第22話 無限回廊③

「この壁も地面もモンスターなんだ、それさえ分かれば後は壊すだけだ!」


「つまりマスター……この建物全部ヤッちゃっていいんだよねぇ!?」


「あぁ好き勝手壊しまくれ、全部な!」


 色々と考えて頭が疲れた。今からはその鬱憤を晴らさせてもらう。


 カラクリさえ当たればもう何も怖くない。


「イヤッハァァァァ!」


「シャイニング・シャベリン!」


「フレイム・バスター!」

 

 破壊。破壊。破壊。

 破壊。破壊。破壊。

 破壊。破壊。破壊。


 破壊に次ぐ破壊。力のある限り無限回廊の内部をストレスを込めてぶっ壊していく。


 運任せの魔法を配慮せずに初めて使う。好きに自由に魔法を放てる状況に心の何処かでは喜んでいる。


「もっとだ、もっと壊せ!」


 戦闘狂になった気分。だがこれでいい。


 ゴゴッ……ゴッ……ゴゴゴゴコゴッ……!


 破壊を重ねていく内に地面は地震のようにゆれ動き始めてきた。ダメージが入っている証拠だろう。


「いいぞユリエス、レシリー、このまま内側から壊して……えっ?」


 閉鎖的な感覚が消えるくらい辺りを破壊しもう一歩となった矢先のこと……。

 突如地面や壁が動き出し石の壁や階段をする。


 こいつ再生の機能を持っているのか。


「チッこれじゃ終わらない!」


 負けじと破壊を続けるが驚異的なスピードで無限回廊は再構築を行い再生していく。

 一進一退の終わらぬ攻防。


「ぐっ……魔力が……」


「マスター僕も流石に疲れてきたよ……」


 2人の体力も限界が近い。俺も体力が徐々にだが確実に減っている。

 ここらで決めないと折角突破口を見出したのに無限回廊から永遠に抜け出せない。


「ユリエス、レシリー、下がってろ」


 遠慮はいらないんだ。それにこの再生能力を超えるにはやりすぎな程の威力の魔法が必要。

 それをやれる可能性があるのは俺だけだ。


「行くぞ……」


 意識を集中する。ただこの場所を破壊することだけを考え魔法を作り出す。


「マスター、一体何を?」


「見てなさいレシリー、貴方でも驚愕するくらいのモノが来るわよ」


 俺の魔法にリミッターなんて言葉は存在しない。こんな偽りの迷宮、ブッ壊してやる。


「ぶっ飛べ……インフェルノ・ドライヴ!」


 灼熱の6つの炎が螺旋を描き全てを破壊し焼き切る!


 ポスッ……。


「えっ?」


「はっ?」 


「ん?」


 小さい炎がちょびっと出てそのまま煙となって消えた……。


(何でここで弱くなるんだよぉぉぉぉぉ!?)

 

 今絶対に決める雰囲気だった。

 何でこんな時に弱くなる。カッコつけた俺が馬鹿みたいじゃないか。

 

 身勝手な悪戯にも程がある。


「えっ今の?」


「……今のは忘れろ」


 ずっと思ってたが何で運任せなんかの力を与えたんだよあの神様は。

 普通に強いってだけでいいじゃないか。何で誰も得しないような副作用つけたんだよ。


 何か色々とトサカに来た……。

 ユリエスの前でもレシリーの前でも醜態を晒す羽目になった。


「ふざけんなよあの神ぃ……!」


 借りてる立場といえどこんなスキルは滅茶苦茶だ。どんな威力が出るのか分からないせいで毎回ビクビクしながら戦う。

 

 こんなの……こんなのって……!

 

「レイズ・ブラスタァァァ!」


 カッコつけだとかそんなのどうでもよくなった。やり場のない怒りだけを込めてプラズマが走る黒き波動砲を放つ!


