第25話 才ある者は嫉妬される運命
「ごめんなさい……」
「全く……急に何なのよ」
必死に謝り続けようやく許してくれた。今のは完全に俺が悪い。
周りにいた利用客だって俺のユリエスへのいきなりの告白に唖然としていた。
少なくともこんな大真面目な図書館でやることじゃない。
「本当にすみません……いや気を抜いてたというか何というか」
妄想というのは時にとんでもないことを引き起こす。でもユリエスがあんな近くにいるのに理性的になれるはずがない。
ていう言い訳をさせて欲しい。
「ここには何しに来たの? 王宮魔法派になるために勉強しに来たのよ! こんな……こんなことをやりに来たんじゃないのよ!」
「仰る通りです何も言い返せません……」
「……不意打ちなのよ」
「えっ? 今なんか」
「何でもないわよッ! 早く勉強を再開するわよ。時間ないんだから」
最後にボソッと何か聞こえたが正確には聞き取れなかった。
やってしまった。人生初の告白がこんな最悪な形になるなんて……今のところ踏んだり蹴ったりのダメダメ展開。
(カッコつかねぇな……)
だがその事が要因で勉強には集中出来るようになってきた。
ほぼゼロ距離のユリエスには頭がクラクラするが「嫌われたくない」っていう思いが煩悩に打ち勝ち理性を保っている。
それからというもの図書館でユリエスの指導は試験日までの2週間、徹底的に叩き込まれた。
非常に辛く死にかけたがそのお陰でこの世界の文字は何となくだが読めるようになってきた。
生きてきた中で初めて勉強を楽しいと思えたかもしれない。
「よしっ今日はここまでずいぶんと点数が上がったじゃない。これなら上級魔法派の試験もいける可能性が大いにある」
「ユリエスの指導のおかげだよ。スイスイと頭に入ってきた」
前世の頃の自慢話ばかりする塾講師とは大違いだ。出来る奴と出来ない奴の贔屓は酷かったし何より授業スピードが速すぎて訳が分からなかった。
その反面、ユリエスは厳しくも丁寧に俺に合わせて教えてくれた。クエストでも勉強でも感謝しかない。
「よしっ今日は明日の試験に備えてゆっくり休むか!」
無限回廊に帰還後から1日の大半を図書館の中で過ごしていた。
最初はレシリーが遊びに来ていたが案の定うるさく暴れたせいで追い出された。
「ユリエス今日も何処かに食べに行くか。行きたいとこは?」
「肉でお願い」
「また肉か? よく飽きないな」
「あぁいう噛みごたえのある方が腹も満たされるのよ」
ここ数日ユリエスは同じ肉屋で小柄で可愛らしい外見に似合わない肉を食していく。
マンガみたいな骨付き肉を鋭利な歯で噛みちぎり味わっていく。
「ん〜やはり美味しいわ♪」
そしてこの時だけはツンデレの仮面が外れ年相応の幸せな笑顔が毎回現れる。
一生見てられる。目の保養になるし心が浄化されていく。
「そういえばユリエス、獣人族っていうのはどんな種族なんだ?」
「えっ急に何かしら? いきなり私の種族を聞くなんて」
「少し気になっただけだよ」
「そうねぇ……と言っても特に何かある訳ではないわ。嗅覚が特殊ということ意外は特筆すべきことはない」
「学力とか魔力は? それと体力」
「並のクエストを攻略する魔法技術はあるし読み書きも簡単に覚えられるわよ? 体力は人間より少しは高いと思う。でもそれが?」
「いや……特に意味はないよ」
モンスターを感知する嗅覚。
優れた魔法能力。
高い身体能力と学力。
特徴を並べただけでもかなりハイスペックな種族。それに恐れられて故郷から追放されるユリエスは一体どれだけの実力者なのか。
魔法の平均的な強さはユリエスの方が強いし状況判断も冷静に出来る。
何でここまで強いのに奴隷になる道しかなかったのか不思議でならない。
というより……そんなに才能ある者なら奴隷以外の道なんて有にあるはず。
「さっそろそろ帰りましょうユウト、レシリーがまだかまだかと待ってるわよきっと」
まぁ強ければ幸せになれるとは限らない。追い出された後も弟達を巡って色々あったのだろう。
気になる部分はまだまだあるが深追いはしない方がいいな。
しつこくい男は嫌われる。
それが原因でユリエスに「最低ッ!」なんて言われて嫌われたら俺のメンタルが一気に崩壊する。
「ユリエスありがとな」
「な、何よ急に」
「お前がいてくれて色々助かったよ。少なくとも俺はお前に凄い感謝してるし好……」
「す……?」
いけない。また理性を超えて告白してしまうところだった。
「いや何でもない。とにかく感謝してるよ!」
「感謝されるほどのことをしてないわよ。私が好きでやってるだけなんだから。それに貴方の頑張りだしね」
そういう謙虚な部分もたまらない。ユリエスと時間を共にしていく度に好きの具合も比例していく。
ユリエスのためにも上級魔法派試験には絶対に受かってやる。
満月が輝く空を窓越しに見つめながらそう心の中で決心した。
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