第23話 なぜ転生者は残酷な選択をした?

「えっいや……はぁっ!?」


 何回も宝箱を開閉しても確認しても結果は変わらない。隠し装置があるのかとしつこいほどに宝箱を調べても何もない。


 ここには宝のしかない。


「最悪だガセかよ……」   


 騙された俺を殴りたい。


 さっきまで胸いっぱいに広がっていた希望やら欲望は一瞬で消え失せた。


 確かに胡散臭い雰囲気は少しはあった。財宝が眠るなんてそんな夢のあること。

 だがあんないかにも凄そうな宝箱があったらさすがに期待するじゃねぇか!


「宝もない……情報もない……あぁもう何のためにここに挑んだんだ……」


「マ、マスターほらっこういうこともあるよ! ほらっ元気出してエイエイオー!」 

 

 善意でレシリーは言ってくれてるのだろうがその慰めが1番心に来る。

 いっその事思いっきり罵倒されて殴られた方がマシだ。


「待ってユウト、何かある」


「何言ってんだよそこに宝なんか……」


「これ……金塊だわ」


「へっ?」


 ビー玉よりも小さいデコボコした球体。夕日に照らすと綺羅びやかな輝きを放つ。

 ユリエスの手のひらに乗る球体をよく見ると金色に輝いている。


「これ金塊よ。凄く小さいけど」


「そんな……てことはここには」


「嘘じゃないあったのよ。きっとここには目も眩むような財宝が」 


 誰かが既に攻略して財宝を得たのか?


 辻褄が合わない。この宝箱は無限回廊が崩落して初めて出現した。もし誰かが既に攻略済みなら何故


 他の方法があったのか?

 

「……ん」


「ん?」


 何処からか聞こえる小さい声。徐々に大きくなっていく。


「ユウトさーん!」


「ルイスさん……!」


 その特徴的な十字架の瞳を見た瞬間、安心感が身体の中を駆け巡る。


 背後にはルイスさんが要請してくれたであろう騎士団のような兵士達がゾロゾロといる。


 人がたくさんいるだけでここまで安心出来るなんて前世にいたら経験出来なかった。


「良かった無事だったんですね……お怪我はありませんか?何か呪いに掛かってるとか!?」


「大丈夫ですよ。特に何事もなく無限回廊は


「えっ?」


「ん?」


「えっこ、攻略……? 無限回廊を?」


「えぇその証拠に」  


 原型をとどめてないほどに崩壊した無限回廊の残骸を見せる。

 

「こうやって壊れてますから」


「「「はぁぁぁぁぁぁ!?」」」


 な、何だ、何でそんな阿鼻叫喚のような声が上がるんだ?

 ルイスさんだけじゃない。俺達を除いた全員が。


「禁忌と言われたダンジョンですよ!? 何でそんなに軽々しく攻略出来たんですか!? ユウトさん貴方は一体……何者ですか?」

  

 あぁ……言われてみればそうだ。


 冷静に考えればルイスさんから見れば得体の知れないヤバい奴と思われてもおかしくない。

 しまった、はぐらかせば良かった。変に目立つのはしたくない。


「ま、まぁ偶然ですよ。さっ帰りましょう」


「いや偶然って言葉で片付けられるほどのことでは……」


「いいからいいから!」


 勢いでゴリ押すしかない。これ以上質問されたら回避出来ない。

 質問されたことに冗談を交えて完璧に返すほどの口達者な技術はない。


「2人とも今回の詳細は他言無用で頼む」


「分かった、マスターが無限回廊を凄い魔法で攻略したってことを黙ればいいんだね!」


「お前はもう口を開くな」


「えぇ!?」



* * *



 危なかった……。後少しでバレるところだった。本当にレシリーは純粋な天然なのかそれとも狙ってるのか。


 どちらにしろとてつもなくヒヤヒヤする。次に何を言うかが予測不能だ。


「ユウトさん、お連れの方も眠っているようですし少しお話いいですか?」


「えっ? あぁもちろんいいですよ」


 ユリエスもレシリーも疲れからか肩を寄せ合ってぐっすりと眠っている。


 馬車の荷台の上はガタガタしておりお世辞にも寝心地がいいとは言えないがそれほど深い眠りなのだろう。


「ユウトさん、無限回廊はどうやって攻略したんですか?」


 まずい、またその話を振られた。


「えっと……まぁ直感で」


 正直、あの脳筋なやり方が正攻法だとは思っていない。多分邪道。

 それに倒せたのは俺の魔法が運良く絶大な威力で発動したからだ。


 誰かにオススメできる話じゃない。だからこそという言葉以外適切な表現が特に思いつかない。


「は、はぁ……そういえばお目当てのモノは見つかったんですか? 3年前の方の情報は」


「いえ特に何も、ただちょっとした疑問が」


「疑問?」


 引っ掛かっている不可解な謎。何故そうなったのか全く意図が掴めない。


「例の財宝の噂について、あれは無限回廊を攻略後に出現しました。そして……中身は全てカラになっています」


 財宝の在処について____。

 

「つまりそれは……ユウトさんよりも前に誰かが攻略したということですか?」


「はいでもそれではおかしいんです。仮に3年前の人物が攻略した場合


 ここ3年他に挑んだ者がいないとなれば例の人物が攻略したという可能性が極めて高い。


 だがおかしい。攻略したというのに何故報告をしなかったのか。

 

 何より俺みたいな命知らずと言われる奴らが挑むリスクも防げたはず。


 常軌を逸している。何を血迷ってそんなことをした。

 善と悪が揺らいでしまう程の深刻な状況だったというのか?

 

「なるほど……確かにユウトさんの考えでいえば理性ある行動とはいえない。しかしフリラード王国は国の中でも田舎です。情報収集にも限界があります」


 えっあれで田舎の王国だったの?

 全くそうは見えなかったが……人が多かったし水も多くて美しかった。

 

 しかし逆に言えばフリラード王国以上に栄えてる国が幾つもあるということか。

 転生者だけじゃない、女のいない理由だとか天使の秘密も分かるかもしれない。


「ですのでユウトさん、になりませんか?」




 




 


 


 



 





 

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