才能の魔法派がいるんです、その人はチャージ攻撃を数秒で放てます!」


 嘘だろ、これよりも上がいるのか?

 なんか急に自信が無くなってきた……。 


「さっ日が暮れる前になるべく進みましょう!」


「……はい」


 普段の緩そうな雰囲気からは想像も出来ない程の魔法の強さ。

 

 能ある鷹は爪を隠す……という言葉を改めて実感した。



 

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