第24話 最悪の告白
「上級魔法派にですか?」
「はい、年に1回上級魔法派になる試験が行われてまして。合格するのはとても狭き門ですが受けて損はないと思います」
ルイスさんの説明によれば上級魔法派はこの世界の顔パスのような権威。
各王国の城への入城簡易化。
ギルド加入時の優遇。
Aランクへの繰り上げ昇格。
世間評価の上昇。
まぁ他にもあったが上級魔法派になればこの世界で生きてく上では色々有利らしい。
レシリーのような武具派にも同じような権威があるらしいが今は試験をやっていない。
しかしこれからにおいて安定した権威があるのはこれから世界の謎を解いていく上で必要不可欠。
その提案を拒否する理由は俺にはない。
「分かりました。でも上級魔法派ってどうやってなるんです?魔力確認とか?」
「いえ筆記試験と実技試験があります」
「筆記試験!?」
「はい! 歴史、武具の扱い、文章力、生物学、その他諸々の広く浅い一般知識を求められます、上級魔法派は魔法が強いだけでは認められません」
おい嘘だろまだ文字すら理解してないんだぞ!?
それなのに一般知識!?
まだ実技試験ならどうにかなるはず。だが知識を問われる観点が入るとなると話は別だ。
地頭は悪くないと思うが……校内では社会以外は平均点よりちょっと下の結果だった。
最悪だ。一気に追い詰められた。ここでもまた勉強をすることになるなんて。
「あの実技試験の成績が良かったら筆記試験は無くなるとかは……」
「ありません。合格ラインを超えなければ実技が高くても不合格です、教養がない人にそんな権威を与えるのは危険ですから」
きっぱり言われた。
まぁそうですよねワンチャンどうにかなると思っていた俺が甘えてました。
「ここでも学力かよ……」
ため息と共に出る覇気のない消えるような声。さっきまで無限回廊を攻略した達成感などは一気に消える。
まぁそんな都合のいい話もないか。
異世界に転生したから美少女からモテてデメリットなしの力得てハーレム築いて……なんて結局は夢物語。
どんな世界にも苦難や理不尽があるし世界は自分中心に回っていない。
だからと言って駄々こねて甘えるのはいずれ自分が腐る。
心地よく眠る2人とは裏腹に俺はこれからの苦難に頭を抱えフリラード王国へと帰国した。
「はぁ……」
「何よユウト、そんな辛気臭い顔して」
「マスターほらっ笑顔笑顔!」
「笑いたいなら笑いたいよ……」
帰ってからも絶望感は拭えない。学とは無縁の世界と思っていたからこそ尚。
上級魔法派にならなきゃ死ぬとかいう訳ではないがこれから先のことを考えるとなっておいた方が有利のはずだ。
だが勉強か……。サボり癖のあるだらしない俺がやっていけるのだろうか。
2人に事情を説明して今後の動きを伝える。
「えぇ勉強!? 嫌だなぁそんなことしないでもっとクエストに行こうよ〜楽しいよ?」
「ダメよ、上級魔法派になれるのは年で1回しかないのよ。ユウト私が勉強を教えるから頑張りましょう!」
「いやいやマスター、そんなのなくてもいいでしょ? 楽しい生活を送ろう!」
「上級魔法派になれたら有利になれる。ここは我慢よ。クエストは後回し」
「ユリエス! マスターをそっちに引き込まないで!」
「レシリーこそユウトを甘やかすんじゃないわよ!」
「クエスト!」
「勉強!」
「ち、ちょっと2人共」
「「ユウト(マスター)は黙ってて!」」
「はいすみません!」
終わらない言葉のドッジボールに割って入ることが出来ない。
いや何で当事者の俺が蚊帳の外みたいになってんだよ。
「マスターは僕と一緒に楽しく破壊を楽しむの!」
「ユウトは私と一緒に上級魔法派になるのよ! 戦いも勉強も鍛錬が必要。楽してたら何にもならないわ」
「楽することの何が悪いのさ! 楽しいことをするだけでいいじゃん!」
レシリー、俺だって楽したいよそっちに行きたいよもっと色んなとこに行きたいよ。
でも駄目なんだ、進めないんだそのまま楽の道を進んでいたら。
「マスター! 僕と一緒に行こうよ!」
「悪いレシリー……俺は上級魔法派にならなきゃいけないんだよ」
「そんなぁ!?」
レシリーは最後まで駄々をこねていたがようやく観念し受け入れてくれた。
「暫くはキツい時間が続くな」
数時間前の俺はこうなることを想像出来ていただろうか。
命をすり減らした刺激的な戦い……とは正反対に俺は王国図書館で無限にも感じる時間を過ごしている。
山積みのぶ厚い本と格闘しながら。
「ほらっユウトここ間違ってる。石道戦争での王国の陣形はファランクスではなくテルシオよ」
ユリエスとのマンツーマン授業。不正解を指摘される度に無力を感じる。
前世の頃も模試の結果が返される時にこんな気持ちになっていたな。
低い点数取れば親からキレられたり先生からはネチネチ説教されたりと散々だった記憶しかない。
「辛い……」
「ほらまだ休まない時間がないんだから。あと50問頑張ったら休憩していいわよ」
たがユリエスは教え方も上手くストレスなんて皆無。ズバズバと頭に知識が入ってくる。その反面労力が凄まじいが。
「次の問題、フリラード王国の6代目の王は基盤強化の為に……」
(しかし……)
可愛い。ツンとしたキツめの横顔。幼さと大人な雰囲気が混じっている。
ムスッとした顔も笑顔もいいがこういう真面目な無表情も最高にいい。
風呂上がりのシャンプーのようなユリエスの匂いは鼻孔を快楽に包み理性をドロドロに溶かしていく。
ついつい男だと言うことを忘れてしまう。前世にもこんな美貌を兼ね備えた人はいなかった。
「ユウト?」
何か凄くドキドキしてる。まさか恋でもしてるのか?いやいやいやユリエスは男だ。男に恋をするなんて……。
「ユウト、ユウトってば」
いや何で性別にこだわっている?
ユリエスを俺は可愛いと思ってる。完全に見惚れてる。
付き合えるチャンスがあるなら付き合いたい。その心情に男と女という部分を気にするのは必要ないんじゃないか?
「ちょユウト?」
年齢も同じ17歳。そうだ男だから女だから付き合う付き合わないとかじゃない。
俺はユリエスに惚れたんだ。性別なんて関係ない。顔も身体も匂いも性格も声も全てが俺の心を射抜いたんだ。
「あのユウト話聞いてる?」
「愛してる」
「へっ?」
「……ハッ!?」
気付いた頃にはもう遅かった。下心満載の妄想は考えるよりも先に口を動かしていた。
「ち、違っ! 今のは!?」
「なっ……なっ……!」
顔がダルマのように赤面していくユリエス。ヤバい嫌な予感がする。
「いきなり何を言うのよ……」
「ちょ待っ」
「こんの馬鹿ァァァァァァ!」
ドゴォォ!
「ごぶぇ!?」
制裁の蹴りは俺の腹をえぐり天井までブッ飛ばした……。
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