第36話 絶・体・絶・命

クォァァァァァァァァァ!!!


「チッ……!」


 奇声に近い鳴き声で俺を食らおうと突撃を行うインフェルノ・キャタピラー。

 断崖絶壁続きの道。進めば進むほど道は狭くなり真下には深い深いマグマが煮えたぎっている。


「しつこいんだよ!」


 どれだけ加速しても振り切ろうともいつまでもついてくる。

 鬼ごっこをしていてもこちらがスタミナ切れで死ぬだけか。


(ここで外れ威力なら一生恨むからな……!)


「ロック・フィスト……ラッシュ!」


 キャタピラーを囲うように魔法陣を出現させる。鬼ごっこは終わりだ。


ドドドドドドドドッ!


 拳の形をした岩はキャタピラーの全身をめり込ませ殴り飛ばす……!

 バランスを崩し吹き飛ばされたキャタピラーはマグマへと落下する。


クァァァァァァァァ!


 断末魔のような悲痛な叫び。ドボンという音と共にマグマの中へと吸い込まれた……。


「一生そこで燃えてろ……芋虫クソ野郎」


 危なかった。ここで運任せの効果で雑魚のような魔法が発動していたら死んでいた。

 毎回がギャンブルのような魔法。本当にぶっ飛んでイカれてる要素。


「取り敢えずはこの絶壁から抜けるか……」


 高所恐怖症なら失禁するほどの高さ。

 ルイスさんが言っていた通り確かに左は危険ルートだった。

 煮えたぎるマグマにゴツゴツした山。そして不安定で狭い足場。


 地獄度はさらに強くなってる。

 これがマグマ・ロードの真の姿か。


「っ! あそこなら」


 先に見える比較的足場が広い場所。安全とは言い切れないが一時的な休息をするには大丈夫なはずだ。


 それまで走らせたままだったスズネをようやく休ませる。

 これだけ走ったのに息切れは少ない。全くタフ過ぎる馬だ。


「しかしどうする……ユリエスもレシリーもルイスさんもいない」


 ここに来て初めての単独という状況。

 躁状態から抜けた瞬間、色々な負の感情が心に絡みついてくる。


 寂しい。怖い。不安。

 ダメだネガティブになっちゃいけない。

 ここで心が壊れたらおしまいだ。


「くっそ……」


「キュイ」


「ん?」

 

 この地獄に見合わぬ甲高い鳴き声。 

 目線を前にやるとそこには水色の外見をした美しい狐の小さなモンスター。


「シエル?」


 ルイスさんの肩に乗っかっていたサポートモンスターだ。だが何故ここに?

 あの衝撃ではぐれたのか?


「お前ルイスさんの所にいなかったのか?」


「キュィィ……」


「えっ」


 近付こうとした瞬間、俺をアッパーした時のような警戒の目に染まり鳴き声を上げる。


「おいおいこんな地獄のような場所でも警戒するのかよ……」


「キュィ……」


「お前が俺を嫌いなのは分かってる。でもここで仲違いしてても意味ないだろ? 嫌かもしれないけど仲良くしよう、な?」


 俺にはルイスさんみたいに中世的な絶世の美しさはないしあんな優雅さもない。

 

 あの人に比べれば見劣りすることは自分でも分かる。だがそれでも妥協して欲しい。


「……キュウ」


「そうか、ありがとうなシエル」


 妥協に次ぐ妥協の末のような顔でシエルはようやく俺の肩に乗り協力を受け入れる。

 でも何故そんな嫌われてるのか……。


 動物に嫌がられる匂いでもするのか?

 レシリーには好かれている匂いなのに。


「シエル、こっから脱出して全員と合流するルートとか分かるか?」


「キュイ」


 小さな丸い瞳が緑色に輝く。

 するとスクリーンのように火山地帯の全容らしいものが投影される。


「これマグマ・ロードの地形か?」


「キュ」

 

 YESを示すシエルの頷き。

 全体図には赤く点灯する3つの光。これは多分ユリエス達だろう。


「凄いな……こんなことも出来るのかよ」


「キュオ!」


 「どうだ凄いだろ」と言わんばかりの自慢顔。小さい見た目からは想像出来ないほど凄い万能だ。


「よし何となくだが全体図が掴めてきた。早く3人に合流しねぇと!」


 束の間の休息の後、再びスズネに鞭を打ちマグマ・ロードを駆ける。

 

 ユリエス達は正規ルートに向かった。ルイスさんもいるし安全なはず。


「足場が悪いな……」


 まともに整備されていない道。グラつきが激しく溶岩も近くで流れている状況。

 目的地が明確なだけでが不幸中の幸いだ。このまま突っ切れば合流出来る。


 そう希望に満ち溢れていた____。


「キュウ……」


「どうしたシエル?」


 突如シエルの様子がおかしくなる。

 何かに怯えているような、何かに驚いているような明確に言い表しずらい表情。


 目線はマグマを向いている。

 何を伝えたいんだ?


 ゴゴッ……ゴゴッ……。


 小さいが確かに聞こえる鈍い音。

 マグマの方からだ。

 噴火でも起きているのか?

 

 いやマグマにそんな様子はない。

 じゃあこの音は?

 

「まさか……いやそんなはずは」


 脳裏に過る最悪の予感。

 その予感はまもなく的中する。


クォァァァァァァァァァ!


 鳴り響くあの鳴き声。


「何……!?」


 地獄の溶岩から這い上がってくる脅威。それは先程叩き落としたはずのインフェルノ・キャタピラーだった。


 マグマを拭い黒い巨体をうねらせこちらに急接近する。

 

「馬鹿な死んでないのか!?」


 めり込んでいた身体は回復しておりマグマの熱を全く受け付けない。


 こいつ不死身か……!


「どうする……どうやって攻略する!?」

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