「マ、マスター!?」


 先程の不甲斐ない魔法とは比べ物にならないサイズ。放たれた瞬間、再生が間に合わないほどに次々と辺りを破壊し尽くす。


 響き渡る轟音。広がる衝撃波。上空を舞う死神をも巻き込み波動砲は全てを蹴散らした_____。





* * *





「っ……」


 鼻孔を刺激する息苦しい埃。頬に伝う土の感覚。


(終わったのか?)


 どうやら俺は地面に倒れているらしい。あの魔法の勢いに耐えきれず吹き飛ばされたのか。身体は痛いが幸い怪我はない。


 俺達を閉じ込めていた無限回廊は跡形もなく崩壊していた。


「っ! ユリエス! レシリー!」


 2人の姿が見当たらない。まさかあの魔法のせいで何処かに吹き飛ばされたのか。


「……ーい」


 何処からか聞こえる声。


「おーいマスターどこー?」


「その声はレシリーか!」


 急いで声のする方向へと駆けつける。しまった威力が高すぎた。


「レシリー!」


「あっマスター!」 


「怪我はないか?」


「大丈夫大丈夫、ユリエスも僕が守っておいたよ」


 2人とも奇跡的に無傷。レシリーの大剣が魔法の盾となったということか。


「すまない……2人のことを考えずに魔法を使って」


「いや寧ろ凄いのが見れたよ。あんな強い魔法初めて見た! どうやったの!?」


 目をキラキラさせグイグイと迫ってくるレシリー。もはや犬のように見えてきた。


「ユリエスは大丈夫か?」


「えぇレシリーが守ってくれたおかげで。しかし相変わらずのイカれた威力ね」


「すまない、2人に危険な目を……」


 やっぱり不安定過ぎる魔法。弱すぎる魔法が出たと思ったら次はとてつもない威力の魔法が出る。

 頭がおかしくなってくる。


「もういいわよ。貴方のおかげで攻略が出来たんだから」


「まっクリアしたんだからもういいじゃん!結果オーライ、結果オーライ!」


 過程はどうあれ俺達は何百人もを餌食にした無限回廊を突破した。

 達成感に浸りたいが、転生者に関するようなヒントは結局何も得られなかった。


(成果はなしか……)


 真上に昇っていた日は既に夕日へと変わっている。そんなに時間が経っていたのか。


「そうだな、少しだけこの余韻に浸って……ん?」


 粉々に砕け散った場所に青白い光が灯る。

 

 次の瞬間、投影されたようにレーザーのような物を放ちながら長方形を形成する。


 完成したのは1つの巨大な赤い箱。黄金の装飾がされ夕日に照らされ綺羅びやかに輝いている。 


「条件魔法と投影魔法の組み合わせ……?」


「ユリエス?」


「魔法に条件を課して発動させる魔法、そして空間に物体を作る特殊魔法よ。無限回廊の崩落がトリガーで発動したんだと思うわ」


 そんな便利な魔法もあるのか。

 そういえば俺の魔法にも似たような魔法があったはず……。


「にしても何かしらアレ。宝箱?」


「宝箱……ハッ!」 


 <目が眩むほどの財宝が眠っているという噂もありましてね、恐らくはそれが欲しかったのかなと>


 そういえばルイスさんはこんなことを言っていた。目が眩むほどの財宝が眠っている。


「てことはあそこにお宝が!」


 冒険者を何人も餌食にした場所だ。それはそれはとてつもない宝が眠っているはず。


「マスターどうしたの?」


「レシリー、ユリエス、あそこに眠ってるかもしれないぞ。宝の山が!」


「宝の山!?」


 使い切れないほどの金の山か。それとも色とりどりの宝石か。


 転生者のヒントは特に得られなかったが目も眩む宝を得られればこのクエストを受けた意味は大いにある。


「いくぞ……」


 全員が生ツバをゴクリと飲み込み今か今かと宝箱を凝視する。

 有頂天に達した期待を込めて勢いよく宝箱を豪快に開ける!


「「「えっ?」」」


 から


 何もない。金の山も宝石もない。あるのはもぬけの殻となった豪華な箱だけ。


 宝箱には……何もない。

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