第35話 灼熱への入門
一夜明け再び俺達はエスラルドに向けて走り出す。
「ユウトさん、体調とか大丈夫ですか? あんな一夜で詠唱書き換えをしたら……」
「特には何ともないですよ。いつも通りの俺です」
「ならいいのですが……」
詠唱書き換えは魔力を膨大に使用する為に体調に影響が出ることも珍しくないという。
特に影響がないのは神から借りてる魔力のおかげだろうか。
運任せなのには不満があるが魔力自体は膨大な量があるというのはありがたい。
「ルイスさんマグマ・ロードまでは後どれくらいですか?」
「谷を超えたらもう直ぐです。気を引き締めて行きましょう」
平野と森か交互に繰り返される光景。デジャヴのような時間にそろそろ飽き始めてきたその時。
「着きましたよ」
「えっ……?」
ボゴォォォ!
白い山から至るところに流れる溶岩。
轟音と共に起こる不規則な噴火。
灰が舞う息苦しさ。
まるで地獄を再現したような光景。
「これが……マグマ・ロード?」
「はい、でもまだここは安全地帯です。問題のエリアは更に奥に進んだ場所にあります」
「安全……地帯……!?」
自分の耳を疑う。既に危険な匂いがプンプンしているというのにまだ安全?
ここの世界ハードモード過ぎる。
「さて皆さん準備はいいですか?」
「もちろん!」
「ユウトは?」
死を目の前に感じるほど全身の鳥肌が灼熱に震えている。
多分、これまでとは比にならないほどの危険が襲ってくるはず。
「……あぁ出来てるよ」
だが退けない。
ここは日本じゃない。異世界だ。
生きることが当たり前じゃないし何処だろうと死が存在する。
どうせいつかは死ぬんだ。ならビビる必要なんてない!
「さぁ……行きましょう!」
火山が蔓延る中、整備されている道を駆け抜ける。
にしても暑い。炎の耐性魔法を全身にかけているがそれでも暑さを感じる。
「アウローラ・デルタ!」
上空に舞う火の翼を生やした鳥型モンスター、サン・バード。
中々素早いが捉えられる。アウローラの火球を分離させ発射し次々と撃ち落とす。
「いいよマスター!」
「流石ですユウトさん、このままノンストップで進みましょう」
火山地帯とあってか出現するモンスターも炎に関連したモンスターが多い。
他にも炎を発射するレッドスライム。
炎に魅力された死者の亡霊ヘルゴースト。
身体半分が炎に染まった狼ドライウルフ。
レベルは低いが癖の強いモンスター達。
なのだが……。
「レイ・グラビティ!」
ユリエスは火吹くレッドスライムを重力で押しつぶす。
「スチーム・バースト・ハードブレイク!」
レシリーは煙で錯乱しドライウルフの首を一気に切断する。
「ペレイラ・パラライズ」
ルイスさんは詠唱書き換えのチャージ魔法でヘルゴーストを雷の雨の餌食にする。
それ以上に仲間の癖が強かった。
誰も個性が被らない戦闘スタイルでモンスターをノンストップで蹴散らしていく。
意外にも有利だと思っていた水魔法は温度が原因で直ぐに蒸発してしまうのでここでは一番相性が悪いらしい。
「よしっ……この調子ならマグマ・ロードなんて直ぐに」
「……おかしい」
「ルイスさん?」
順調に見えるマグマ・ロードの攻略だがルイスさんの顔は疑念に駆られていた。
「静かすぎます。モンスターがいるとはいえ前情報よりも数が少ない」
「僕達に怯えて逃げたんじゃないの?」
「それが理由ならありがたいですが……」
順調過ぎるということか。
でも何故いつもと違う?
「……ユウト何か動いてる。数は一匹、でも……このプレッシャーは?」
こちらを見つめるユリエスの顔は無限回廊よりも困惑と不安に染まっていた。
誰よりも敏感に正確な獣人族の鼻。一体何が起きてる?
ゴゴッ……。
何かが動く地響きのような鈍い音。
段々と大きくなり……近付いている。
迫って……迫って……迫って……。
ドガァァァン!
「っ!?」
地面を割る轟音と共に現れる巨大な何か。
芋虫から足を生やしたグロテスクな生物は黒色の巨体をうねらせこちらに突撃してくる。
「な、何だあいつ!?」
「馬鹿な……!? 何故ここに出現場所はここじゃ……!」
驚愕の顔に染まるルイスさん。
先程まで道であった地面を次々と破壊していきこちらを狙うスピードは止まらない。
「ルイスさんあれは!?」
「インフェルノキャタピラー……火山地帯に住み着いた上位モンスターです、Sランクでさえ苦戦する強さです!」
黒い外見には炎のようなラインが至るところに引かれている。
近づいてくるほど熱気が上がっていく。理性よりも前に本能が危機感を訴えている。
クォァァァァァァァァァァ!
鼓膜を超え心臓にまで響く鳴き声。
「おかしい……奴の出現は正規ルートには……」
「ヤバイよどんどん迫ってきてる!」
「とにかく逃げて! 後ろを振り返ってはいけない!」
馬に鞭を打ち全速力で駆ける。
背後から聞こえるのは辺りを破壊している音。迫り来る恐怖は尋常じゃない。
「エルパイス・アフェイル!」
甘い匂いのする液のような球体が出現し、先に見える2つに分岐しているルートの左側に放つ。
「相手の嗅覚を刺激する罠魔法です。あれでキャタピラーを誘導します、皆さんは右側の正規ルートに全速力で向かってください!」
「左側は?」
「簡単に言えば危険ルート、向かえばその先は灼熱の地獄です」
地形を利用して罠にはめる作戦か。
さすがルイスさんだ。このまま突っ切って奴を振り切____。
ドガァァァァァァン!
「えっ……?」
分岐に到達する直前……それは起こった。
地面へと潜り込んだキャタピラーは俺だけを狙うように飛び出し迫り来る。
思考が止まる。
絶望の光景に身体が動かない。
ここで死ぬ……?
「ユウトッ!」
「っ!」
雑音が聞こえる耳に介入した声。
ユリエスの必死の呼び掛けに俺はようやく我に返る。
「ユウトさん避けて!」
ダメだもう間に合わない。
こいつは俺を狙ってる。このまま正規ルートに向かえば全員に危険が及ぶ。
そうなるくらいなら……俺は……。
「すまないユリエス……!」
「っ! ユウト!」
一気にスズネの方向を切り替えキャタピラーと共に左のルートへと突っ込む……!
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